■ 伊藤ユリ モノローグ

〈納得がいかないまま、七五三の衣装を夫の実家に送ってから数日が経過したある日、携帯にメールが着信した〉

〈それは義母からだった〉

〈電話だったら無視するつもりだったけれども、メールだったので恐る恐る開いてみることにした〉

■ 伊藤ユリ 家 昼

 義母からのメールはこんな内容だった。

『真理恵、先日送ったプレゼントだけれども孫たちは喜んでくれているかしら? 是非とも感想を聞かせてちょうだいね』

ユリ「真理恵? 義姉に送るつもりが、間違って私にメールを送信しちゃったのかしら?」

ユリ〈真理恵とは、夫より一つ上の義姉だ。私とは折り合いが悪く、結婚後、一度たりとも彼女とはまともに会話した覚えもなかった》

ユリ「そう言えば、義姉の子供が今年七五三だったような……!?』

ユリ〈私は嫌な予感がし、義姉がSNSをやっていることを思い出した〉

ユリ〈本当は見るつもりはなかったのだけれども、急いで検索してみた〉

ユリ「こ、こんなことって……!?」携帯に映し出された画像を見て、私は絶句する。

 そこには、義姉の娘の写真が映し出されていた。義姉の娘が着ていたのは、義母が以前、私たちの子供に贈ってくれた七五三の衣装であった。

ユリ「あのメールはもしかして、このことなの!?」怒りで顔が歪む。「初孫に贈った七五三の衣装を取り上げて、義姉の娘にあげるだなんて、あんまりだわ!!」

 時間は居酒屋ミズチに戻る━━。

■ 居酒屋ミズチ 夜

 カウンター席で二杯目の中ジョッキを空にする伊藤ユリ。
 すると、店のマスターから料理が差し出される。

ユリ「マスター、これが今日のお通し?」

 目の前に置かれたのは鶏肉の卵とじの上に二つに割ったレンコンの煮物が添えられた創作料理だった。

ユリ「え、何? レンコンは一つの根にたくさん子供がついていて、それが子供を慈しんでいる母親の様に見えるから縁起物の野菜ですって? それがなに? 今の私の話を聞いていたの? 義母に対して愚痴っている私に何の関係が……ああ、なるほどね、そういうこと。義母たちと縁を切ってしまえって言いたいのね? 鶏肉の卵とじは義母と義姉を意味して、レンコンを二つに割ったのは縁を切る。そういうことか」そう言って、ユリはレンコンを口に運ぶ。

 ユリはそのままお通し料理を平らげた。

ユリ「ご馳走様、マスター! 義母と義姉もこんな感じで食べてしまおうかしら? え? それはどういう意味かって? いやね、ちょっとお酒の勢いを借りて何となくそう言っちゃっただけよ。でも、あいつらと縁を切るってのは魅力的な話だわ」

 ユリはお代わり! とマスターに空になった中ジョッキを渡す。
 マスターは三杯目の中ジョッキをユリの前に置く。

第三話のシナリオ 第一章 伊藤ユリ 三十歳 主婦の場合 其の三

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