■前回までのあらすじ■

 ・魔法使い

 










 鳥のさえずりに畑の匂い。そこで働く人々の歌声。
 懐かしいな、この空気。
 山中の気配とはまた違う、人の生活する空気だ。

ユリウス

久しぶりだなあ、村に降りるのは

おじさん

ここはイチバンメの村です

ユリウス

あ、おじさん

おじさん

おー、ユリウスか。久しぶりだなあ。

おじさん

今日は母さんのお使いか?

ユリウス

旅に出たのです。魔王が復活したと聞きましたので

おじさん

そうかあ。じゃあ親父の跡を継いだってことだな。立派になったものじゃないか

ユリウス

おじさんは村の入り口で何を?

おじさん

見てわからんか?

おじさん

ここはイチバンメの村です

ユリウス

えーと

おじさん

おじさんは仕事中なんだ。村に入ってきた人に村名を言う仕事だよ

ユリウス

仕事なんですかそれ

おじさん

まあ誰もやりたがらん仕事だよ。最近は必要ないって意見も多くてな、廃業してるところも多い。

おじさん

これも時代かねえ……90年代のRPGならどこの村や町にも居たもんだが

ユリウス

え?

おじさん

おっと、愚痴っぽくなったな。

おじさん

それよりも、勇者様にお願いしたいことがあるんだが良いか?

ユリウス

はい?

おじさん

実はな、村外れにある洞窟に何やら怪物が住み着いていてな。退治に向かうかどうか、村の連中で話し合っているのだが

ユリウス

え!? 怪物ですか!

おじさん

ああ。ユリウスが行ってくれるなら安心なんだがなあ

ユリウス

これだ。
モンスター退治だ!
こういうのだ! 

私はこういうのを待っていた!

ユリウス

任せてください!

おじさん

おお、やる気満々だな

ユリウス

ええ。勇者ですから

 小さな村に忍び寄る黒い影! 

 救いを求める人々の声!

 勇者最初の冒険だ!













 おじさんの言っていた洞窟はここか。

 この中に怪物が……
 逸る気持ちを抑えて、私は洞窟の中を覗き込んだ。

ユリウス

……ん?

ユリウス

何か聞こえるぞ……人の声?

グリフォン

それでマニエラちゃん、戦いもせずに戻ってきたの?

グリフォン

困るわあ、それ。
上に報告するの私なんだから

マニエラ

計画を立て直します。真正面から当たってもまず勇者は破れません。すでに聖剣を持っているのは計算外でした

グリフォン

いや、でもさ、少し様子を見るくらいはできたんじゃない? いきなり逃げ出さなくても……

マニエラ

勝手な判断をしてしまいました。
申し訳ありません。

マニエラ

ですがあの場では戦うよりも、情報を持ち帰り検討することが最優先と考えました。

マニエラ

それに、すでに第二案を考えてあります。

モンスター

うーん。マニエラちゃんにそう言われると私も反論できないのよね。

グリフォン

ま、いいわ。話してちょうだい

マニエラ

まずはこの洞窟に勇者をおびき寄せます。
周囲に村がありましたから村の畑を襲うのがちょうど良いかと。

もちろん、事前に近隣住民の方の許可を得るのは必須ですが……

マニエラ

畑を襲い、洞窟に怪物がすんでいるという評判を立てます。怪物の評判を聞けば勇者も黙ってはいないでしょう。

まず間違いなく勇者は洞窟を訪れます。
勇者が姿を見せたら、事前に待機させておいたモンスターで勇者を囲み、襲撃します。

マニエラ

洞窟内なら勇者も聖剣を使えません。洞窟が崩落しますから。物量で押し込めばひとひねりです。

グリフォン

悪くないけど、うーん。

グリフォン

囲む用のモンスター集めるのも大変よ?
予算降りるかなあ

マニエラ

大丈夫です、それも考えがあります。

マニエラ

期限間際のスライムが東北の在庫センターに余っていますから、それを一気に投入すればどうでしょう。

廃棄寸前のスライムですから、使用の許可さえ取れれば可能かと

グリフォン

あ、そうなの。
別に私が襲っても良いんだけど、どう思う?

マニエラ

先輩はまだ控えていてください。グリフォンクラスはもっと後半に出すべきです

グリフォン

そうかしら。
マニエラちゃんがそう言うなら、いいわ。

稟議書だしといてくれる?

マニエラ

お任せください。

ユリウス

……

マニエラ

グリフォン

……

ユリウス

あ、あの

マニエラ

なんでここにいるのよ

ユリウス

た、立ち聞きしてすいません。でも洞窟に怪物が住み着いたって聞いたもので

グリフォン

あ、ひょっとして私のこと? 

うそぉ、もう見られちゃったのかしら。
村の人に見られないようにってけっこう気を付けてたのにぃ。

グリフォン

ところでマニエラちゃん、彼は?

マニエラ

勇者です。勇者ユリウス

グリフォン

え!?

ユリウス

あの、勇者です

マニエラ

……

ユリウス

……

グリフォン

……

グリフォン

キシャアアアア!

ユリウス

え!? いきなり!?

ユリウス

クッ!

 焼け付くような痛み――鮮血が噴き出した!

ユリウス

ウ……あれ

ユリウス

……痛くない

 人差指にはめた指輪が、暖かな光を放っていた。

ユリウス

これは……精霊のお守りのおかげか

グリフォン

え、なにそれ? なんで死なないの?

マニエラ

先輩、喋り方!

グリフォン

あ、ごめん。

グリフォン

フシャアアアア!


 再び振り上げられる前脚。
 とっさに身を投げ出してかわす。

 洞窟の壁に鋭い爪痕が残った。

ユリウス

そっちがその気なら!

 私は聖剣の柄を握り――

マニエラ

あ、バカ! 待ちなさい!

 怒鳴られたけど――止められなかった。

マニエラ

こんなところで!

マニエラ

聖剣なんか――!

グリフォン

崩れるわよ!

ユリウス

あ。















 轟音。

 崩落の、音が聞こえた。

 ……
 …………
 ………………
























ユリウス

真っ暗だ……何も見えない

ユリウス

もう一度聖剣を使うか? 崩れた天井を吹き飛ばせれば。脱出できるかも知れない。

ユリウス

でも、なんだか、体が……




 息が苦しい。

 しまった。酸素が……

 呼吸が、できなくなってきた。






 手から聖剣が、落ちた。
 このままでは、まずい。
 どんな怪我でも治せるとはいえ、死んでしまう。

 呼吸ができなければ……生きてはいられない。

 こんなところで……まだ旅立ったばかりで。

 勇者として何も残せていないのに……

 モンスターの一匹も倒せず……

 そもそも王様に謁見もしていない……

 ただの崩落事故で……死ぬのか……







ユリウス

……

ユリウス

…………

ユリウス

………………

ユリウス

え、ホントに終わり?

勇者ユリウスの冒険 第三話

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