こうして


『お嬢を何とか金持ちと

 結婚まで漕ぎつけさせる

 五ヵ年計画会議』


が、私の意向を無視して

進められた。



「まず、

 恋すらした事もないお嬢を

 何とかしなければ、

 結婚まで漕ぎ着つけさせるのは

 難しいな」



「そうだよな……。

 軽いジャブ程度に

 高校の先輩あたりと

 付き合わせてみるのも手だよな」



赤井。

そんな軽いノリで初恋を済ませる

お嬢様が何処にいますか?



「でも、お嬢も片想いぐらいは

 した事があるみたいですよ?

 毎晩、吐き気を催すぐらい

 気持ちの悪いポエムを書き綴って

 いましたからね」



白石。

何故それを知っている?

吐き気を催すぐらいなら、

何故全て読んだ?



「へぇー。お嬢のポエムか……。

 後でこっそり

 見に行って来ようかな」



青田……。

私の目の前でそれを言ったら

駄目だよね。



青田が読む前に

私の黒歴史を全て焼き尽くして

おかなければ。



「アハハ。片思いなんて

 恋愛の数に入らないから」



いやいや。

この中で恋愛したことがある人

いますか?


お前達が恋愛しているところなど、

全く想像出来ませんが。



「まぁ、俺と桃が学園の中で
 
 目ぼしい奴を見つけるからさ。

 さっさとお嬢の初恋を終らせて

 しまおうぜ」



ちなみに

赤井と桃は私と同い年なので、

小学校の頃から

金持ちのご子息ご令嬢が通う

エスカレーター式の学園に

一緒に通っている。



そんなお金があるのが不思議。



「あの……。皆さん?

 そんな軽い気持ちで、

 夢にまで見た私の初恋を

 捨ててしまいたくは

 ないのですが……」



「お嬢。また何夢みたいな事を

 言っているのですか?

 そんな砂糖付けの脳ミソだから、

 あんなヘドが出そうなポエムを

 毎晩書いてしまうのです。

 書いていて

 恥ずかしくなかったのですか?

 もっと現実と向き合ってください」



いや。

書いている時はテンションが

上がりまくっていたから

全然恥ずかしくなかったんだけどね。


今は白石の記憶ごと

消え去って欲しいと思っているよ。



それより

現実と向き合って欲しいのは、

お前達の方だ!



「へぇー。

 そんなに酷いポエム、

 ますます読みたくなっちゃうな。

 会議中だけど

 少し席を外してもいいかな?」



待て、青田ッ!



私は青田に暗黒の歴史を

紐解かれるのを阻止すべく、

ひたすら長い廊下を猛ダッシュして

自分の部屋に入り、

部屋の扉の鍵を締めた。



フー。危ない危ない。

青田は何を始めるか分からない。


ある意味、

一番の要注意人物だ。



コピーしてご近所中に配ったり、

名言をTシャツにプリントして

極悪執事どもに配り、

翌日から執事のユニフォームに

されたり……。



ヒィ!

考えただけでも恐ろしい。



私はクローゼットの中や

ベッドの下、天井裏など、

ありとあらゆる場所から

黒歴史をかき集めた。



白石、

どの日記を読んだのだろう……。



チェストの下着の中に

隠しておいた日記。



もしこの日記を

読まれていたのなら、

下着と黒歴史の

両方を見られた事になるので、

ダブルショックだ。



私は全ての黒歴史を

風呂敷に包んで背負い、

別の部屋からライターを見つけ、


ついでにキッチンから

サツマイモを調達して庭先に出た。



燃えろよ燃えろ黒歴史。


ついでにこの火で

美味しい焼き芋を作って

腹黒執事達に振る舞えば、

黒歴史の話題が

芋に移ってくれるだろう。



『シュッ』



ライターを着火すると、

後ろから

そっと誰かの手が伸びてきた。



振り返ると、

優しく微笑む青田の姿があった。



「お嬢、駄目だよ。

 どんなに恥ずかしいポエムでも、

 どんなに気持ちの悪い

 ポエムでも……。

 それはお嬢にとって

 大切な思い出の一つ。

 白石君が勝手に

 読んでしまった事は

 悪かったけれど。

 白石君だって、

 いつもお嬢のことを

 心配しているんだよ。

 今後、誰も盗み読みなど

 するつもりは無いから、

 安心して

 元の場所へ戻しておいで」



「あ、青田……」



「それにしても、
 
 たまには焼き芋も良いね。

 日記の代わりに

 庭の落ち葉を燃やして

 焼き芋を作らない?」



「は、はいッ!」



「なら、お嬢はその日記を

 戻しに行っておいで。

 その間、

 僕は落ち葉を集めておくから」



「は、はいッ!」



ううっ。号泣。

やっぱり青田は青田だ。


さっきは要注意人物だなんて

思ってしまってごめんなさい。



私は青田に涙を見せないよう、

風呂敷包みを背負い、

自分の部屋へ

日記を戻しに行った。



青田と一緒に芋を焼きながら、

私は昔を思い出していた。



青田が庭の手入れをしている時、

よく青田の隣で学校での出来事を

報告していたな……。


青田はいつも笑いながら

聞いてくれて。



点数の悪いテストを

持って帰った時は

「皆には内緒だよ」と、

落ち葉と一緒に

燃やしてくれたり……。



あ。でもその後、

黒川にバレて

滅茶苦茶怒られたな……。


何故バレたのだろう?



まあ、

それも良い思い出だよね。



「お嬢、良い感じに焼けたよ。

 皆は未だ会議中だけど、

 持って行って休憩にしよう」



「はいッ!」



私と青田が焼き芋を持って

会議中の皆の所へ戻ると、

皆は資料のような物を読みながら

盛り上がっていた。



「青田君、お嬢。

 会議中に何をしていたんだ」



黒川がギロリと睨む。



「あ……。
 
 芋を……、焼いていました……」



「ハァ? 芋だァ?

 そんなものばかり食っているから、

 お前はいつまでたっても

 イモ臭いと言われるんだ」



黒川、酷い……。

イモ臭いと言った奴は誰だッ!



「まぁまぁ、良いじゃないか。

 折角お嬢が皆の為に

 芋を焼いたんだ。

 少し休憩して、

 熱いうちに食べよう」



青田ー。



「よし。

 俺はお嬢の焼いた芋を食うぞ」



赤井ー。



「ボクも。

 ダイエット中だから

 炭水化物は

 あまり摂りたくないけれど、

 折角お嬢が

 焼いてくれたんだから

 食べるよ」



桃ー。



「仕方がないですね……。

 会議が白熱しすぎていたので、

 少し休憩しますか」



白石ー。



「……」



黒川……。


分かっている。

分かっているよ。

お前の性格は。



皆で芋を頬張りながら、

しばらくの間、

和やかな時間が流れた。


「ところで皆さん。

 何の話でそんなに

 白熱していたのですか?」



「お嬢の生態を

 分析していたのですよ」



白石が資料のような物を

私に手渡してくれた。



「……!」



こ……、これはッ!


私の黒歴史が

全てコピーされているッ!



しかもご丁寧に

誤字脱字は

赤ペンで訂正され、

白石の字で

評価と感想と

隠してある場所まで

書かれているッ!



『お嬢の部屋、白いチェスト、

 上から三番目の引き出し、

 下着の中』




フギャッ!



「あ……、青田?

 誰も盗み読みしないって……」



「やだなぁ、お嬢。

 盗み読みなんてしないよ?

 お嬢の目の前で堂々と読むから」



青田……。


思い出したよ。

昔からそんな奴だったよね。


お前は。


 

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