「見てみて、テルヒコくん!すごいわよねあの人!大生部(おおふべ)愛理、またテレビ出てるわね。」

「すごい勢いよね・・・・愛理先生の占い・・・。」

創生プロジェクトのスタッフである真理恵とひなたが、かたずをのみテレビを凝視していた。

「みんな占い好きだな~。ほんとに"そんなもの″が視えているのかなぁ。」

「なに、キミは信じないの?ぜったい本物の超能力者よ!だって」

テレビ画面上に映された巷で話題沸騰中のサイキック占い師”大生部愛理”が、

とてつもない勢いで両手に持つチタン合金製のスプーンをへし曲げ、二輪車をグラスファイバーの外装ごと手刀で一気に一刀両断した。

「ぜったいにやらせじゃないわよ。あの人ほんとにそんな力もってんのよ。不思議な人もいるわよねえ。」

「この人魔法使いかなんかなんじゃないの?絶対そうに決まってるって。今宮崎に来てるんだよね。この女の人。
たしかオーシャンムード(総合レジャー施設)で・・・。」

自分の正体を知るひなたがそんなことを言うのも妙な気がしたが、テルヒコには彼女(大生部愛理)の雰囲気から何か

妙な違和感を感じ取っていた。

「どこの事務所のタレントさんか知りませんがね、あなたみたいなことをする人が平気で地上波の番組に出るから、いかがわしい連中が我も我もと巷にあふれるんじゃないですか!?(テレビに出演しているコメンテーター)」

「いきなりこんなことズバッと言ってごめんなさい。あなたはこの間伊豆の旅館に温泉旅行へ行きましたね。その不倫のことで今奥さんと別居状態。」

「・・・・・ちょっと、・・・そんなことは今関係ないだろ。こんなのきいてねえぞ!なんだ・・・この女!いやそんな、
彼女と旅行なんて行ってませんよ、行ってませんからね皆さん。いや絶対に行ってねー・・よぉ・・・なんだよおこの空気」

「私は透視(リモート・ビューイング)もできるんです。」

仕込みにしてはあまりに寒気のする大生部愛理の的中する透視結果にスタジオ内は凍り付いているようだった。

「は~これホントのヤツよね。すごい修羅場になりそうねぇ。あ、真理恵ちゃんは買ったんだ、そのペンダント・・・!可愛い~私もほしいなあ。」

「・・・・(コクリ)。先生のいる事務所も予約一杯だったんだけど、この間はじめて会えて。
多分このおかげだわ。彼氏と結婚することが決まったの。」

「先生、このチャームを私だけタダ(無料)でくれるって。私の近くにパワーの強い守り神がいるんだって!」

「よかったじゃなーい!ね、テルヒコくん。」

真理恵はひなたのリアクションを見てそれならこんなことも言ってもいいか、といつになく緩んだ顔でさらにこう言った。

「でも、ごめん。職場の気が悪いから・・・」

「厄除けに神棚のお札を捨てて、先生が1万で売ってるお札に変えたほうがいいんだって。」

「え?!そうなの?!うちの神棚氏神さんのやつだけど罰あたんないかしら・・・」

「・・・・」

「テルヒコくん、聞いてる?」

「・・ア、はあ・・・・・・(何か、おかしいぞ)。」

テレビ画面に映る大生部愛理が、レポーターと共に辻切りのように市街地の人々を次々と占ってゆく。

「あなたはズラですね。ポマードの塗りすぎ。」

「えっなんでそれを・・・でも、世のすべてのポマード(※整髪料のこと)がはげるわけじゃないんですよねえ?」

「健康診断の結果が良かったからといって飲みすぎは良くありませんよ。」

「ひなたさん、ポマードって・・・何?」

画面上に映る困惑した男性の顔を見ながら、真理恵はひなたに尋ねた。

次々とリサーチ会社や探偵が下調べしただけではわからないような事実を言い当てる姿に驚く人々。
「突撃!隣の運命デットオアアライブ!」
近所の民家の食卓に、それも食事中直撃して占いを始めるのだから仕込みタレントにしては、ゲリラ演出が過ぎる。

「なんか昔のバラエティを見てるみたいな感じだね~。」
「よくクレームにならないよな・・・・。」
一応最低連絡はされているとは思われるが、その家のスプーンや人力ではどうにもならないであろう電化製品まで手を当てるだけで捻じ曲げ、
お詫びに各家庭にひとつ、番組からのプレゼントとして得体の知れない水晶玉を置いてゆくのだから
見ているこちらがひやひやしてしまう始末であった。

「うう・・・・先生、ありがとう。俺これからはちゃんと働くよ。」

愛理に対し涙を流しながら感謝する暴走族のような雰囲気の不良たち。

「先生サイコー!ありがとぉおー!」
映し出される路上の歩行者天国に謎の蛍光色の服、蝶のTシャツを着た数千人の群衆が
法被を着た大生部愛理を神輿に担いで練り歩いている光景が映し出されていた。

「・・・・・・・・なんかちょっと気持ち悪い。」

コーナー終了と共にスタジオは通販番組のような様相を呈する。

「そんな愛理先生が全パワーを集中させて結晶させた、この天然の九頭龍王の彫刻が刻印された水晶玉!特別に皆さんに超特価でお届けしま~す!」

「でもお高いんでしょう?」

テルヒコはその時、スタジオの女性の声に妙な違和感を覚えた。
「あの女性の声、聞き覚えがある・・・」

「そこを特別にいまならなんと・・・!」

「えーすごーい」

「先生!それ買います!私も救ってください!私もー!」

うんざりするような通販番組特有のテンプレートのやりとりに反するほど、狂喜乱舞し喜び喝さいを送るスタジオ内。

なだれ込みぶつかり稽古のごとく一人一人警備員に制止される観客。
はたからみれば異常な光景であった。

「・・・あの女性の声は、クロウ幹部九尾の狐の声!・・・いや、俺の勘違いか?・・・」

「テルヒコくん、どうしたの?」

「・・・わたし、その先生が想いを込めた特別な水晶玉、買っちゃった・・・・。」

真理恵が見せた携帯の写真の中には、確かにその愛理が販売している水晶が撮影されていた。

「真理恵さん、それはちょっと、俺は・・・。」

「・・・テルヒコくんも興味あるの?」

「あ、ハナちゃ~ん!ひさしぶり~!」

元気な少女の声が画面に釘づけとなっていた三人の意識を現実へと引き戻した。

ドアの前に立っていたのは、ひなたらの知り合いであるハナであった。

「お兄ちゃん今いる?今日は約束してたイベントの当日でしょ?まさか忘れたとかいわないよね!」

「あ、そういや今日だったか・・・。ひなたさん、真理恵さんすまない!俺行ってきます。」

「わたしたちよりテルヒコくんのほうがいいわよね~!」

テルヒコは大生部のことが頭に引っ掛かりつつもハナと共に予定していたそのイベント会場まで向かうことになった。

「おれは頭数揃えか?」

「なに馬鹿なこと言ってんの?いつまでもオジン臭い趣味ばっかりやってるから寛大な心で連れてきてあげてるんじゃない!」

「おれはオッサンじゃない!20代だ!てゆうかキミの家も神社だろう!聖地巡りはれっきとした習慣だ!俺が行くのにも理由があってだなあ。」

「神社のことじゃなくていつもの行動よ!なんで仕事抜け出して水汲みに山に行ったりお坊さんじゃないのに何時間も精神統一したり
本読み漁ったりしてるのよ!服もずっとそれだし・・・。
そういうならもっと若者らしいことしなさいよ!」

「うっそれは・・・」

「いいから行こ行こ!」

「まいったなぁ。」

テルヒコとハナがやってきていたスタジオは、多くのカラフルでハイセンスなストリートファッションの若者で満員になっていた。

「あんまり俺こういうとこ興味がないんだよなあ。」

「おお~今日もいっぱい来てる!テルヒコ兄ちゃんにはこういう刺激が必要なのよ!そうしたら記憶も思い出すわよ!
・・・。ほらいくよ!」

「みんな楽しそうだな。で、そんなに人気なのかその人は。ごめん、俺あんまり芸能人とかよく知らないからさ。」

「とーぜんよっ!お兄ちゃんなんかが地球何億周しても見れないくらい有名なひとがきてるのよ!それにダンスしてるとこなんて超カッコいいんだから!今流行のBTX(韓流アイドルグループ)とも一緒に踊ってるんだから!」

「じゃ、アイドルなのか?」

「正確にはプロダンサーね。ほらほら見て、来たわよ!リョウ頑張れ!」

「あれが・・・」

「キャー!リョウ―!(ファンの歓声)」

女性ファンらしき黄色い悲鳴が聞こえる人だかりのなか、テルヒコは高速で回転しながら空を斬りバック転するその男が

笑顔で爽やかな汗と共に踊る姿を見て驚いた。

「あ、あいつ・・・・・この間の・・・!」

「ね?!凄いでしょ?!うわ~見入ってる!」

「あ、ああ確かにな。・・・・あの男、この前俺に話しかけてきた・・・!」

テルヒコは先日メカ怪神を倒した直後、目の前でダンスする彼と出会っていたことを思い出した。
「ハナちゃんは彼のことを知っているのか?」

「だってリョウは私たちの先生なんだもん!ぜったいリョウのことならテルヒコお兄ちゃんと仲良くなるはずよ。」

ハナも子供ながら、記憶のない自分が立ち直るよう気をつかってくれたのではないか、とテルヒコはその時感じたが、
同時に彼女の挙動不審な様相からなにか妙な感じがしたのだった。

「(以前のアマテライザーの時もそうだ。ハナちゃんは何か隠しているのか?)・・・。」

「ふぅん。楽しそうにやってるじゃない。」

アマテライザーの奥から、通信でテルヒコにユタカの声が音声となり聴こえた。

「っここは人ごみの中だぞ!しーっ!」

「何よ。別にバレはしないわ・・・あの青年のことが気になっているようね。」

「・・・・・」

「聞こえない?気になっているように見えるけど。」

「ぁあ、クロウと無関係だといいがな・・・。」

「この(鏡の)ことは防犯ブザーだとでも言っておけばいいわ。」

「お兄ちゃん、何ぶつぶつ言ってるわけ?あ、見逃した!」

小声で返すテルヒコに、ユタカはハナに声を聞かれる手前そっと通信を閉じた。

「あ、リョーウ!今日もすごい良かったよ!お疲れ!」

全力でぶんぶん手を振り青年のもとへと走りかけよるハナ。

テルヒコはどうすればいいのか複雑な面持ちで彼を見つめていた。
そんなテルヒコに対し読めぬ表情の笑顔で無邪気に笑いかけ白い歯を見せるその男、水騎リョウ。

「・・・フン。ハナからはきいてたよ。こないだはいきなりでごめんな!ほら!」

さっと手を差し出してきたリョウの握手にこたえていなかったことをテルヒコは思い出し、思い出すように即握手を返した。

「キミがハナちゃんの知り合いだったとは驚いた。とても楽しませてもらったよ。」

「(しかしなぜ彼は俺に・・・)」リョウの持つ一見天真爛漫にも見えるフレンドリーな雰囲気に安堵した表情を見せるテルヒコは

満足そうに二人を見るハナの顔を見てさらに安堵するのだった。

「おい、そこのやつ!おまえあんまり調子に乗ってんじゃねえぞ!」

観客の一人だろうか明らかにガラの悪そうな見知らぬ悪羅悪羅系のような
場違いの格好をした男たち二人がテルヒコとリョウが話している場に割り込んできた。

「おまえら何?俺の知り合い?」

「お知り合いだってよwwwwwここはいつも俺らチームが使ってる箱なんだょォ!
こんなオワコンのド田舎で騒がれてるからって王子様気取りしてんじゃねーよ!」

「キャー!だれか、喧嘩よ!」

バシィッ!
「安っぽい地方で悪かったな・・・。」
リョウめがけ飛び出した男の拳を片手でつかんでいたのはテルヒコだった。

「あんだァてめー。」

「こいつも修正されてぇようだぜ?」

はいはいぜんぶわかった・・・というかのように静かにリョウは顔を上げた。

「お前ら、興味があってきたんだろ?
おれさ~、生憎"そういうの”趣味じゃないんだよネ。
これでオッケー?」

そのとき一瞬で天高くジャンプしていたリョウの右足による蹴りがそれまでしつこく粘着していた不良の右顔面に直撃していた。

「ってめえな!」

つかんだ手を振りほどいた隙に付け入るようにもう一人の男の拳がテルヒコのみぞおちにクリーンヒットする。

「!」

「な~んだ威勢がいいだけじゃ・・・?!こいつッ」

「ぉいおい、総合やってる三島のボディブローを、こいつ・・・どーなってんだよ。」

何発腹部と胸部に直撃を喰らっても一切表情を変えずに、焦っているその男をテルヒコは見つめ続けていた。

「・・・・この程度で、やれると思ってんのか。」

ボスッ!
「ッグホオッいったぃ・・・・」ドスッ。

瞬時に放たれた直線的なストレートな拳は遠慮なしに不良の顔面に直撃しめりこんでいた。

「鼻はやったな・・・こりゃあ~、よけい不細工になってかわいそ☆」

野次馬のごとくその様子を観戦するリョウ。

「おぇええっ!ぐぅおええ!・・・・?」

殴られた男が一人地面にうずくまり嘔吐を始める。テルヒコの背後に何かがもやとなり煙が赤黒く登り立っているのを

その男は見た。

「110番!け、警察よんだ!おまわりくるよー!」

後方から大声でハナが叫んでいるのをしっかり聞いていた男たちはよろめきながら立ち去っていった。

「ぅ・・・なんだこいつら・・・おおい立てるか、いくぞ・・・!」

二人が立ち去った直後、テルヒコはハナにびっくりした顔で尋ねた。「ホントに呼んだのか?」

「嘘よー!なんともない?」

「新品のシューズが台無しになるとこだった。よかった・・・援護射撃サンキュー。ハナ。
・・・あんたもなかなかやるじゃん。」

「面倒なことに付き合わせちゃったな・・・立ち話もなんだから、あっちで話そ。」

不良たちが去った後、何も言わず丸い屋外のテーブルにテルヒコ、リョウ、ハナら三人は静かに座った。

リョウはテルヒコに対し美しくもどこか危うさを思わせる切れ長の視線で笑みを浮かべ、ニヤリとこう言った。

「率直に言ってさ・・・・・あんた、〝創聖(そうせい)″するんだろ?」

笑顔の直後冷静な表情になるリョウを前にして、ハナとテルヒコの周囲に一線の奇妙な緊張感が走る。

「・・・・・・・・・!お前、なんでそれを知ってる。」

本気なのか冗談なのか判別できないそんな笑顔で、リョウは続ける。

「なかなか惹かれるよなー、あんな力があったら、俺だったらどうしよう!俺ならああするぞって誰だって思うじゃん?」

「いろいろ知りたいなあと思ってさ、あんたのこと。」

先日のリョウの意味深な挨拶。感じていた疑念はやはり当たっていたとテルヒコは思った。

「こいつ(刀)のこともな。」

テーブルの上にガンと青いその物体をリョウは差し出した。

「こいつは、リューグレイザ―・・・・!(水騎龍/リュウの持っていた・・・!)」

「キミがどうしてこれを・・・・!」

張り詰めた空気の中で、ポケットの中から即座にアマテライザーを取り出そうとするテルヒコ。

「で、そいつ(鏡)のこともな。」

「・・・・・ッ!」

「おりゃ全然ゲームでいうところのビギナーだからな。プレイ時間の長いあんたに聞いたほうが早いじゃん。そうだろ?」

青島の海中洞窟内で、手にした水神召喚刀リューグレイザ―。

リョウはウミヒコ・ヤマヒコ兄弟という神霊のサポートで知り得た知識以外の三神器(それら)についての情報に内心強く興味を抱いていた。

「そいつを持っていたら・・・危ない。俺に渡してくれ。」

「おっと(自らの神器を取り上げ)、そういうわけにはいかないんだな~。
ついに俺も変身できたんだモン、あんただけじゃ力不足なんじゃないの?」

ピリリと張り詰めた空気を和ませようと咄嗟にハナが割って入る。が、余計に空気を複雑にしてしまう。

「お、お兄ちゃん、これは!リョウはあの、ヒーロー物が好きなのよ!特撮ヒーローの大ファンなんだよ!
御面(ゴメン)ライダーとかヌルトラマンとかハイパー戦隊とかバーベルとか好きだから興奮しちゃって…、
お兄ちゃんも一応ヒーローじゃない!
だからテルヒコ兄ちゃんが創聖者っていうことも・・・。」

「それに、ハナちゃんもどうしてそれを知っているんだ?・・・二人とも一体・・・・。」

一方クロウ本部において白と黒の仮面をつけた二人の怪人(九尾の狐と石上)が怪しげな妖気の中恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。

「占いはいい。財閥や政界の連中、芸能界も・・・
我々のクロウの暗黒呪法によりみんな人心掌握されちゃっている!」

「人間世界の言行一切は我々の手の中におさまってるといっても言いすぎではない。
お前も人間どもの最新の流行はちゃんとチェックしているのだな~。」

「時代がどんなに変わっても、人間たちは変わらないよねェ、石上。絶対かなうわけもない夢や、
己の欲望のために身を粉にして働いてくれる・・・。
こういう連中が多ければ多いほど、僕らは非常に助かるんだよね。」

「愚かな人類は昔から、見えもせぬ己の幸福や未来の安泰のため、占いという下等な呪法に手を染めてきた~!
時代によって手を変え品を変え、名を変えながらリバイバルされてきただけだ。」

「何の神が・・・・悪魔が力を与えるか、知りもしないのに惑わされる。
その心情はひとかけらも変わっていない!ほんと~に馬鹿な奴らさ。」

「人知を超えた力があれば無分別に群がる蛍光灯の蛾ども!
・・・それが誰でも己の利益となるモノのみを神と思う不誠実さ、人どものおぞましい醜態だなあ。」

暗黒渦巻く本部内、テーブルの上に置かれた大きな料理蓋を九尾の狐が指さしつぶやいた。

「その正体は・・・・こいつさ。」

開けた蓋の中にいた動く"それ"を見て石上は息をのんだ。

「これはなかなかコアな・・・意外なチョイスだな。」

「だろ~?そんな人間どもにふさわしい姿に、これからなってもらうよ!コーン!」

真っ白いテーブルを囲み、三人の神妙な空気は続く。
終始ライトなテンションで話し続けているリョウ。どうにか場を収めようと気をもむハナ。

「俺と手を組もうって話。別にそう悪い話じゃないと思うんだけどな!」

「私がさっき言ったことは、その・・・」

テルヒコは、リョウとハナ二人の顔を見て、息をつき静かに言い放った。

「キミたちは、俺と関わらないほうがいい。」

普段と違ういつになくあまりに真剣な表情に、ハナは言葉を挟むことができなくなっていた。

「どうしてそんなせっしょーなこと言えちゃうわけ?ずいぶんなやつだな~。」

冷静な表情でリョウが尋ねる。

「キミには自分の居場所や大切なものがあるだろ?悪いようには言わない。はやくそんなモノ(神器)は手放したほうがいい。」

「これは遊びじゃないんだぞ・・・!」

「じゃ、どんなことをすればオッケーなわけ?ぜったい面白くやれると思うんだけどなあ。」

「・・・お兄ちゃん、リョウは、すっごくいい人なんだから!だから」

「・・・ならなおさらだ。そのリューグレイザ―についても知っているんだろう。命が惜しくないのか?
それにキミ、それをどこで手に入れた?」

「教えてやってもいいけど、あんたがそうなら・・・どーしよっかなー♪」

「すまない、時間をとらせたな・・・。俺はこれで失礼する。ハナちゃん、行こう。」
テルヒコはいつになく深刻な顔で、リョウから目をそらしハナの手を引こうと席を立った。

「お兄ちゃん・・・・・。なんで。」

「おいおい、行くのかよー!ちゃんと俺の話、考えといてくれよ!」

ハナの手を引いたテルヒコは立ち止まり、何とも言えない表情で言った。

「キミには君を待っている日常がある。キミを待っている人たち。その人たちを感動させたり、喜ばせるために踊っているんだろ?
なら・・・それで充分幸せじゃないか。それをなんで・・・。」

「俺とかかわったヤツは、必ず不幸になる。」

かつてテルヒコの前にライバルとして現れ、己のやり方でマガツカミと戦おうとした青のオージ(水騎龍)の存在。
クロウの手により改良がくわえられ復元された神々の神器であるリューグレイザ―は、普通の人間であったリュウの肉体を蝕み
最終的には暴走を引き起こしてしまった過去があった。

自らの親友でもあるリュウの暴走を自らの手で、その拳で止めようとしたテルヒコにとって
目の前で玩具のごとく無邪気にリューグレイザーを振り回すリョウを見て、
なるべくこの一般市民をこの物騒な件に関わらせたくないという気持ちが募るのは当然であった。

その言葉を聞いてリョウはテルヒコの背に返した。

「格好つけんなよ~。」

「あんた、そんなこと言っといてこないだ(前日)・・・捨てられた犬みたいな顔してたぜ。」

その言葉を背に受け、一人静かに肩を振るわせてテルヒコは心配そうなハナを引き連れ歩いていった。

「ッ、俺とキミは違う・・・・・・・・!」

「ごめんリョウ!あとでテルヒコ兄ちゃん説得しとくから~!またね!」

テルヒコの背中を押すハナの活発な姿を見てリョウはいつものように笑い彼らを見送った。

「まったく~。ハナも一丁前だよな。いったいどっちが大人で、どっちが子供なんだか。」

「ま、最初の最初はこういうもんだよ、な。アニキ。俺たちうまくやれると思うぜ?」

リョウは亡き兄、水騎リュウの託したリューグレイザ―に微笑み語りかけた。

その直後、イベント会場から二人の女性が慌てて飛びだしリョウのもとへやってきた。

「ちょっと!さっきの奴らが・・・・」

倒れた二人組の男。先ほどテルヒコとリョウに因縁をつけてきた男が地面にうずくまりもがき苦しんでいた。
「おーい大丈夫かー?ちょっと大げさな・・・?!」

男の首からは謎の禍々しい文字と思しき刺青のような刻印が浮かび上がった。

「なんだこりゃ・・・・」

「省吾!しっかりして!・・・・うそ、こんなタトゥ無かったのに?!もしかして・・・」

「おいミカ、そいつ・・・」

男の女友達らしき女性が首からぶら下げていたネックレスのなかから、ガラガラゴロゴロと謎の異音が響く。

「グルル・・・・・!(リューグレイザ―)」

「リューグレイザ―!どうした?!(リョウ)」

リョウのリューグレイザ―がいつにない声で唸る。その声と波動にかく乱されるように

男たちは苦しみ出し、リョウは咄嗟に男たちのペンダントを勢いよく蹴りつけた。

「きゃ、なにするのよ!・・・・・きゃーーーーっ!(女性)」

「・・・これ・・・(リョウ)」

男たちのペンダントの中に入っていたのは、醜い緑の蟲。アゲハ蝶の幼虫だった。

「俺には理解できない趣味だな~・・・あんたもそう思うだろ?(リョウ)」

リョウの隣にいたのは、先ほど立ち去ったと思われたテルヒコとハナだった。

「ああ。ちょっと待ってくれ。(テルヒコ)」

テルヒコはポケットから取り出したアマテライザーをその虫にかざすと、黄色い光が照射された。

「ユタカ、こいつの正体を教えてくれ。(テルヒコ)」

「・・・・・・・(ユタカ)」

「おい、緊急事態なんだぞ!ユタカ!(テルヒコ)」

「さっき黙っておけと言ったじゃない。・・・これは常世の神ね。間違いないわ。(ユタカ)」

「常世の神?!(テルヒコ・リョウ・ハナ)」

「日本書紀にも出た真っ赤な偽物の神よ。かつて富士川のほとりで暮らしていた大生部多(おおふべのおお)という人物が
この虫(アゲハ蝶の幼虫)を神だと謳って人々に信じさせたの。(ユタカ)」

「でも、これただのキモい虫じゃないのよ。こんなのなーんの御利益もないでしょ?(ハナ)」

そそくさと鏡に近寄りのぞき込むハナの横顔へユタカは冷静に答える。

「そもそも、ご利益目当ての人間を助ける都合のいい神などいないわ。いるとすると(ユタカ)」

「マガツカミくらいだろうな。(テルヒコ)」

いつものごとくアマテライザーからの反応に一人こたえるテルヒコ。

「その人物は大生部っていったんだよな、大生部(大生部愛理?!)・・・・・・・・!」

「これ、先生の呪いなのかな?愛理先生のペンダント・・・。省吾最近すっかり人が変わっちゃって。
彼が先生のこと信じなかったから!・・・どうしよう!(女性)」

「おいそれ、どういうことだ?!あの女占い師か?・・・やはりこれもクロウの仕掛けた作戦か!(テルヒコ)」

「ハナちゃん、そこで待っててくれ!すぐ戻る!(テルヒコ)」

きがつけば、テルヒコのアマテライザーのやりとりを眼にした事件の野次馬たちが数人群がっていた。
「すげーな、それ(鏡)いったい何?(群衆の声)」

「防犯ブザーだ!(テルヒコ)」

テルヒコはバイクにまたがり大生部がいるオーシャンムード(総合レジャー施設)まで急行した。

「・・・・・・キミもなんで?!(テルヒコ)」

テルヒコがフェニックスロードを走り抜けるさなか、隣を同時に並走していたのはリョウの青いバイクだった。

「俺たちも置いてけぼりなんてごめんだぜ。なあハナ?(リョウ)」

「そーいうこと~!(ハナ)」

「ハナちゃんまで乗ってるし・・・・事故ったらお前・・・!(テルヒコ)」

「オンロードって意外だな。ヒーローは決まってオフロードだろ~!かっとばすぜ~!(リョウ)」
(※オフロード=荒地などでも走れる走破性の高いバイク。モトクロスなどで使われる。オンロードはスピード重視の公道・レーサー用バイク)

宮崎市街近郊にある総合レジャー施設、オーシャンムード。屋内に本物の海を模したプールや
巨大アトラクション、海に映し出される立体映像などが楽しめるバブル期に建設された本県においても有数の娯楽スポットである。
2000年台中盤に経営が立ち行かなくなり解体されることが決まっていたが、奇妙なことに解体される直前に存続が決まる。

存続は決定したものの娯楽施設ではなくなり、テナントを様々な企業へと貸し出すイベントスペースとなり生き残ることとなった。
以降何年間も近隣の住人でさえもよりつかなくなるような謎のスポットとしてオーシャンムードは形を残すこととなった。

「・・・ここが大生部愛理という女のいる場所か」

「しかし誰もいないのはおかしいな、結構有名じゃないか、あのアイリとかいう人。ほら!」

リョウが取り出したスマホのyoutude動画には大生部が映っていた。

「ネットの世界でも人気なのか・・・・。(テルヒコ)」

「わたしのクラスでも好きだっていう子がいるけど、私なんだか気持ち悪いって思ってて。チャンネル登録しないでよかった~。(ハナ)」

「子供たちの中でも知られてるんだな・・・。(テルヒコ)」

「神器の反応を悟られないようこちらからは通信を切るわ。(ユタカ)」

テルヒコら三人が会場屋内に向かい階段を上ってゆくと、その扉は開け放たれていた。

「ほんとに異様だな。もし万一ということがある。ここからは俺が行く。リョウ君、キミはこの子(ハナ)を頼んだ。(テルヒコ)」

「・・・しょうがないな。わかったよ!気をつけろよ。(リョウ)」

「リョウは意外とこういうの信じちゃう方だからね!やめといたほうがいいよ。(ハナ)」

「それとこれとは関係ないでしょー!お前もお化け屋敷苦手だろ?!(リョウ)」

「あれは音が苦手なだけだよ!あんなん作りものじゃない!(ハナ)」

「・・・・それはいいが、二人ともちゃっかり俺についてきてるじゃないか・・・。(どうしよう・・・)(テルヒコ)」

真っ暗闇の室内は想像以上に狭く、バロック調の椅子に座る大生部愛理の姿がスポットライトに照らされていた。

人気占い師の開催するイベントにしてはあまりにも陰気臭く、スポットライト頭上には無数の虫たちがたかり騒がしくぶつかり合っていた。

「よくぞお越しくださいました、私の鑑定ルームへ。あなたの最も欲するところの、願いを教えてください。(愛理)」

「・・・すべての人を、一人でも多くの魂を救うこと。(テルヒコ)」

「それは素晴らしい願いです。ですがあなたの魂はあまりにも傷つき汚れ切っています。(愛理)」

「終わることのない暗闇が見える・・・・・・・・。あなたは戦い疲れ、その心は限界を迎えようとしている。(愛理)」

その頃リョウとハナは完全にテルヒコと暗闇の中はぐれてしまっていた。

「どうなってんだよここ!さすがオーシャンムードを改装しただけはあるな!ひろすぎてわかんねえ!(リョウ)」

「おーいテルヒコにいちゃ~ん!(ハナ)」

「あっ、リョウ!・・・・あれ見てよ!キャっ!(ハナ)」

「ちょっとそこで待ってろ・・・確かめてくる。(リョウ)」

「グルルるるるる・・・・・・・・・(リューグレイザ―)」

暗闇の中スポットライトに照らし映し出されていたその光景は、あまりにショッキングなものであった。

「こりゃ、人間じゃねえか・・・。」

うめき声と共にのたうち回る奇怪な姿の人間たち。1人には蝶の羽のようなものが生え、標本のように
巨大な杭で磔にされていたのである。

「うっわあきっしょ!」
無数に地面を這う虫が奇怪な姿の人間たちの周囲に蠢いていたのを見てリョウは戦慄した。

「・・・貴様・・・私のお楽しみを覗きみたな~?カァアアアーッ!」

そこはかすかに実験室か何かのようにさえ思えた。
血に濡れたメスを持ったその男、石上が暗闇の中から黒いペストマスクを揺らし現れる。

「好都合じゃん!それ相当の対戦相手がいなくっちゃあはじまんねえからな!(リョウ)」

「こんなところに丸腰で来るわけないでしょ?!(ハナ)」

すかさず自らの神器、リューグレイザ―(剣)とサクヤイザー(勾玉)を取り出したリョウとハナは石上に対し
瞬時に戦闘態勢の構えをとった。

「・・・貴様ら、いったいどういうことだぁアーっ!(石上)」

そのころ、大生部愛理と対峙するテルヒコは闇の中問答を続けていた。

「わたしには、あなたの魂が暗闇に堕ちゆくのが見える。
あなたは大切な人を失い、そしてその時の想いがあなたを駆り立てる理由になっている・・・。違いますか?(愛理)」

「あんたは俺の祖父の話をいっているのか?(テルヒコ)」

「・・・おじいさん・・・。いいえ、もっと深い記憶。・・・それよりあなたがもっと・・・・??!!(愛理)」

「もう一つ、大切な願いを言い忘れていた。(テルヒコ)」

「??!(愛理)」

「お前らのような奴らを一匹残らず祓うことだ。(テルヒコ)」

「貴様・・・・・(愛理)」

それまで赤紫の刺繍が施されたローブに身を包んでいた大生部愛理の爪が、人間ではない魔性の物へ、生々しい音を立て変化した。

「俺の過去を覗き見たようだが、ほんとに"力"はあるんだな。だが狐憑きとたいして変わらない霊力だ。(テルヒコ)」

「そんな手品、三日で聴衆に飽きられるぞ。(テルヒコ)」

「うっるさいねえ、私の言うことを聞かない人間は、みんな地獄に堕ちるんだヨォオオッ!・・・・・(愛理)」

拍手と共にどこからともなく九尾のいやったらしい透き通った声がアナウンスとなり聞こえてくる。

「不十分で申し訳ないね。キミを欺くにはそいつはあまりに捨て石すぎた。(九尾の狐)」

禍々しい極彩色に彩られたアゲハ蝶の怪物(常世蟲大アゲハ)のような姿となった愛理は、狂気の中テルヒコに襲い掛かる。

勢いよくテーブルを天井に蹴り飛ばしたテルヒコはアマテライザーを勢いよくかざし創聖する。

「創聖!(テルヒコ)」

「ソウセイセヨ・アマテライジングパワー。(アマテライザー)」

「シャイニングフィールド!」

オージが創聖された直後、放たれた光が会場全体を包みオーシャンムードのイベントホールは日中のような明かりに包まれた。

「・・・・・あれは!(テルヒコ)」
その直後、巨大な蒼い斬撃がホール天井に走り、オーシャンムードは開けっ放しの屋外プールがあった全盛期のように
天井に大きな空間が開き、空から日の光が室内に差し込んだ。

「そんなに陰気臭くっちゃあ面白くない!これで三人そろったな!ハナ、テルヒコ!(リョウ)」

「・・・リューグランサー!青のオージ!(テルヒコ)」

「おいそこのなんか変な黒い怪人(石上=カラス男のこと)みたいなやつ!ちゃんとこっち見ろ!そうそれでいい!
俺は新たな青のオージ!水神ジャスティオージだ!(リョウ)」

「そんなこと、知るカァアアアーーーッッッ!(勢いよく羽を広げ向かってくるカラス男)」

「わからせてやるぜ!タアアーーーっ!(リョウ)」

鮮やかに空中に飛びあがり回転したリョウから放たれた蹴りは、古びた室内プールの水しぶきを浴び勢いよくカラス男の
胴体に連続で炸裂した。

「ドラゴンウォーター、ミサイルキック・・・!」

ドスーン!
「決まったぜ・・・・俺が命名した必殺技第一号・・・・!(リョウ)」

「お兄ちゃん、ごめん!(ハナ)」

いきなり頭上からピンク色の光の弾が飛んできたかと思えば、テルヒコの目の前に見たことのない黒い戦士が煙を吹く桃色の長銃を抱え
立っていた。
「・・・痛!いった!(弾が一部かすめる)・・・・お兄ちゃんって、キミは・・・(テルヒコ)」

テルヒコの後ろに倒れていた大生部愛理であった“その怪物”はよろめきながら奇声を上げ天高く飛翔した。
「やるじゃんかハナ!ナイスプレーだ!(リョウ)」

「なに?!あれは、ハナちゃんなのか!(テルヒコ)」

「いや、俺はあの戦士を覚えている・・・・・・・・あれは確か・・・・(テルヒコ)」

「姫神サクヤ?!どうしてあんなところにいるの?!(ユタカ)」

「サクヤ・・・(テルヒコ)」

「いっけええええ!!(ハナ)」

ハナが姫神サクヤの長銃(ガトリング砲)、フローランチャーを連射するその気弾の中
弾をすり抜けるようにその隙を縫うコンビネーションで水神オージが彼の持つ竜王剣ドラグブレイカーで
愛理の変化した大アゲハを斬りつけてゆく。
「いくぜ兄貴。次はこいつだ!アクアスティンガー!(リョウ)」

「・・・キェエーーーッ!(愛理/大アゲハ)」

大アゲハの毒気、妖気に包まれた鱗粉がトンファー、アクアスティンガーを振るおうとしたリョウの全身をとらえた。
「ッぐあああっ!(リョウ)」

ドサッ。

地面に叩き落されるリューグランサー。
黄色い鱗粉をまき散らし空を舞う4メートルはあるであろうグロテスクな大アゲハ蝶の生々しさは、およそ美とはかけ離れたものだった。
「いたた、やっぱりこれ(アクアスティンガー)俺に向いてねーのかなー。・・・しっかしあれで蝶かよ、グロいなあ。」

「世界を滅ぼすほど欲望を吸った常世の神の真形態!(カラス男)」

「なかなかのチート兵器だ!エクセレントだよ大生部愛理!最高だ!(九尾の狐)」

「ーーーーーーーーーーー!!!!!(愛理/大アゲハ)」

急激な、常世蟲への身体変化の影響で人間としての声帯を失い声にならない失望と絶望を主張しようとする愛理。

「新しい自分に、美しい姿になりたかったんだろ?
キミが手に入れたかった欲望の全てが、その肉体に詰まってるじゃないかーハハハハハ!(九尾の狐)」

「新たなマガツカミを産みだす計画のおっぱじめとしてその女には十分働いてもらった。
その女の売りさばいたアイテムは人の精神を依り代へと封じる力があるのだ!(カラス男)」

「もっともあれはただの虫だ。常世の神なんて存在しない。(九尾の狐)」

「幸せになれる、そんなまやかしに騙されて・・・手に入ってもいつかみな消える!
すべては一時のまやかしだ!この世にそんなものなんてないんだよ!(九尾の狐)」

「ハアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!(テルヒコ)」

ビシュっ!

日神オージのアポロンソードが大アゲハの片方の羽根をかすめた。

「!!!(大アゲハ)」

「ターゲット照準。マリナーズ、スプラッシュ!(リョウ)」

水神オージの神技、マリナーズスプラッシュが大アゲハのボディに直撃し、愛理の精神にさらなる激しい混乱と動揺が起こる。

「私たちもぼさっとしていられないわ!神技を決めろ!最大出力で飛ぶわよ?!(ユタカ)」

「できるか?!(テルヒコ)」

「神器の力を試すとき。せっかく三人そろったんだからゲン担ぎよ!(ユタカ)」

時間稼ぎとばかり遠距離より大アゲハを撃ち続けるサクヤ。

「はやく!隙ができてるうちに!(ハナ)」

「うぉーーーーーーーーーーーーッッツ!(テルヒコ)」

「行け!決めろォオ!(リョウ)」

テルヒコをスラスターの出力全開で押し出していたのは水神オージ、リョウだった。

「リョウ、助かる!こいつでどうだ!(テルヒコ)」

日神オージのテラセイバーが空中の大アゲハの脳天にエクスカリバーのごとく突き刺さった。

「救世神技!サンシャインズストライク!!!諸々のマガゴト罪穢れを、祓えたまえ、清めたまえ!(テルヒコ)」

「ア゛アアア゛アア゛!!!!!!!(大アゲハ)」

舞い散る鱗粉と共にその巨大な禍々しい姿のアゲハ蝶は空の中に消失した。

「よかった!みんな大丈夫みたい。(ハナ)」

戦いが終わり、オーシャンムードの中で実験材料にされかけていた人々は
無事そのほとんどの人数が解放されたかのようだった。
だがリョウたちが見た怪物化の進んでいたであろう人間たちがその中のいったい誰であるかということを
テルヒコたちは確認することがついにはできなかった。

「くそー!あの女俺のこと騙しやがって!もうちょっとで大台に乗れるところだったのによ!(男)」

「訴えてやる!あの詐欺師!(女)」

ギャンブルのことだろうか。自らの願いが、幸福がかなわなかったことを嘆き悔しがる人々の声が聞こえた。
それまで彼女(大生部愛理)を信じていたであろう常世の神に惑わされていた人々の姿があった。

「かわいそう。みんなただ信じてついていっただけなのに。(ハナ)」

テルヒコのアマテライザーから響くユタカの声。

「ほおっておけばいいわ。あんな連中は。(ユタカ)」

「・・・?!(リョウ・ハナ)」

「だってそうじゃない。幸せになりたいという願いも、見境がなくなれば醜い欲望よ。(ユタカ)」

「ある意味、自業自得よ。(ユタカ)」

「ま、アマテライザーにそう言われちゃかたなしかもな。だけど幸せになろうとするから頑張れるってこともあるんじゃねーの?(リョウ)」

「どんな理由であっても、幸せを求める人々の想いに付け入る奴らを。クロウを俺は絶対に許さない。(テルヒコ)」

「助かったよ、二人とも。(テルヒコ)」

「礼は要らないよ。だって俺たちこれからチームってことだろ?(リョウ)」

「・・・・それは、(テルヒコ)」

その時テルヒコの心の中に一瞬自分でも気づかない感情が芽生え始めていた。

「(仲間・・・・・・。)」

「教えてくれ、ハナちゃん。そしてキミのこと。一体何者なんだ?!(テルヒコ)」

「言い忘れてたな。俺の名前は水騎リョウ。あんたがダチだった水騎リュウの弟だ。これからよろしくな!相棒。(リョウ)」

③~Encounter~二人の王子

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