おやつを探しに、部屋を出ようとすると、黒川が『サラダ油』のラベルが貼られた一斗缶を持って戻って来た。
『サラダ油』……?
「……ッ!」
黒川、もしかして『ゲーミングチェア』のチラシごと屋敷を燃やして、自分の悪事を全て消し去ろうとしているんじゃないの?
「黒川ッ……、落ち着いて……」
黒川がニヤニヤしながら一斗缶の蓋を開けようとしている。
「く……、黒川……。
『劇団☆黒川』は全てあなたのモノです。
ほ……、欲しいものがあるのなら、関口さんに追加で出資してもらいましょう。
だ……、だから……、だから早まらないでぇぇぇ!」
「……『劇団☆黒川』……は、俺のモノ……」
「そうです、そうです。
『劇団☆黒川』は、黒川のモノ。
だから、その一斗缶を、そっと私に渡してください」
黒川を刺激しないよう、優しく語りかけながらジリジリと黒川に近付いていく。
「お嬢も黒川君も、何やってるの」
「シィッ!
桃、ここは私に任せてください」
こんな事態になっているのに、青田達は呑気に台本を読んでいる。
でも今は好都合。
皆が大騒ぎして黒川を刺激したら、大惨事になりかねない。
黒川が一斗缶の蓋をゆっくりと開けた。
「ギャァッ!
皆、早く逃げて!」
黒川が一斗缶にぎっしりと詰め込まれた物を見せつけてきた。
「べ……、ベルマーク?」
「ああ、そうだ。
あのゲーミングチェアはこのベルマークを貯めて交換したものだ。
ちなみにこの一斗缶の中には、あと5脚分のゲーミングチェアと交換できるベルマークが入っている」
「何ですって!?」
「あのゲーミングチェアは『劇団☆黒川』の公演が終わったら、eスポーツ部に寄贈する予定だ」
黒川……。
よくこんなに貯めたな……。
ふぅ……。
安心したら、急にお腹が空いてきた。
「そう言えば、キッチンに焼き芋の残りがありましたよね?
あれ、食べていいですか?」
「ああ、僕も食べようかな。
お茶を淹れるから、皆でおやつにしよう」
青田がにっこり笑った。
「お嬢。
『劇団☆黒川』の脚本は、このままで良いな?」
「は……、ハイ……」
先ほどの恐怖がよみがえった。
黒川を怒らせると、今度は何を仕出かすかわからない。
ここは大人しく黒川に従っておこう。
「ところで黒川君。
ヨーロッパでカキは生で食べるのが主流ですので、この台本の中の『カキフライ』は、中世ヨーロッパの世界観が崩れると思います」
今さら世界観なんて、どうでも良いんだよ、白石。
「そうだな。
俺も安易に台本を作ってしまった。
中世ヨーロッパの料理を調べて、書き換えるとしよう」
「じゃあ、ついでに皆で読んでみて、おかしなところをチェックしていこうよ」
いやいや。
おかしいのは私の台詞しかないところなんだけどね!