〜楽しい純文学作品を見つけてみよう! Part2〜

さて、次行くか

そうやって水増しする戦法だね。ダンディー先生

うっせ! そうやらねえと続かねえんだよコレ。ラノベだって、変な言葉だけで半ページ埋めていたりするだろ

せやね。じゃあ、どうぞ

どうぞ……って。昭和二十年に一度廃止された芥川賞は復活する予定だったんだけど、実は戦後の動乱で四年間という長きにわたって中止していた。これ豆知識な

どうして?

まー。戦後の動乱でインフレやら出版社の崩壊とかあったしね。さらにいうと文春の幹部だった菊池寛や永井龍男が戦前の責任を取って公職追放を受けたりねえ。(永井龍男は追放と言われるがリストには載っていない)金もない、役者も揃っていない。だから、落ち着くまで……

なるほど、そうだったのですか……

んで、昭和二十四年復活した折の芥川賞。小谷剛『確証』『本の話』。面白みがない。以下略

略www

性をずんべら書いてるのと私小説。時代遅れ。そして、次の回、井上靖『闘牛』。これはお勧め。

まあ、井上靖ですからねえ……

闘牛は新聞社の名誉をかけて闘牛大会を開催しようとする人々たちの騒乱を描いた。後、『猟銃』ってのがあるけど……これは芥川賞全集には出ていない

井上靖はしっかりとしているし、この人の作品は純、大衆問わずに優れているよね

せやな。その次の辻亮一の『異邦人』は戦争の記録としては取れるが面白くは……だいたい、この回は遺恨を残したんだよ

遺恨を?

ああ。田宮虎彦って作家がノミネートされたんだけど、余りにも上手すぎるって理由で落とされた

え⁈

うむ。マジマジ。こんなの、田宮虎彦と金達寿くれえだよ。黒田夏子なんてよくわからねえ作品書いて、あんな作文で、村上龍がこれだけの人を賞にするのは……なんてべんじゃらこきあがって、笑っちゃったよ

なるほど……遺恨の選考会ですか

田宮虎彦も面白いから、後であげよう

で、次は?

せやなあ……安部公房の『壁』……安部公房はハマる人はハマるけど、いきなりこんなの読んだら純文学アレルギー出来かねないな。石川利光の『春の草』は面白くない。その次の堀田善衛『広場の孤独』『漢奸』は、エネルギーや筆力には凄まじいものがあるけど、難しいなあ。

やはり、第二次戦後派らしいね……

その次の五味康祐の『喪神』、松本清張の『或る「小倉日記伝』これは高く買える。特に後者。

まあ、松本清張は未だに根強いファンがいるから……

前者の喪神は人殺しの剣を持つ老剣士とその剣士に父を殺され仇を打とうとする息子が複雑な関係で同居をするというネタだ

へえ。人殺しの剣って、ラノベみたいね

まあ、チート、ではないけどね。最後があっけない。なんというか時代小説の絵本みたいなもんだね

短いのですか?

短いで

小倉日記は?

これは悲劇であり、推理小説的でもある。坂口安吾が老練と評したのは間違いではないね

純文学で推理小説的

うむ。まあ、一言で言えば田上耕作という生まれつきハンディを持った男が差別や屈辱を耐えながら、一生の仕事として、その当時行方不明だった森鴎外の『小倉日記』の復元を志すんだけど……というネタ

復元かあ

そう。そこで様々な人物とかを訪ねて、聞き書きするんだけれども、最後は清張らしい悲しい終わり方をする

そりゃ期待だね

ふむ。んで、その次、安岡章太郎『陰気な愉しみ』『悪い仲間』……ラノベみたいで日常がちょこちょこ書かれているけども……まあ、安岡章太郎以下、吉行淳之介『驟雨』、庄野潤三『プールサイド小景』、小島信夫『アメリカンスクール』、遠藤周作『白い人』、石原慎太郎『太陽の季節』、近藤啓太郎『海人舟』、菊村到『硫黄島』、開高健『裸の王様』、大江健三郎『飼育』まで、先述したし、この人たちはーー石原慎太郎を除いてーー純文学語る上で欠かせないから、このスペースでは足りない

その中で面白いのは?

安岡章太郎、小島信夫は今の日本に合うかなあ。石原慎太郎は時代遅れだが、ラノベ的な……一種の風俗とみれば読めるし、菊村到は事件小説っぽくて面白い。開高健も気持ちいいな

なるほど……

その次は?

北杜夫の『夜と霧の隅で』これは、長い。そして難しい。北杜夫の作品ならもっといいのがあるし、純文学的とは言えないが、どくとるマンボウの方がよほど面白い

出た。どくとるマンボウ。あれはユーモア小説だよね

せやな。で、その次が三浦哲郎の『忍ぶ川』……まあ、幼い恋愛話だけど汚いところがなくて、優しい世界の作品。疲れた時に飲むお茶やつまむチョコみたいな作品だわな。短くて読みやすい。面白いかというとどぎつさに欠けるけど……

恋愛話か……その次は?

せやなあ。この後が不作で面白みが欠ける。寧ろ、直木賞が豊作続きというね。

豊作とは?

ふむ。第四十二回に司馬遼太郎が受賞して以来、戸板康二、池波正太郎、黒岩重吾、寺内大吉、水上勉、伊藤桂一、杉森久英、杉本苑子、山口瞳、安藤鶴夫、和田芳恵と続く…………まあ、何人か純文学書いているから、また後で紹介するね

で、本題の芥川賞は……?

宇能鴻一郎の『鯨神』は面白いけど、今、捕鯨とか揉めてるし、今あるような凄みはないね。その次の川村晃『美談の出発』……さらにその次の後藤紀一の『少年の橋』、河野多惠子の『蟹』は癖がありすぎるな

ふーむ……不毛ですね

第五十回、田辺聖子の『感傷旅行』……これは面白い。推せる。シナリオ業で生きる青年ともてないのに男に特攻する熟れた狼の有為子という女の交わらないドタバタな恋から最も離れた恋を描いた作品だね

は?

難しいか。好きなんだけど、その好きという感情は恋愛ではないということだよ。この作品、甚だ饒舌で俺ガイルみたいな感じだよね

へー!

それで柴田翔の『されどわれらが日々ーー』……六全協と呼ばれる学生闘争に生きる人々の青春を描いた作品だけど、もう時代遅れだね。資料としては読めるけど。長いし

長いのはよくないね

ふむ。まあ、この作品めちゃくちゃ売れた上にこの人を見て、作家を志した人も多くいる。ちなみに人気グループ嵐のメンバーの一人、櫻井翔は、親が柴田翔のファンだったから名付けたとかいう噂が

へえ! 豆だね。それ

その次の津村節子『玩具』、高井有一『北の河』はよくまとまった佳作だけど面白さとなると……うーん

その後は?

丸山健二『夏の流れ』は処刑人を扱った不思議な作品だけど、これは淡々と読めるな。しかし、力が弱い。その次の大城立裕の『カクテルパーティー』は今、荒れている沖縄の問題があるからこそ読んでもらいたい、沖縄の扱いを描いた作品だが、面白さとは少しかけ離れているな。でもまあ沖縄を論じたいなら読むべきだね

沖縄は今揉めていて……なんか、勝手な意見が多いですよね……

せやな……その後の柏原兵三の『徳山道助の帰郷』は長いが一代記的なもんで流せばそこそこに面白い。丸谷才一の『年の残り』、大庭みな子の『三匹の蟹』……着想は面白いがやはり面白さとは別だろう

この二人、最近まで文壇の大御所だったじゃないですか

両方とも亡くなったがね。その後、田久保英夫の『深い河』……これはまとまっているし、叙情性はあるけど……ふーむ。同時受賞の方が、庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』の方が面白い

それって、『ライ麦畑でつかまえて』なんかと比べられるよね

僕はそう思わないけどね。これは饒舌でラノベみたいな語り口……僕は〜なんだ。みたいな。それで世間を冷ややかに見つめている。読めるっちゃ読めるだろう。

なるほど、饒舌は今でも受けそうですね

その後……清岡卓行の『アカシアの大連』は詩情はあるけど面白さは……さらにその次の吉田知子の『無明長夜』はテーマが重い。吉田知子と同時受賞した古山高麗雄の『プレオー8の夜明け』は読めるね

プレオー?

ベトナムに収容されていた体験を描いた作品なんだけどね、これも、やんなっちゃうなあ〜みたいノリで進められていく

なんか饒舌は残りますね

あと、これホモ、同性愛がモチーフだから

ガタッ

座れ座れ……ホモとはいっても、114514とかアッー!とかホイホイチャーハン要素は薄い。極限に置かれた人間の行動の一環としてね

なーんだ

でも、結構生々しくて面白いよ。

その次は?

古井由吉の『杳子』か。これは今で言うメンヘラ女を扱った作品だけど、やはり漫画に出るようなメンヘラとは違い、真正のメンヘラだから、重いかなあ

メンヘラ……その次はどうなっているのでしょう?

ふむ。東峰夫の『オキナワの少年』に李恢成の『砧をうつ女』……読めるけど、片や沖縄、片や朝鮮と在日とテーマが重い……

なんか重くなってきますねえ……

次も重くて、畑山博の『いつか汽笛を鳴らして』は障害を持つ主人公や在日差別の中で生きる人々を描いているし、宮原昭夫の『誰かが触った』はハンセン病隔離病院の内部を描いた作品でなあ。やはり暗い

重い……

パイセンの体重が……

重いんだよ。この後の山本道子の『ベティさんの庭』は外国の中にいる日本人の孤独を描き、郷静子の『れくいえむ』は愛国心を捨てきれなかった少女が疎外され、絶望を覚えながら結核で死ぬ話だし、そのまた次に受賞した三木卓の『鶸』は敗戦で逃げ惑う日本人の姿を描く作品だし……救いようがない

みんな死ぬしか!

マミってろ!

…………

…………次にとった、森敦の『月山』は山の中で極寒の冬を住む東北の人々の生活を描いた話。民話調だけど、これもゆったりとしている。野呂邦暢の『草のつるぎ』は少し難しいかなあ……まあ、この辺で切り上げておこう

これで五十回分喋り通りだね!

疲れた……

お疲れ様です

次はもっと駆け足で行くわ。早く文学全集の方にもいかねばな……はあ……


次回は芥川賞の最後!

純文学のミカタ!! 〜楽しい純文学作品を見つけてみよう!! Part2〜

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