遂に……。



遂に日曜日が来てしまった。





思えば……。



祖父が亡くなり、

残された財産だけでは

暮らしていけないから

金持ちの男を捕まえようと、

執事たちの提案で始まった計画。





今まで通り何の不自由もなく

生活をしていたから、



私の中で

どうでも良い話になっていたけれど、


計画は着々と進められていた。





「桃ッ。

 今まで男性とまともに喋った事など

 無い私が、一体何を話せば良いと?

 天気? 野球? 政治・経済?

 それとも芸能界の噂?

 何も思い浮かばない。

 どうしようどうしよう……」





「お嬢、落ち着いて。

 ボクも一応男だからね。

 お嬢はずっと男に囲まれて

 生活してきたんだから大丈夫だよ」





「で……、

 でもそれは家族みたいなものだから。

 初対面の男の人なんて、

 目が合っただけで

 意識を失ってしまうかもしれない」



「ボク達がフォローするから

 安心して。ね?」





今日の桃は

普段より一段とめかし込んでいる。



私は毎度お馴染みのジャージ姿だ。





ああ。



先日の家庭教師、

佐藤ミサの恐怖が甦る。



帰りたい……。



ここが自分の帰る場所だけど。





「桃。

 ジャージ姿って可笑しくないですか?

 着替えた方が良いかな?

 でも、変なプリントのTシャツしか

 持っていないし……。

 どうしようどうしよう……」





「う……、うん。

 じゃあ、ボクの服を貸してあげるよ。

 お嬢とボク、

 背丈が同じぐらいだから着てみよう」





桃が選んだ

フリル満載の

真っ白いワンピースを着てみた。



フリフリがヒラヒラ……。





「ど……、どうですか?」



「…………」





あ。

桃が私を見て固まっている……。



適当な良い言葉が

思い浮かばないんだね。





「お嬢。準備は出来たか?」





部屋の扉をノックする音と共に

黒川の声が聞こえた。





「え? あ、うん。いえ。うーん」





「何だ? 何をしているんだ?」





黒川が部屋の扉を開いた。





「お前……。

 何でティッシュペーパーを

 身体中に貼り付けているんだ?

 仮装パーティーと

 勘違いしているのか?

 早く片付けて着替えろ。

 そのティッシュペーパーは

 勿体ないから、

 捨てずにちゃんと使えよ?」





黒川が部屋から出て行った。





……黒川よ、

率直なご意見をありがとう。





私はワンピースを桃に返し、

ジャージに着替え直した。





そうだ。

別に付き合うつもりなどないから、

無理に可愛く装う必要は無かった。



ありのままの私を見ていただき、

ありのままにフラれよう。





好きでもない人からフラれるのは

腑に落ちないけれど。







ジャージに着替え直した私は、

黒川がいるキッチンに向かった。





キッチンから甘い香りが漂う。





「黒川ー。着替えましたー」





「よし」





「いい匂い……。

 何を作っているのですか?」





「クッキーを焼いた。

 一つ食ってみるか?」





「食べます食べます」





試食用に作っていたのか、

少し小さめのクッキーを一個、

皿の上に乗せてくれた。





「美味!

 黒川、美味ですよ。おかわりッ!」





「駄目だ」





「何故ですか?

 もう一個ぐらい良いじゃないですか」





『ビシッ!』





「ぎゃっふ!」


カウンターの上に置かれたクッキーを

取ろうとした瞬間、



黒川が持っていた

ハエ叩きが私の手に炸裂した。





このハエ叩きは

ハエを叩く為の物ではなく、

私のつまみ食いから食品を守るために

購入された、黒川神器の一つである。





「こ、こんなに沢山あるのに……。

 もう一個ぐらい食べても

 良いじゃないですか。

 黒川のドケチ!」





「何とでも言うが良い。

 だがクッキーだけは絶対やらぬ!」





「黒川のバーカ、バーカ」





「何……、だ……、と……!」





「ぎゃー!」





黒川が

ハエ叩きを持って追いかけてきた。





何とでも言って良かったんじゃ

なかったっけ?



黒川恐怖! 恐怖黒川!





屋敷中を逃げ回っていると、

チャイムの音が聞こえた。





ナイスタイミング!





しかし、

黒川とは別の恐怖の始まりだけどね!

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