「女風に行こう」と決めてから、いざ予約しようと思うものの、勇気が出ずに1ヶ月が過ぎてしまった。夫が出張に行くことになり、ついに私はそのタイミングで予約を決意する。
まずはお店選びから始めた。昔と違い、今は女性用風俗の店舗数もセラピストの数も増えており、選択肢が多すぎて困った。どこのお店を選ぶべきか、誰を選べば良いのか。それだけで頭を悩ませた結果、私は住んでいるエリアで評判の良いお店を選び、そこのNo.1セラピストを予約することにした。
翌日の予約をしようと電話をかけたが、やはりNo.1セラピストは人気が高く、深夜2時しか空いていなかった。夜中にホテル街を一人で歩くのはさすがに勇気がいるし、深夜に休憩利用なんて出来るのだろうかという疑問もあった。
そこで、電話口のスタッフに相談すると「自宅利用はどうか?」と提案された。
自宅ならホテル代もかからないし、経済的だ。夫が不在の間に自宅に男性を呼ぶなんて、自分の倫理観を疑いそうになったが、もう電話してしまった以上、後には引けない。今日を逃したら、何かと理由をつけて先送りしてしまいそうな気がした。
私はその提案を受け入れ、自宅利用の2時間コースを予約した。
予約が済むと、私は急いで家の掃除を始め、待ち時間中ずっとそわそわして落ち着かなかった。やがて、インターフォンが鳴る。モニターに映し出された男性を見た瞬間、緊張が一気に高まり、「やばい、来ちゃった!帰りたい!」と思ったが、ここは自宅なので逃げることもできない。というか呼んだのは自分だ。
玄関に向かい、ドアを開けると、そこには坂口健太郎似のかわいらしいイケメンが立っていた。
顔が小さく、華奢で身長も低めの彼。しかし私も低身長なので、そこはあまり気にならない。何より、宣材写真通りのイケメンだ。彼は笑顔で「はじめまして、ゆうさん。お邪魔してもいいですか?」と声をかけ、私は緊張しながらも「どうぞ、入ってください」と家に招いた。
部屋の奥まで案内した後、さっそくコンビニで買ったペットボトルのお茶を渡す。
すると、「僕も持ってきたんですよ」と、彼もペットボトルの水をカバンから取り出した。
後で聞いた話だが、これは女風のマニュアルらしく、セラピストはお客さんにお水を渡すことになっている。更に水とお茶の両方持っていき、選ばせてもくれるセラピストもいるらしい。
「じゃあ、交換しましょうか?」と彼は自分の持参した水を差し出してくれた。
そして、彼は床に跪き、私の手を握った。
「改めまして、◯◯(店舗名)から来ました。モネです。今日は呼んでくれてありがとう」
俗に言う王子様のシンデレラポーズ。以前に利用した時はこんな演出はなかった。
まるでリアル乙女ゲームをプレイしているかのような気持ちになって、いつの間にか緊張を忘れて楽しくなってきた。
ちなみに今回は120分利用で、初指名費、交通費、深夜料金がかかって、総額26,000円だ。
支払いはクレジットカードで済ませていたので手続きは省かれ、カウンセリングが始まった。
カウンセリングとは、普通のマッサージ店でもよくあるヒアリングのことだ。
お店を知ったきっかけやマッサージしてほしい場所など簡単なアンケートに答える。
「じゃあ、ここから少しエッチな質問になるよ」
さっきまでの笑顔から艶っぽい表情に変わる。ちょっとドキッとした。
「嫌なことと、されたいことに〇と×をつけてくれる?」と、モネくんが差し出したカウンセリングシートには「キス」「全身リップ」「クンニ」「指入れ」「アナル」などの項目が並んでいた。
私は、キス、クンニ、全身リップ、指入れに〇をつけ、アナルには×をつけた。
「お尻は舐めるのもダメなの?」
「ダメです!」
「えー」とモネくんは少し残念そうに頬を膨らませる。
いや、こんな可愛い子にアラサー女のケツの穴なんか舐めさせられるかい。
最後に彼が「何か悩みや不安なことはある?」と聞いてくれたので、私は悩みを打ち明けることにした。
「最近、夫とのセックスがうまくいかなくて……感じにくくなっちゃったんです。触られてもくすぐったいだけで、前は気持ちよかったのに」と話した。
「それはゆうさんの体の問題じゃなくて、心の問題かな。今のゆうさんにとって旦那さんは家族だから感じにくくなっちゃったのかもしれない」
結婚したら妻を女として見られない。そう言って浮気をする夫の話を創作物でよく見てきたし、リアルでもよくある話だ。女の私の方がそうなってしまうなんて。
「ゆうさんは旦那さんとの性生活の問題を解消したくて僕を呼んだんだよね。それは旦那さんを大切に思ってる証拠だから素敵なことだと思う。だから、その気持ちに応えられるように僕が出来ることは何でもします。今日は楽しもうね」
そう言って、モネくんは私をシャワーに促した。
新婚なのに風俗を利用することに抱いていた罪悪感はモネくんの優しい言葉で溶けていった。
シャワーから戻ると、部屋の照明は落とされ、互いの顔がかすかに見える程度の薄暗さになっていた。モネくんもシャワーを浴び、Tシャツと短パン姿で戻ってきた。
「じゃあ、まずはマッサージから始めるね」
私はうつ伏せになってマッサージを受けながら、軽い雑談を交わす。
「ゆうちゃんはいくつなの?」
「今年で32歳だよ」
「じゃあ、僕とタメだね!」
ホームページでは29歳になっているので、3歳のサバ読みである。
この世界ではよくあることだ。しかし、モネくんは童顔で若く見えるので29歳でも全然イケると思った。
お互いの趣味の話で盛り上がっていくと、心がほぐれていくのを感じた。
そして、マッサージの手つきがだんだんと変わり、なぞるようなフェザータッチに移行していく。その瞬間、背中にかかっていたタオルが静かに取り払われた――。