吹き荒ぶ風が肌を撫で、髪とローブの布を煩く巻き上げる。
その中に、慣れ親しんだ雷鳴の音や、妖精の嘯きが聞こえない事に気がついて、シオンは億劫さを振り払いやっとその身を起き上がらせた。
彼女が眠りこけていたのは、どうやらかなり高くまで聳える丘の上。
「土……」
まずシオンが認識したのは、己が身を横たえていたその下にある、小さな野草が生い茂る湿った土だった。
手が汚れるのも気にせず掬い上げると、この十年でよくよく見知った乾いた砂とは全く異なる重みと湿り気がほろりと崩れる。
次にシオンは、天を振り仰いだ。
そこには抜けるような蒼天が広がっていた。
もう二度と見ることは無いと思っていた、青空の色だった。