十五夜

ぼうじぼあたれ! そばあたれ!














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「じゃあさ、土下座したら許してあげるよ」
「え……」
「土下座しろ、って言ったの? あれえ? 聞こえなかったかなぁ?」

 聞こえました聞こえましたとも。
 ただちょっとびっくりしただけ。土下座しろなんて言われたの、薫が取っておいたプリン勝手に食った時以来だなあ。
 私としては二木とは仲直り……とまでは行かなくても、菫との間にある因縁にケリをつけたい。
 この土下座でそれが済むなら安い物。言われるがままに、地面に手をつく。

「は? 何ほんとに土下座してるわけ? だる」
 
 嫌みったらしくそう言うと、私の服の襟首を掴みあげる。
 首を絞められたような感覚で苦しい。
 
「ちょっと面貸しな。立てよ」

 持ち上げようとしていたのかは分からないけど、手を離してそんなことを言ってきた。
 はいはい分かりました、とは口には出さずに、立ち上がる。

「けほっ、けほっ」

 わざとらしく咳をする。実際苦しかったし。

「……ねえ、そんなに許して欲しいの?」
「うん。二木さんと仲直りがしたいなって」
「はっ。言ってくれるねえ。元々はあんたが撒いた種だってのに」
「勝手なことを言っている自覚はある。それを許して欲しいなんておこがましいとも。それでも私は、普通の学園生活を送りたい」
「なら、殴らせて? それで全部チャラにしてあげる。うちとしても、あんたがこれ以上虐めがどうとか騒がなければ実害はないわけだし」
「……分かった」

 逆の立場だったらどうするか。
 まあ許さないわな。
 知らずの内に虐めの犯人に仕立て上げられて、先生に呼び出されて。証拠が無かったからと解放されたものの、先生からは常に疑惑の目を向けられて。
 菫がしでかしたことは二木の人生を踏みにじるような行為だ。被害妄想が生んだ産物ほど厄介な物は無い。
 
 二木が大きく振りかぶる。
 強烈な一発が来る。けど、それだけ大きく振りかぶれば、此方も躱すことは容易い。
 これが普通の女の子だったなら、びびって避けていたかもしれない。来るであろう痛みを予感した時点で、その子は負けだ。
 これは自分との戦いでもある。この一撃を避けてしまっては、折角の機会が台無しになる。
 恐怖に目を瞑る、なんてことは無かった。男同士の喧嘩は慣れっこだ。殴り合いに発展したことも何度だってある。
 なら、ただのか弱い女の子のパンチくらい、怖くもなんともない。

 拳が来る。これは強烈なやつだ。鼻が潰れるかもしれない。
 右ストレート。それを顔面で受ける。
 最後の方に見た二木の顔が、驚いていたように思えた。

「は、はあ!? ちょっと、何で避けないわけ!? あんたほんとにあの藤堂!? おい、おいしっかりしろ! し、死んでる!?」
「生きてますよ……あいたた……」

 くそいてえ。頭がガンガンする。鼻より上だったからか、脳にかなり来たな……鼻だったら折れてた気もする。
 頭がクラクラする。これはアカンやつだ。

「あー、あー、意識飛びそ」
「おい、意識をしっかり持て。きゅ、救急車……」
「救急車……待った。待て二木。それを呼んだら大変なことになる」
「だってあんた、今の普通避けるだろ!? なんで食らってるの!?」
「待て。叫ぶな。響く」
「ちょっと、あー、せ、先生呼んでくる!」
「駄目だ。待て、待って。もうちょっとしたら落ち着くから……」
「ほ、本当に大丈夫か……?」
「大丈夫だ。問題ない。俺も大事にはしたくないんだ……」
「俺って……あんた、今ので頭おかしくなったんじゃ」
「何言ってんだ。ったく……菫のクズ野郎が」
「えー……」

 徐々に意識がはっきりしてきた。
 今のは本当にヤバかったな。気を失う寸前ってところだ。一回病院には行った方が良いか? 理由は頭ぶつけたとかそんな感じで。これでまた死んだとかなったら笑えないし。
 ところで私、今意識飛びかけたせいで変なこと口走ってなかった? 聞き流してくれるとありがたいのだけれど。

「あんた、誰? 藤堂、違う。まさか別の誰かが取り憑いている?」
「えっ!?」
「じょーだん。はあ、本当に大丈夫なん?」
「た、多分。一応あとで頭ぶつけた、とか言って病院には行きますけど」
「病院代だそうか?」
「いえ、だ、大丈夫です……」
「ったく、調子狂うなあ。けど約束したし、今までのはチャラにしてあげる」
「本当ですか!?」
「ケド、また勝手なこと言い出したら、今度は下駄箱に画鋲入れるから」
「はい。去年までの私は本当に愚かでした。本当に、申し訳ありません」
「いいよいいよ。……本当に頭大丈夫?」

 その言い方は頭悪いみたいだから止めて欲しい。
 




「知らない天井だ」

 気付くと私は真っ白な部屋にいた。病室だろうか。

「ふ、藤井ぃっ!」
「ぐふっ」

 何かが覆い被さってきた。見るとそれは、制服姿の二木だった。
 その後ろには私のお母さんがいる。

「喧嘩したんですって?」
「あー、うん。まあ」
「全く、心配したわよ? いきなり学校から病院に来るように電話が来るんだもの」
「ごめんなさい」
「今お医者さん呼んでくるから」
「はあい」

 そう言うとお母さんは退出した。
 さて、二木に現状を確認してみるか。

「これ、どういう状況です?」
「あんた教室に戻った後、倒れたんだよ。それで、慌てて……」
「なるほど。お医者さんはなんて」
「軽い脳震盪だろうから、すぐ目覚めるだろうって言ってたけど……うちのせいで……」
「いえいえ、元は私が撒いた種ですから」
「でも……!」

 そうこう話しているとお医者様がやって来た。







 和解方法思いつかないから取りあえず殴られとけ。
 一人称私に固定した後からはお父さんお母さんで修正するようにしよ。でもたまに俺が出るのは私になりきれていない証拠。

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