そいつは食べ物への執着が昔から凄かったそうだ。何でも食べたらしい。そのせいだろう、体を壊した。それでも食べることへの執着心は衰えない。入院中のことだった。スーパーマーケットのチラシに載っている総菜や刺身の写真を切り取ってテーブルの上に置き、それを眺めながら病院食を食べていた。厳しい食事制限が課せられているので好きなものは何も食べられないから、せめて写真だけでも美味しそうなものを見て、心の飢えを癒したい……と理由を言っていた。病院の看護師に笑われ、栄養士には嫌な顔をされた。その栄養士にご飯大盛りを頼んで速攻で断られたのは笑った。
 内蔵が悪くなり半分くらい死にかけた状態で入院したが、治療の効果が出て検査の数値が改善し退院となった。退院祝いだと言って暴飲暴食し、退院から一週間するかしないうちに具合が悪くなって救急車で運ばれ、そのまま再入院である。今も入院中だ。
 現在の楽しみは退院後に行く飲食店の選定である。テレビ・雑誌・ラジオそしてインターネット等で美味しいと評判の店をチェックしまくっている。そこで退院祝賀パーティーを開くなら私を招待して欲しい。招待客である私の分の勘定をお願いする。それは当然のことだ。入院で貰える医療保険の給付金があるはずだから、何とかなるだろう。

食い意地が張った男、その一

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