第三話 神楽坂代理認定
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今、私は現実の世界にいるのだろうか。
それとも、私の願望が具現化した世界にいるのだろうか。
私は死ぬはずだった大護さんを自分の中に繋ぎ止めた。
初めて自分の『能力』に感謝したが、大護さんは不満そうだった。
当たり前だ。自分の肉体は死んでしまったのだから。
だから、私は大護さんが私の肉体に宿っても不便が無いように、最大限努力した。
これからも大護さんのお役にたちたい。これからも大護さんの傍にいたい。
それが大護さんに救っていただいた、私の存在意義。
大護さんに出会うまでの私は、まるで暗闇の中にいるようだった。
本当は皆とお話をしたい。でも、『能力』のせいで私は他人の意志が入り込んで来たり、自分の意志が伝わってしまったりしてしまう。
だから、皆とは距離を取るしかなかった。
でも、大護さんはそんな私を暗闇から救い出してくれた。
自分の意志を伝える大切さを教えてくれただけでなく、私の意志も『能力』も受け入れてくれた。
だから私は大護さんのお役にたちたい。彼のために生きていたい。
彼が私のことを心配してくれるのもわかっている。けれども、私は彼のために生きたいのだ。
彼にとって、私が特別な存在であることが嬉しいのだ。
だから私は恐れている。彼が私から離れて行ってしまうことを恐れている。
彼が私の中から消えてしまうことを恐れている。
そしてその恐怖は、現実のものになりつつある。
彼が意識を失う時間が、増えているのだ。
中倉に『能力』を使ったあの日から、大護さんは一週間もの間、私の呼びかけに応じることが出来なかった。
当然、私が彼と交代することも出来なかったし、その間の記憶も無いようだった。
さらに、中倉に制裁を下したことを伝えると、また意識を失ってしまった。
単なる睡眠時間にしては長すぎると思った。まさか、本来の体では無いためなのか、あるいは二つの人格が同居していることを体が拒否しているのか。
いずれにしてもまずい。このままでは大護さんが消えてしまうかもしれない。
一刻も早く、対策を考える必要があった。
だからこそだ。私が目の前の光景を自分の願望の具現化だと感じたのは。
私の前に、一人の男子生徒がいる。
ただの男子生徒でない。
その顔は、その姿は、まさしく。