公園に来てからもう数時間。
潤はいまだに手紙の言うおかしなものを見つけられないでいた。
くそっ!
公園に来てからもう数時間。
潤はいまだに手紙の言うおかしなものを見つけられないでいた。
だいたい、おかしなものって何だよ!? アバウトすぎるだろ!
あの手紙にはまだ、潤が読み取り損ねたなにかが残っていたのだろうか。
それこそヒントになりうる何かが……。
と考えたが、勉強だのこそ苦手なものの、自分の記憶力にそれなりの自信を持っていた。
すぐに、
それはない
と自分の考えを否定していた。
しかしただでさえ広い公園だ、やみくもに探したってらちが明くはずもなく。
いたずらではないだろうという直観と、あれ以上に手紙には何も書かれていなかったはずだという記憶が、潤を悩ませていた。
もしかして、水っていうのが間違……
それはないと信じたいが、肝心の手紙は水に溶けちまってもうないしなぁ……
そんな、諦めとも取れる言葉をこぼした時だった。自分の言葉にふと違和感を覚えたのだ。
何だ。違和感は何だ?
潤はそれを探るために、もう一度さっきのセリフを口に出してみる。
水というのが、間違い……それはないと信じたい……肝心の手紙は、水に溶けて……あ!!
水に溶ける、つまり、水で解ける!
そうか、手紙の解読方法自体が、この場所のヒントだったのか!
だとするなら、おかしなものはきっと――
噴水のところ!
また頭の中に叔母さんの言葉がよみがえった。
潤、入口ってのは最たる隠し場所で隠れ場所だ。
ほら部屋で考えてみるといい。
最後に目に入るのが扉のところだったりする――よく覚えておきなよ?
ああもう、今思い出してもなんだよなあ!
そう叫びながらたどり着いた噴水は、時間がたってか人がだいぶん少なくなっていた。
おかしなものの正体。
僕はそれに心当たりがあった。
あの時の子供は、“キラキラして”といったが……。
そんなはずはないのだ。
この噴水の水はそこまで綺麗なものじゃないし、あそこはだいぶ前から噴水としても機能はほとんどはたしていない。
そもそも水のことを指すなら、あれなんて呼び方はしないだろう。
なら、あの子が見たものは何だ?
――その答えは、やはりその子供がいた場所にあった。
これ、か……!
噴水のへりに張り付けられていたのは、薄い銀の板。
流ちょうな字で、あやしと書かれている。
あやしは古語で“おかしい”の意味。
その下には手紙と同じ、JSIの文字が刻まれていた。
やった、と達成感に浸ろうとしたその瞬間だった。
君、遅すぎやしないかい?
ぱたんと本を閉じる音とともに、人影はそこにいた。
見覚えがある、彼は……。
朝も、そこにいましたよね。本を読んでいた方……
うん、ご名答。洞察力は悪くないのかな。しかしギリギリすぎだね
噴水のところで本を読んでいた、潤より年上だろう青年は、にっこりと人好きのする、しかし妙に印象に残らない笑みを浮かべた。
その隣にはもう一人、フードを目深にかぶった少年らしき人物がいたが、その顔はまるで見えなかった。
てっきり、この噴水で長く立ち止まっているものだから、最初の時点であのヒントに気づいてたのかと思ったけどね、そうではなかったみたいだし
それは……
まあともかく、これで一次試験は終了だ。さて、君たちを次の場所に案内するかね
試験?
唐突な言葉に、潤は思わずそれを繰り返した。
ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか? これが試験? 一体、何の……
何を寝ぼけたことを
返事をしたのは、驚くことにそれまで一言も口を開かなかったフードのほうだった。
パサリ、とそのフードがめくれ、見えたのは――
あれ、お前って隣にクラスに来た転校生じゃ……
触るな
確認するように向けられた手を、その少年は払いのけた。
威嚇するような瞳は鮮烈に、そして鋭く、潤をにらんでいた。
これは、JSIの入所試験。その一次試験に過ぎない
だからその、JSIっていうのは
……本当に何も知らないでここに来たのか。愚かだな、久留崎潤
え、なんで俺の名前知って
前もって学校中の人間の名は暗記した。
しかしそうでなくとも…その名を知らないと思うのか?
あとから。あとから潤が思えば、この時が初めてだった。
潤をこの先苦しめることになるその“呼称”を聞いたのは。
久留崎潤……“久留崎博士の遺児”を