声を掛けてきたのは爽やかなスポーツマン系の男性だった。
小麦色に焼けた肌に短髪。イケメンの部類ではあるが、猿顔が苦手な私にとってはタイプから外れている。しかし、そこら辺を歩いていたら普通にカッコいいと思うレベルだ。
(って……私はどの目線からものを言っているのだろう)
男性を目利きすることが増えるので、女風を使い続けていたら性格が歪みそうだ。
挨拶もそこそこにして、ホテルに案内してくれる。
途中で思い出したかのように「手繋いでもいいですか?」と聞かれる。
手を繋ぐと、手のひらに汗をかいていて、相手の緊張が伝わってくる。
スマートに近くのホテルまで案内されるが、土日だったこともあり、部屋が一つしか空いてなかった。
「ここでいいですか?」とタッチパネルで示された部屋の金額は……休憩1万6千円。
いいわけない。高すぎる!
「ちょっと高いかなぁ……」
「そうですか……でも、俺、このホテル以外、よく知らなくて」
いやいや、来る前に調べないんかい。というツッコミは置いといて、私は過去の記憶を辿って別のホテルに向かった。90分で4000円以内という良心価格。
しかし、そこの部屋は空調が効いてなかった。
4月なので耐えきれないレベルではないが、暑い。
「ごめんね。こんな部屋選んじゃって……」
「大丈夫ですよ。俺の方こそ、案内できなくてごめんなさい」
モネくんの時と同様に床に跪いて、手を握られる挨拶から始まる。
「えっと……はじめまして、サトルです。今日はお時間いただき、ありがとうございます」
物凄く辿々しかった。
確かに、この挨拶は慣れないと恥ずかしそうだ。
私も軽く自己紹介をして、カウンセリングに移っていく。
「どうしてモニターを利用しようと思ったの?」
「えっと、その……」
今日限りでしか会わない相手に自分の職業をさらすのは気が引けた。
どうやって答えようか迷っていると……
「やっぱり、無料だから利用しようと思った?」と笑い飛ばされる。
(いやいや、失礼すぎん?)
しかし、無料であることに誘われたのも事実なので、私は大人しく頷くことにした。
カウンセリングの後はお互いにシャワーを浴びて、ベッドに上がる。
しかし、サトルくんは緊張して硬直している。
(まだデビューしてない新人さんだから緊張するよね)
「緊張しなくても大丈夫だよ。ほら」と言って、私はサトルくんを抱きしめる。
「ご……ごめんなさい。普通に可愛い人が来たから緊張して」
「何、その普通に可愛いって。もっとやばい女が来ると思った?」
「うん……モニターって、そういうものだと思ってたから」
この子、すべてにおいて正直すぎかよ。
デビューしてもやっていけるのか?と思いつつも、可愛いと褒められたのは嬉しかった。
モネくんの時も可愛いと褒めてくれることはあったが、営業トークの一貫にしか聞こえなかった。恐らく、彼はベテランなので可愛いお客さんに見慣れているからだろう。
しかし、この子の場合は本音に感じる。
というか、そもそも女性経験すら乏しいように見える。
「若そうに見えるけど、いくつ?」
「今年で22歳です」
「おっふ……10個も年下じゃん。これ犯罪じゃない?」
「え、ゆうさんって32歳なんだ。見えない。20代だと思った」
「えへへ、もっと言って、言って」
リップサービスで場の空気が温まったところでマッサージに入る。
マッサージのバイト経験があるらしく、上手かった。しかし、性感の方は……
「もう終わりの時間なんだけど……イケた?」
「う、うん! イケたよ!」
嘘である。
だけど、一生懸命頑張ってくれてることはわかったし正直に言うのも気が引けた。
痛くはなかったし、濡れることも出来たので十分満足していた。
「今日はありがとう」
「こちらこそ。デビューしたら頑張ってね!」
サトルくんと別れた後にアンケート結果をお店に送る。
すると、お店の人から枠が空いているので、もう一人モニターをしないかと誘われる。
正直言って、物足りない気持ちがあったので、翌週にもモニターの予約を入れたのだった。
ちなみに言うと、サトルくんがホームページに上がることはなかった。
彼はセラピストデビューできなかったのだった。