五歳の時、

両親が交通事故で死んだ。



不幸のどん底にいた

私の前に現れたのは、

見知らぬお爺さんと、

五人の執事だった。





この見知らぬお爺さんは、

私の母の父親らしい。





爺さんの話によれば、

私の母は父との結婚を反対され、

駆け落ちして私を産んだそうだ。



両親が死んで、この爺さんは

唯一血の繋がりのある私を

引き取りに来た。



貧乏な暮らしをしていた私は

一転、

金持ちのお嬢様になってしまった。





……と、

ここまでは、よくある話。





高校一年の春、

引き取ってくれた爺さんも死に、


私に残されたのは


大きな屋敷と

多額な相続税が引かれて残った

僅かなお金と五人の執事だった。





「さて、どうしたものか……」





これはリーダー格の黒川。



極悪非道で

いつも私を見下しているが、


背が高く、力も強く

一番頼りになるので

誰も逆らえない。





「取りあえず、今、

 手元に資産が

 どれくらい残っているか

 計算してみましょう」





これは白石。



潔癖で薄情。

普段は無口なくせに

口を開けば毒舌。


人の為に動く事が大嫌いだけど、

お金が絡むと何でもやるタイプ。





「お嬢、心配するな。

 俺が守ってやるからさ」





赤井は私と同い年。



熱血で体育会系。

私より背が低いことを気にしている。





「まぁ、何とかなるんじゃないかな」





青田はいつも笑顔で優しくて、

私のお兄さん的存在。



普段からボーッとしていて

少々抜けたところがあるけれど、

ずっとそこに癒されてきた。



私は見たことがないけれど、

怒ると一番怖いらしく、

執事の中で恐れられている

影のリーダー的存在らしい。





「そうそう。

 今までの生活が

 夢みたいなものだったと

 思えばいいじゃん」





桃山も私と同い年。



いつも女の子のような格好をしている。

色白で目が大きく華奢で男のくせに

私より女子力が高いので、

百発百中、女に間違われる。



皆から『桃』と呼ばれている。





……と、



全員癖があって、

誰がこの屋敷の主人なのか分からず

一緒に暮らしてきたけれど。



お金の無い今、

五人の執事を

雇い続けることも出来ないので、

今日をもって解雇することにした。





「黒川、白石、赤井、青田、桃。

 今までありがとう。

 皆と別れるのは
 
 少し寂しいけれど……。

 本当に少しだけ寂しいけれどッ!」



「何を言っているんだ?

 このすっとぼけたお嬢さんは」





黒川……。

最期の時ぐらい優しく接する事は

出来ないの?





「そうそう。

 お嬢が幸せになるまで、

 俺達はここにいるからな」





赤井ー。





「うんうん。

 お嬢には是非、

 大金持ちを捕まえて

 結婚してほしいよね」





青田ー。





「あの……。

 皆の気持ちは嬉しいけれど……。

 私はお金持ちになりたいとか、

 そういう願望は
 
 全くありませんので……」





「お嬢。貴方は馬鹿ですか?

 お嬢が早く

 金持ちとくっついてくれなければ、   

 俺達は無職ですよ?

 明日からハローワークに行けとでも

 言うのですか?

 ハローワークに

 執事の求人があるとでも

 思っているのですか?」





え?

そっちの心配?


「お嬢。
 皆で応援するから頑張ろうよ!

 ねっ?」





えぇ~?







こうして私は、

半ば強制的に

恋愛ファンタジーの世界へ

足を突っ込むことになった。





「まず、

 今の時点で
 
 資産がどの程度残っているか

 調べよう」





黒川達が

私を無視して

勝手に資料の整理を始める。





「黒川君。

 お嬢が受け取る資産の見積もりが
 
 出ましたよ」





「さすが計算が早いな。白石君。

 ……で、いくら程あったか?」





「動産だけ、ざっと見積もって

 三十億円程度でした」





「あー。やはりキツいな」





冗談ですよね? 黒川。





「この額だと、

 我々五人が

 お嬢に仕えるリミットは

 五年が限界ですね」





真顔で何を言っているんだ?

白石。





「あの爺さん、

 財産なら沢山あるから
 
 大丈夫って……。

 あるある詐欺かよ!」





死んだ人の悪口言うのは

止めようよ、桃。





「こうなったら、

 お嬢には

 何とか五年以内に結婚を!

 ……って、

 絶対無理だー!」





さりげなく酷いな。赤井。





「だよねー」





青田ー。





「……あの。皆さん?

 無駄遣いさえしなければ、

 六人揃って十分生活していける

 額だと思いますが。

 ……と、言うか、

 極貧でも何でもないと思います。

 むしろ、

 お金持ちの部類に
 
 入るのではないかと……」


「甘い! 甘すぎる!

 これだから世間知らずの

 お嬢さんは!」





え? えー?

私が世間知らずなの?





「そうですよ。

 我々にタダ働きしろと

 言っているのですか?

 しかるべき場所に行って

 訴えますよ?」





この人達、

今までいくら給料を貰っていたの?





「そうだそうだ。

 給料払わないなら

 ストライキを起こしちゃうからね!」





もう何でも自分でやるから、

永遠にストライキを

起こしていて欲しい。





「そうだそうだー」





青田……。





「こうなったら五年間、

 金をつぎ込めるだけつぎ込んで、

 お嬢を改造しようぜ。

 少しは結婚できる確率が

 上がるだろう」





「あ、赤井。

 そのお金、もったいないよね?

 そこにお金を掛けなければ、

 普通に暮らしていけると

 思うのだけど……」



「何を言っているのですか?

 世間知らずな甘ったれお嬢さん。

 鯛は海老でなければ

 釣れないのですよ?

 今のお嬢は

 ドジョウかシラスか

 酢コンブです。

 酢コンブで鯛が釣れるとでも

 思っているのですか?

 我々の将来を、

 もっと真剣に考えて頂きたい!」


白石……。

そんな事を真剣に

考えているお前が怖いよ。





「そうだそうだー」





 青田……。

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