買い物から帰宅。案の定近場じゃないスーパーに行ったことに突っ込まれた。
「あら? そっちのスーパーまで行ってたの?」
「こっちの方が安かったみたいだから。はい、お釣り」
「お釣りはお小遣いにして良いわよ?」
「本当? でも毎月貰ってるし、良い気分転換にもなったから」
「あら、そう? もし何か必要な時は相談するのよ。あまり高いものじゃなければお金出してあげるから」
「ありがと」
藤堂の家の毎月のお小遣いが立花の家で俺として暮らしていた時よりも多いので、正直小遣いには困っていない。
私服などもジャージでいつもいた割には持っていたので、衣服にも困ってなかった。
貯金のようなものが菫にはあまり無かったので、毎月の小遣いで買った衣服のようだ。
学校にはちゃんと通うだけ通ってたみたいだし、衣服なども自分の足で買いには行っていたのだろう。
何というか性格はクズっぽいけど、重度の引きこもりって感じではなかったんだな。
部屋に戻ってパソコンでも開く。
適当に動画を漁った後、やはり暇だったので教科書でも取り出し次の授業の予習をした。
学生らしく学業には取り組むつもりだ。一度勉強した範囲がほとんどなので、予習というより復習と言った方が良いかもしれない。
それから里奈が帰宅。互いに思い思いの時間を過ごし、土曜日が終わる。
翌、日曜日。
この日は家族と共に近くの桜の名所でもある千手山公園にお花見に行く日だ。
公園内にレトロでノスタルジックな雰囲気の小さな遊園地があり、園内には約三百本の桜と千本を超えるツツジがある。
恋愛映画の舞台として使われたこともあり、この時期になると一段と訪れる人も増える。あとはクリスマスも来客が多いらしい。その映画を私は知らないのだが、何でもクリスマスにはその映画を再現したライトアップが行われるのだとか。
この町の数少ない観光名所の一つと言ってもいいだろう。子供の頃は良く両親に連れられて遊びに行ったものだ。
お母さんと一緒にお弁当を作り終える。
「おはよー……お姉ちゃん朝早いね……」
里奈は朝に弱いらしく、まだ眠そうだ。
学校がある日はシャキッとしているのだけど、休日は大体眠そうに起きてくる。学校がある日とのギャップが凄く、そこがまた可愛い。
「おはよう里奈。そうだ、お父さんも起こしてきてくれる?」
「うんー……分かったー」
里奈は欠伸をしながらだらしない姿でお父さんの部屋へ向かった。
それから起きてきたお父さんも一緒に全員で朝食をとる。
それから思い思いの時間を過ごし、お昼を過ぎたくらいにお花見の会場へと向け家を出た。
藤堂家では毎年この時期になると家族揃ってお花見に行くらしい。
ただ、菫が中学二年になる頃にはあまり外に出ることが無くなってしまったらしく、菫も含めて全員で行くのは実に三年ぶりとのことだ。
徒歩で千手山公園へ向かっていると、後方から自転車のベル音が聞こえた。
「お~、やっぱりすみぽんと里奈ちゃんだ~」
「伊吹さん?」
「伊吹先輩!」
振り向けば自転車に乗った伊吹さんがいた。一緒に友達らしき女の子もいる。
伊吹さんは自転車から降りてから私たちを確認すると、ぺこりとお辞儀をした。
「こんにちは。菫さんと同じクラスの伊吹と言います」
いつもの雰囲気と違った話し方で驚いた。
お父さんとお母さんがぺこりとお辞儀を返す。
「これはどうもご丁寧に。菫の父です」
「母です。菫は学校でどうですか? 打ち解けていますか?」
「はい。私以外のクラスメイトとも仲良くして頂いています」
「おお、それは良かった。菫、友達は大切にするんだぞ」
「そうよ」
「う、うん。分かったよ」
去年までのことがあるからか、かなり心配していたようだ。実際に友達がいると分かったので安心してくれたようだ。
私としても伊吹さんはとても大切な友達だから、今後とも仲良くしていきたい。
「えっ、まさか、藤堂さん?」
「えーっと」
伊吹さんの横に並んだもう一人の人物が驚いた顔をしている。
クラスメイトではないが、顔をどこかで見たような気も。違うクラスの子だろうか。
「私だよ藤堂さん! |東郷《とうごう》|結花《ゆか》、去年同じクラスだった」
「あっ、あー、あっ」
「小学校の時も同じクラスになったことがあるよね?」
思い出した! 菫のアルバムの小学時代の写真に一緒に写っているのが幾つかあったんだ!
だから見覚えがあったのか。それはそうと不味いぞ。私の中にその頃の記憶は一切ない。
「おお、|剛《つよし》の娘さんか。お父さんは元気かな?」
「あっ! もしかして小父さん? 昔良く飲みに来てた」
「そうそう。覚えててくれたかあ」
東郷さんとお父さんはどうやら顔見知りらしく、昔の話で盛り上がりだした。
このまま上手く話を逸らせればと思うが、そうは問屋が卸さない。
やはり話は私たちのことへ戻ってくる。
「すみぽんとゆかにゃん出席番号が並んでたからね~、良くゆかにゃんが話しかけてたね~」
「あ、あはは」
笑って誤魔化せるか? 無理だな!
「藤堂さん、小学校の頃みたいに明るくなったね……去年私が話しかけた時は、余計なことしないで! って言われちゃって、私、もう昔みたいに仲良くできないのかなって思ってたんだけど……ねえ、藤堂さん。また、仲良くしてくれるかな?」
「う、うん! 勿論だよ東郷さん! 私たち友達、フレンズ」
「お、おー! ふれーんず!」
半ば無理やり右手を掴み取り握手する。
それを見ていた皆が微笑ましいものを見るような顔をしていた。
「お姉ちゃん、友達一杯嬉しいね」
「何かの標語みたいだよ里奈」
「お姉ちゃん、友達百人できるかな?」
「それはちょっときつい」
学年全体と友達になるような勢いじゃないと百人達成は無理。そもそも友達百人とか達成できた人がこれまでに何人いるのだろうか。
取り敢えず旧友と仲直りはできたけど、昔の思い出話をされると危険だ。中身が別人ってことがばれることはファンタジーやオカルトすぎてないとは思うけど、不思議に思われるのはまず間違いない。
最悪記憶喪失設定でも生やそう……。
「伊吹さんたちはこれからどちらに?」
自転車でどこか向かっていた途中だったようなので、行き先を聞いてみる。
「私たちは~、おうどん食べに行くところ~」
「へー」
「釜玉うどんとあと野菜かき揚げに親子丼の定食で!」
東郷さんが態々メニューまで教えてくれた。めっちゃ食うな。そして楽しみ過ぎか。涎垂れてるぞ。
「皆さんは家族でお出かけですか?」
伊吹さんが今度は私たちの行き先を聞いてきた。
ポケットティッシュを取り出して東郷さんの涎を拭いてあげている。オカンか。
「私たちはこれから千手山にお花見にー」
「おお~、良いですね~」
「今年は丁度桜も見頃でな。菫も揃って久しぶりに四人でお花見、というわけだ。そうだ、久しぶりに今度剛も飲みに誘うか」
「それじゃあ小父さんが言ってたって帰ったらお父さんに伝えておきますね!」
「おお、そうしてくれ」
お父さんと東郷さんがめっちゃ打ち解けてる。
横で聞いていた限りだと、お父さんと剛さん、東郷さんのお父さんは古い友達らしく、良く飲みに行くこともあったとか。
お父さん家であまりお酒を飲まないけど、菫のことがあったから飲まなくなったのかなーなんて考えると申し訳なさでいっぱいになる。
「それでは私たちはこれで」
「お花見、楽しんでくださいね。でだゆかにゃん。私はおろし醤油うどんに決めたよ~」
「この前行ったらすだち切らしてたけどどうだろ…トッピングで大根おろしはあるから最悪それ頼めばいいと思うよ!」
「え~!? すだち無いの!? いや、ある。入荷してるに私は賭けるね」
「ほうほう。何を賭けるのかな?」
「ネギ一掴み賭けよう~」
「それ|無料《ただ》じゃん!」
二人が去っていくのを見送る。めっちゃ楽しそうやな。
「あっ」
里奈が声を上げた。
「どうしたの?」
「んと、先輩とチェイン交換すれば良かったなーって」
「あっ」
私もスマホ買ったんだし、今ここで交換すれば良かった。
「明日も学校あるし、その時にしよう」
「思えば始業式でも交換できたよね私……お姉ちゃんより先に先輩の連絡先ゲットするんだ……」
「えっ、何。闇深い話?」
「深くない」
そんな姉妹の会話を、これまた両親が微笑ましそうに見ていた。
二人と別れた私たちは目的地へやって来た。
小高い山の中にある公園の駐車場、その向かい側には紫雲山千手院という寺がある。
朱色の仁王門と両脇の仁王像は中々に立派。現在は無住の寺で市が管理を行っている。
桜色で溢れる中、小さな観覧車がこの場所のシンボルマークとして運行していた。
「今年は綺麗に咲いたわね-」
「結構人もいるなあ」
お母さんとお父さんが周りを見ながらそう言った。
桜色で溢れた園内はとても綺麗で、大勢の人がお花見に来ていた。
丁度、三月三十日から今日、四月八日までの十日間はさくら祭りが開かれている。
この期間中は夕方になると園内に照明が点き、ライトで照らされた桜が昼の桜と違いまた美しいのだとか。
今日は夕方までいる予定なので、お花見しつつまずは遅めの昼食を取ることにする。
園内を進むと、子供たちが遊ぶジェットスターや自動木馬と言った遊具があり、子供たちが遊んでいるのが見えた。
そこで流れている童謡や昔のアニメソングがこれまた懐かしい雰囲気にしてくれる。
売店が所々で出ており、焼きそばやかき氷などを売っていた。
今回はお弁当を持参しているので、売店で物は買わないが、夕方までいるのだし、小腹が空いたら何か買うかもしれない。
山頂を目指していくと雷電神社の鳥居が見える。
さらに登ると小さな公園があった。
広場では設置されているテーブルを使いお花見を楽しむ人、駆け回る子供やそれを微笑ましく見ている老夫婦など、多くの人で賑わっていた。
その一角を借りて私たちもお花見を楽しむことに。
「こうして四人で来るのも久しぶりねえ」
「そうだな。菫も小学生の頃みたいに元気になって」
「何かごめん。これからはシャキッとするから……」
「いいのよ別に謝らなくても。私たちは菫と里奈が元気ならそれで」
「そうだぞ。それよりも腹が空いたな」
そう言いながらお父さんは持ってきた缶ビールを開けた。
「あなたったら、ビール持ってきたの?」
「花見と言ったらビールだろう。その為に徒歩で来たんだ」
「お父さんったら、飲み過ぎないでよね! 去年ベロベロになって大変だったんだから……」
里奈がため息を吐いた。
家ではあまりお酒を飲むイメージが無いだけに、お父さんがそんなに飲んだというのが信じられない。
随分と大きなバックを持ってきたなと思ったけど、覗き込めば六本くらい缶ビールが入っていた。
「なんだ? 菫も飲んでみるか?」
「お父さん! お姉ちゃんまだ未成年だから!」
「そうよ。子供たちに飲ませないでよね?」
「ははは。分かってる分かってる」
「お父さんったら……」
実は俺の方でノンアルコールのビールなら口にしたことがある。
苦くて途中で親父にあげてしまった。確か親父の弟の結婚式に出た時だったな。叔父さん再婚だったけど、今はどうしているのやら。
酔いだしたお父さんは置いといて、私たちは持ってきたお弁当を広げる。
卵焼きにたこさんウィンナー、唐揚げにほうれん草の胡麻和え。鮭や梅干し、ひじきやおかかのおにぎりに、サンドウィッチ。
かなりの量を詰め込んできている。普段の食事なら食べきれないだろうけど、この美しい景色を見ながらならいける気がする。
心地よい風と暖かな日差し。春は眠気を誘うと言うが、正にその通り。
桜景色を鑑賞しながら、のんびりとした時間が流れる。そんな中で食べるお弁当は格別に違いない……ちょっと作り過ぎた感はある。
「あら? 其方にいるのは菫さん?」
「にゃ?」
突然名前を呼ばれたので変な声が出た。
後ろを振り返ると、聖ちゃんと光ちゃんが手を繋いでいた。
「おー、ほんとだ。すみねえだぞ!」
「聖ちゃんに光ちゃん。奇遇だね?」
ぱたぱたーっと光ちゃんが抱き着いてくる。
おうふ。これはまた良い柔らかさ……横から殺気!? 里奈が此方を睨んでいた。
「お姉ちゃん、お知り合い?」
「え、う、うん」
顔は笑ってるのに目が笑ってなかった。里奈よ、一体どうしたと言うのじゃ。
「あらまあ菫のお友達に今日は良く会うわねえ」
「おお。そうだな……菫、この調子で彼氏も作るんだぞ。でもちゃんとした男じゃないと俺は認めないからな」
「彼氏って……」
将来的には作らなきゃ行けないのか。いや、でも、男の娘なら……やっぱり私の中身は男なので女の子と付き合っちゃ駄目ですか。駄目ですよね。
ちょっと想像したら吐き気がした。私の中に男のアレが入るのか……やめやめ。その時が来たら考えよ。
「こんにちは。松園と言います」
「ひじねえそれじゃ駄目だぞ! 光は光、こっちがひじきお姉ちゃんだ」
「ひじき」
昨日も思ったけど、光ちゃん聖ちゃんの本名間違えて覚えてない? 大丈夫?
「聖火の聖でひじり、と書くんです。珍しいでしょう?」
「まあ、とても良い名前ね」
「ありがとうございます」
お母さんが聖ちゃんの名前を褒めると、恥ずかしそうに顔を赤らめた。可愛い。
「そうだわ。もしよければお二人も一緒にお弁当どうかしら?」
「おお。それは良い考えだ。勿論お二人が良ければだが……流石にこの量はなあ!」
「あ、やっぱり? やっぱり多かった?」
「お母さんとお姉ちゃん凄い張り切ってお弁当作ってたからね……」
私もお母さんも作り過ぎたかなあとは薄々気づいてた。後悔はしてない。
「聖ちゃんたちさえ良ければ一緒にお弁当食べない?」
私からも誘いに行く。
「ところで二人はお花見に来たんで会ってるよね……? 勝手に話進めちゃってたけど」
「そうだぞ! でもいいのか?」
「良いんだぞ」
「わーい!」
「あらあら。それではご相伴に与ってもよろしいでしょうか?」
「勿論!」
聖ちゃんと光ちゃんを歓迎する。テーブルの椅子は空いているので、二人にはそこに座ってもらう。
聞けば光ちゃんに強請られて桜を見に来たらしく、お弁当などを食べる予定はなかったらしい。
作りすぎてしまった側からすると丁度良かったとも言える。流石にお弁当持参してたんじゃこっちのものまで食べるほど胃に余裕も無かっただろうしね。
「私、松園先輩のことどこかで見たような気がするんですけど……」
「聖ちゃんは生徒会の役員さんだから、壇上で見たのかな?」
「なるほどー」
「ひじねえは副会長なんだぞ!」
光ちゃんが自慢気に胸を張る。
「えっ!? 副会長さん……!?」
里奈が驚きに声を上げた。
「そんな大したものではありませんが……」
聖ちゃんが照れながら謙遜するけど、大したものだと思うよ私は。
うちの学校は生徒会に入る条件の一つとして成績の優秀さが求められる。
勉強を疎かにしている人は生徒会に入ることができず、また、入った後も成績があまりにも落ちたりした場合は止めさせられてしまうのだとか。
補充要員とかはその都度教師からお誘いがあるとかなんとか。もし私が誘われてもそんな面倒毎は蹴るだろう。
「まあ、このだし巻き卵とても美味しいですね」
「それお姉ちゃんが作ったんです!」
「菫さん、とても美味しいです」
「なんか照れるなあ……」
料理は下手ではない方だ。得意、とまでは自慢できないレベルであるが、それなりに味付けに自信はある。
元々家事全般の手伝いはしていたし、立花の家は両親が共働きだった時期があるので、その当時は俺が料理を担当していた。
菫自信料理ができたかは定かでは無い。お母さんの手伝いを最初にした時に驚かれたので、そもそも手伝う習慣が無かったようだ。
どこで料理の仕方を覚えたのと言われた時には焦ったが、学校の家庭科の授業やら見よう見まねやらと適当に理由をつけて納得して貰った。
広げていた料理も減って来た。お腹もかなり膨れた。
その間に色々な話をして打ち解けた。例えば私と聖ちゃんが同じクラスなのかーとか、どこで出会ったのかーとか。
後は生徒会大変じゃないですか? 等々。そんな中で出た話の一つに部活があった。
私は特に今から所属するつもりは無いので帰宅部で通すとして、話題の中心は新入生である里奈に移っていく。
「里奈さんはどこか気になる部活とかはあります?」
「美術部に興味が」
どうやらこれまで特定の部活に入ると言った話はしていなかったようで、これにはお父さんとお母さんも興味津々。
「そんな大した理由じゃないんですけど、高校生になったらどこか部活に入りたいなーとは考えていて、運動はそこまで得意ではないので、文化系で、それなら美術部とかどうかなーって」
聖ちゃんはそんな里奈の話を親身になって聞いてくれる。
美術部の活動時間や、市のコンクールで大賞を取ったこと。その他、どのようなメンバーが部員にいるかなど、知っていることを教えてくれた。
それを受けて里奈も決心が着いたようだ。
「決めた。お父さん、お母さん。私、美術部に入っても良い?」
「良いんじゃ無いか? 折角だし菫もどこか入るか?」
「うーん、私は良いかな……二年生になってからだと今更って感じもするし。こう、今は部活に入るーって気分じゃないって言うか……なんかごめん」
「良いのよ謝らないでも。菫は菫がしたいようにすれば。里奈、一度入るのを決める前に見学してから決めるのよ? 後から想像していたのと違ったーってなると部活の人たちにも失礼だから」
「分かった。見学の申し込みしてみるね」
「それでしたら先生から説明があるかと思いますが、明日からの一週間は放課後部活動の見学会が行われるはずですよ」
「そうなんですね! ならその時に美術部に行ってみます!」
里奈が部活に入るとなると、今後は一緒に帰る機会も減っちゃうかな? そう思うと少し寂しいような。
私のクラスだと部活に入っている人がどれくらいいるのだろう? 自己紹介の時に所属している部活を言った人は分かるけど、伊吹さんとか間藤君とかは何部に所属しています! とかは言わなかったから、どこか特定の部活に入っているかどうか分からない。気になってきた。
こんな時にチェイン交換していればすぐに聞けるのに……そうだ。
「聖ちゃんはチェインやってる?」
「チェイン……?」
「スマホのアプリなんだけど。もし良ければ連絡先交換したいなーって」
「すみません。実はスマホ持っていなくて……ガラケーならあるのですが」
「あー、ガラケーもチェイン入れられるんだっけ?」
里奈に聞いてみる。
「入れられるけど、機種によるかな?」
あまり古いと対応してなさそうだものね……。
「重ね重ねすみません。実は一番安い料金プランでして……」
と、聖ちゃんが事情を話してくれる。
何でも聖ちゃんの家はそこまで裕福、という訳でもなく、携帯もガラケーで月千円以下の一番安いプランで節約しているのだそうだ。緊急時の連絡用には持っているけど、アプリやゲームと言った娯楽には使っていないようで、実の所、一緒に遊ぶ友達もいなかったらしい。
これには驚いたけれど、見た目だけは高嶺の花だから近寄りがたい雰囲気が出ているのは分かる。私もスーパーで会わなかったら接点持とうとしなかっただろうし。そもそも因縁あると思ってたし……。
光ちゃんも一応ガラケーだけ持っているようだ。極端に貧乏、という訳でもないらしい。
何でもお母さんを光ちゃんが生まれると同時に亡くしており、お父さんと三人で暮らしているのだが、そのお父さんの勤めていた会社が事業縮小に伴った人員整理で部署ごとリストラを行ったらしく、退職金は貰っていたのだが、それから暫く働かない日々が続いたようで、色々とお金が足りず百万ほどの借金ができてしまったらしい。
徐々に返済しているらしく、私たちが思うほど酷い状況では無いらしいが、流石にスマホの維持費とかを考えると中々手を出せないようだ。