ある日、エベレッタが天界へ戻ると一つの魂が「生まれ変わりの扉」の前で天使と言い争いになっていた。

「何があったんだ」と近くで話していた天使に聞くと
「どうもどうしても会いたい人がいるらしく、生まれ変わる場所を変えて欲しいとわめいているそうよ」と言った。
「相変わらず常世の魂って不思議よね。会いたい人のために天界の取り決めに歯向かうなんて…そんなことをしたらみんな変えることになる。“皆平等に”……これが変わることはないわ」

なぜこんなに天使というのに冷たいのか、と聞かれると天界に長く居すぎると皆常世の記憶と共に感情を失っていくからだ(第一夜参照)。でもあまり本人たちはわからないものだ。私も数百年前からここに居るから常世の者からすると感情が薄いのだろう。だがこれは天界の秩序を保つための最重要事項だ。きっと「生まれ変わりの扉」の前にいる魂もあの天使に相手にされずに終わるだろう……

「おい、そこの魂」
「なんでしょうか……」
「少し話をしないか」
「え……」魂は少し驚いている…まぁ急に来たからそれはそうか。
見たところ扉にいる天使はまだ天界にきたばかりだろう…天使独特の光がまだ薄い。来たばかりでこの魂の相手をするのはかなり難しい。
「そこの天使」
「はい、なんでしょうか…」
「この魂とは私が話をする、それでもいいか」
「あ……ありがとうございます…エベレッタ様」

少し離れた場所に移動すると魂は
「生まれ変わる場所を変えるのはどうしても無理なのですか?」と直球に聞いてきた。
「基本的には無理だ…生まれ変わる場所というのは天界が前世や今の常世の状態を見て常にバランスをとって選ばれる。もし、生まれ変わる場所によって常世の状態が劇的に悪化するのであればこちらも考え直すことになる」
「……どうしても会いたい人がいるんです。これが最後の生まれ変わりで…僕の過ごしてきた人生の唯一の心残りなんです。でもあんなに遠い場所に生まれたら…絶対に会えない。」魂は搾り出すように言った。

こういう時…常世にいる者たちはなんと言うのだろう、魂の意志を尊重するのだろうか。でもそんな気持ちが何も出てこない。頭の中に出てくるのは“皆平等に”と言うことだけだ…
「すまない……私たちには心がない、感情がない、感動することもない…君に力を貸すことができない。」
「そうか……変わらないんだなぁ…」魂はポロポロと泣き始めた。でもサラとは違う涙だった。

「悔しいなぁ…」

“悔しい”……?

ハッと息を呑むと同時に思い出す、あの日のことー




(サラは第一夜参照)

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