白石の推理は続いた。
「青田君とお嬢の絵が電子黒板に映し出された時にパソコンから採取した指紋二種類のうち、一つはお嬢のもの。
もう一つが犯人のものだとしたら……」
「ああ。
それなら、もう一つはエビちゃんのものですよ。
私が青田とのハレンチ画像を消したくて連打していると、エビちゃんが消去ボタンを押してくれたのです。
犯人は、白石が潔癖なのを知っていて、画像をアップした後に、指紋を拭き取ったのではないでしょうか?」
「……。
それなら、網代(あじろ)エビの指紋は一つだけのはずです。
しかし、あのパソコンにはもう一つの指紋が無数にありました」
「え……」
そんな。
まさかエビちゃんのはずがない。
演劇の背景が破かれてゴミ箱に入れられていた時も、上靴に画鋲が刺さっていた時も、真っ先に心配してくれたのは、エビちゃん。
青田と私が保健室にいた時も……。
「そんなはず……」
「早速、俺の撒いた餌に犯人が食いついたようですよ。
お嬢、あの校舎を見てください」
白石が徹底除菌された双眼鏡を私に渡してきた。
「え……?」
「俺達が動き出すのを知って、犯人が現場に戻ってきたのです」
白石から手渡された、抗菌済みの双眼鏡を覗いた。
「まさか……」
「『犯人は現場に戻ってくる』という言葉を知っていますか?
犯行の結果を見たい。
証拠を残してないか心配。
自分が犯人だと、バレていないか確認がしたい。
どこまで捜査が進んでいるか知りたい、など。
ドラマや小説で使われる言葉は、心理学的に証明されているのですよ」
「まさか、まさか、まさか!
学園長が犯人だったなんて!」
学園長が、学長室の窓枠に肘をついて、外を眺めながら優雅にサンドイッチを頬張っている姿が見えた。
「……。
お嬢、4階ではありません。
3階。学園長がいる場所の下を見てください」
「……。
エビちゃんだ……」
白石の双眼鏡に、エビちゃんが、向こうの校舎からこちらを見ている姿が映し出されていた。
「まさかエビちゃんが犯人だなんて……」
「もちろん、現行犯ではないので、俺のデータ上、網代(あじろ)エビが『限りなく犯人に近い』というだけで、犯人は網代エビではないかもしれません」
「白石。
この件は私に任せてもらえませんか?
犯人がエビちゃんだったとしても、エビちゃんじゃなかったとしても。
私に何か言いたい事があるのは確かです。
出来れば、話し合いで解決したいのです」
「……。
分かりました。
俺も『誰にも口外しない』と、約束した手前、本人が謝罪してきたなら、この件は無かったことにしようと思っていました。
話し合いで解決するなら、それが一番良い方法でしょう」
「ありがとう、白石」
「但し」
「ん?」
「話し合いで解決できなかった時は……。
何かに困った時は、必ず俺を頼ってください」
「はい」
「お嬢には俺達が付いています。
一人で悩まず、頼ってください」
「はい」
向こうの校舎からエビちゃんの姿が消えていた。