今日は人生で初めてのデート。
 不安で一杯だ。
 上手く喋れるのか、つまらないと思われないか。
 時間が近づけば近づくほど緊張が増していく。
 
 それでもきっと大丈夫。
 自分を信じろ、自信を持て。

「僕ならできる」

そう気合いを入れ、早まる鼓動を落ち着かせながら、集合場所へと向かった。

 現地に到着。
 待たせちゃダメだと思って、時間に余裕をもって家を出た。なのに彼女がいた。あと三十分あるのに。
 僕が到着すると同時に彼女は何も喋らないまま、その場ですっと立ち上がり、また座った。
 どうかしたのか、僕が声を掛けると彼女は突然。

「コケコッコー、コケコッコー、私は鳩。この公園が好きなの」
 と言い出した。その鳴き声はニワトリなのに。
 
 真顔で言うもんだから、ボケかどうかも分からない。対応に困って僕は少しの間、黙っちゃった。
 数分後。

「やっぱ私は人間」
 凄く凄く小さな声でそう言って、彼女はまた立ち上がった。
 何事もなかったかのように、いや僕は何事もなかったことにしてデートを再開した。
 
 予定通り水族館に到着。
 ちなみに公園から水族館への道中、彼女はひたすらオペラを熱唱していた。僕は黙って聴いていた。たまに合いの手入れたり。

「やっと着いた。先にトイレに行っとこう」
 彼女は頷き、ゲート横のトイレへ。
 先に用を足し終えた僕は外で彼女を待つ。

 ――ここからがデート本番。絶対に彼女を楽しませる!――

 そう決心してから三十分。彼女は一向に戻ってこない。
 何かあったのだろうか、ふと携帯を見ると彼女からメッセージが届いていた。

「残念ながら私はもうそこにはいない。会いたければ、水族館内にいる私を自力で探してみるのだな」

 なるほど。
 言われた通り僕は水族館に入った。入口すぐの水槽にはいろんな魚が。先に進むとカニやイカ。そして深海魚。注意深く歩いているが、彼女はどこにもいない。試しに上へ行ってみると、ステージがありイルカショーが始まっていた。ふと様子を見ると、彼女がイルカと共に泳いでいた。惚れた。

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