エリーゼは道端で目が覚めた

エリーゼ

ん……?ここは……どこなんですの……?

寝ぼけた頭で周りを見渡してみる。見たことのない建造物、見たことのない模様で何かが書かれている板、そして、感じたことのない風。

エリーゼ

わたくしは確か……

ぼんやりとした頭で何があったのかを思い出してみる。そう、あれは確か……

エリーゼ

こんにちは~。

レセリア王国、王立魔道具研究所。そこでは日夜、魔道具の開発、改良に勤しんでいた。だが、エリーゼ的にはそんなことはどうでもよい。

ダリア

いらっしゃいエリーゼ。また来てくれたのね。

エリーゼ

はいっ! またきちゃいましたわ♪

彼女はダリア。ここの研究員の1人であり。エリーゼの元家庭教師である。エリーゼは暇つぶしに、そしてダリアに会いによくここへ立ち寄るのである。

ダリア

でも残念、今日はおやつもお茶も出せないわ。新しい魔道具が遺跡から発掘されて、今は解析やら何やらで忙しいのよ。

エリーゼ

それは残念ですわ……。

エリーゼ

その魔道具っでとんなものなんですの?宝石ですの?綺麗なものなんですの?

ダリア

あなたの大好きな宝石やアクセサリーではないことは確かね。

ダリア

でも綺麗って点では綺麗ね。ほんとは一般人に見せちゃダメなんだけど、あなただったら所長も許してくれるでしょ。これよ。

ダリアは、机の上においてあるソレを手に取り、エリーゼに見せた。

エリーゼ

な、なんですのこれ? 四角くて平べったくて、しかも片方はつるつるしてますわ……。

ダリア

なんだろうね……。魔道具だから運び込まれたんだろうけど、全く魔力の気配もしないし、魔力を流しても反応しないのよ。

エリーゼ

じゃあただの変な石版な気がしますの。

ダリア

あたしもそう思ったんだけどねぇ……。いろいろ触ってみたらなんか光ったのよ。

エリーゼ

ひ、光るんですのその石版? それは怖いですわね……。

ダリア

その後模様のようなものが浮かび上がったのよ。ほら。

エリーゼが石版をのぞき込むと、たしかにソレは光を発し、変な模様が浮かび上がっていた。

エリーゼ

なんだか面白い模様ですわね!触ってもいいですの?

ダリア

あぁ、いいよ。案外、なにか起こるかもしれないしね。

本当は駄目である。だがダリア自身も、何かが起きそうな気がするという好奇心が勝り、そんな規則のことなんか気にしてはいられなかった。

エリーゼ

面白い手触りしてますわね。

エリーゼ

えっ!? な、なんか音が鳴りましたわ!!!

ダリア

嘘!?あなた、魔法を発動させたの!?

エリーゼ

わ、わたくしが魔法が使えないのはダリアもよく知ってるはずですわ!

本来、エルフ族は生まれつき魔法に長けている種族ではあるのだが、エリーゼは魔法がからっきしなのである。背中に羽を作り出すのが精一杯だ。

ダリア

それもそうね

エリーゼ

なんか、納得いきませんの……。

???

あの~、そろそろこちらに目を向けてくれませんかね?

エリーゼ

しゃ、しゃべった!?

ダリア

しゃ、しゃべった!?

???

そんな驚かなくても……まぁいいです。時間もないので手短に。

ダリア

手短にって、まずはあなた?について説明しなさいよ。

???

あ、すいません。ホント時間ないので説明なしです。

???

えーと、そこのデカイ妖精さん。お名前は?

エリーゼ

妖精じゃなくてエルフですわ! この羽は可愛いから出していますの!

???

あーはいはい、エルフさんって名前ね。

エリーゼ

エルフは種族名ですわ! ……わたくしの名前はエリーゼですわ。

???

あ、エリーゼさんね。登録ボタンを押したのは貴方?

エリーゼ

トウロクボタン? そんなもの押してませんわ?

???

おかしいですね? 私を手に持ってるのは貴女なんですが……。まぁいっか! エリーゼさん、貴方をシステムに登録しました。それでは目を閉じててください。

エリーゼ

え!? しすてむ? トウロク? 何のことだかわかりませんわ!

すでにエリーゼの頭では、今の状況を理解できていなかった。

ダリア

ちょっと石版!あたしは無視なわけ?

???

はい、登録人数は1人が限界なんで、貴女にかまけてる時間はもうありません。

???

さぁさぁエリーゼさん!早く目を閉じてください!さもないと……、怖いことが起きますよ?

エリーゼ

こ、怖いこと!? それは嫌ですわ!閉じます!閉じますわ!

ダリア

エリーゼ!そんな石版の言うことなんて聞くんじや……っ!

もうエリーゼはいっぱいいっぱいで、ダリアの言葉も耳には届いていなかった。

???

はい! 準備もできたみたいなんで始めちゃいます! レッツゴー!!!

そう石版が言った瞬間、エリーゼの体が光りだし……

今に至るのであった。

エリーゼ

そ、そうですわ! ダリアは!? あの石版は!!?

しかし、再度周りを見渡しても、誰も居ないのであった。

エリーゼ

私だけどこかに飛ばされてきちゃったみたいですわ……。

すると、向こうから何かかこちらへ向かってきている。よく見る人間のようだ。

エリーゼ

あ、誰か来ましたわ……! あの人にここはどこか聞いてみることにしますわ!

エリーゼ

すごい変な格好してますけど……。

エリーゼからするとその格好は奇妙であった。全身真っ黒だからである。

だが向こう……ユウヤからしてもエリーゼの格好はそれはもう奇妙であった。

ユウヤ

な、なんだあの子? すっごい可愛いけど外国の人か……? しかもこんな町中でコスプレしてるとかどんな勇者だよ、日本勘違いしすぎだろ。

ユウヤ

もしかして夢か? 俺まだ寝てるのか? 昨日はちょっとえっちなゲームなんかしてないぞ!?

ユウヤ

よし、これは夢なんだ。こんな誰も居ないところにこんな可愛いけどすっごい変な格好してる耳長な女の子がいるけど、これも俺の夢なんだ。

エリーゼ

少なくとも貴方の夢ではありませんわ。

ユウヤ

返事された!!!この夢超リアル!!!て言うか夢の住人に夢であることを否定された!!!

エリーゼ

……見かけだけじゃなく中身まで変な人でしたわ。あとうるさいですわ。

ユウヤ

いや、君の格好のほうが十分変だろ。コスプレにしてはなんかすごい凝ってるし。

エリーゼ

こすぷれ? わたくしはこすぷれなんて名前ではありませんわ。

ユウヤ

いや、コスプレはコスチュームプレイの略で……

ユウヤ

って、そんな説明なんてどうでもよくて! どぅ、どぅーゆーすぴーくじゃぱにーず?

ユウヤは、ジェスチャーを交えつつ、拙い英語で聞いてみる。

エリーゼ

それは何かの呪文ですの? それともダンス?

ユウヤ

呪文って、日本語喋れるか聞いてるんだけど。後ダンスじゃなくてジェスチャーな。

ユウヤ

でも、よくよく考えたら普通に会話できてんな。俺たち。

エリーゼ

ニホンゴ? そんな魔法は知りませんし、わたくしは魔法が殆ど使えませんわ。

エリーゼ

それに、会話なんてどの種族とでもできますわ。人間でもエルフでも。

ユウヤ

いやエルフなんていないし、ここ日本だし、どこかのファンタジーでもないし、俺はゲームや漫画やラノベの主人公でもないよ。

エリーゼ

ふふっ。貴方、ホント変ですわね。でも悪い人ではなさそうですわ。

ユウヤ

変とは何だ変とは。

ユウヤ

でも、悪い人と思われなくてよかったぜ。悪い人って思われて通報されたら俺のお先真っ暗だからな!

エリーゼ

真っ黒なのは貴方の格好ですわ。

ユウヤ

学ランだしな!

ユウヤ

で、こんなとこでなにしてるんだ? 見たところ道に迷ってるみたいだけど。

エリーゼ

そうでしたわ。真っ黒さん。ここは一体どこなんですの? 少なくともレセリアではないみたいですけど…… 

ユウヤ

俺は佐々木裕也って名前で、ここは日本のT県Y市って場所だ。

ユウヤ

あと、真っ黒さんだなんてなんか出ないと目玉をほじくられそうな呼び名じゃなくて、せめて名前で呼んでくれ……。佐々木でも裕也でも好きに呼んでいいから。

エリーゼ

名前はササキユウヤで、ここはニホンのティーケンワイシ? 

エリーゼ

場所は結局、どこなのかよくわかりませんけど、名前はユウヤとお呼びしますわ。こちらのほうが響きがいいですわ。

エリーゼ

わたくしはエリーゼ。レセリア王国のレーナ村出身ですわ。

ユウヤ

あぁ、よろしくなエリーゼ。

ユウヤ

そんな王国聞いたことないな……。結構遠い場所なのか? あと、自己紹介してるけどなんで俺はこの子とこんなに喋ってるんだ?

エリーゼ

どうしましたの?ユウヤ。

ユウヤ

いや、なんでもない。ちょっと考え事をな。

ユウヤ

ところでエリーゼ。道に迷ってんだろ?送ってやるよ。

エリーゼ

ありがとうございますわ。できればレセリア王立魔道具研究所という所に行きたいのですけれど……ここはレセリアではないみたいですし……。

ユウヤ

マドウグ研究所って……。なんの研究所かは知らないけど、なんかほんとにゲームとかラノベにありそうな名前だな。

ユウヤ

エリーゼは、そこの学者さんなのか? 俺より年下に見えるけど。

エリーゼ

いいえ。わたくしはただ遊びに行ったりするだけですわ。ただ、そこから飛ばされちゃったみたいなんですの。

ユウヤ

飛ばされたって……。

エリーゼ

そ、そうですわ!そもそもあの石版はどこに行ったんですの!!!

ユウヤ

うわっ、いきなり大声出さないでくれよ!

エリーゼ

ご、ごめんなさい。

エリーゼ

そうですわ!ユウヤ、変な石版を知りません? 黒くて、手のひらからすこしはみ出るくらいの大きさで、つるつるしてて、触ると光って模様の出る……。

ユウヤ

そんなマジックアイテム知らないし、見たことも……

ユウヤ

いや、まてよ?もしかしてこれのことか? そんなマジックアイテムじゃないけどさ。

そういうとユウヤは、ポケットから『ソレ』を取り出した。

エリーゼ

そ、そうですわ! ちょうどそんな感じですわ! と言うかそのまんまですわ!

ユウヤ

これはスマートフォンって機械だ。そっちの国にはないのか?

エリーゼ

すまーとふぉん?

ユウヤ

あぁ、これで電話とかメールとかネットとか色々できるんだ。

エリーゼ

ユウヤが何を言っているのかまったくわかりませんわ……。ですけどすごいものということはわかりましたわ。

エリーゼ

ユウヤ、そのすまーとふぉんという魔道具で、わたくしを元の場所まで送って欲しいですわ!

ユウヤ

いや、さすがにそんなことはできないぞ!? あとマドウグっていうものじゃなくてこれただの機械だからな!?

ユウヤ

家族とか研究所の人に迎えに来てもらえるかもしれないけど、さすがに電話番号聞くわけにもいかないしな……。それじゃあナンパみたいだしな……。

エリーゼ

じゃあわたくしはどうすれば……。おうちにも帰れそうにありませんわ……。

エリーゼ

そうですわ! わたくしいいこと思いつきましたわ!

エリーゼ

ユウヤ、わたくしは今、ピンチなんですわ!

ユウヤ

お、おう! ……おう?

エリーゼ

見知らぬ場所に飛ばされて帰ることもできず、宿も無く、わたくしが頼りにできるのは飛ばされた原因かも知れない魔道具を持ったユウヤだけ……。

ユウヤ

宿もないし他に頼るあてもないのかよ!? ていうかさっき出会ったばっかの俺が頼りかよ!?

エリーゼ

ですからユウヤ……。

エリーゼ

帰れるまでユウヤのおうちに泊めてください。

ユウヤ

何だそんなことか。 いいぜ。 どうせ一人暮らしだしな。 女の子一人ぐらいなら……。

ユウヤ

って、まてまてまて!!! 無理!無理だから!!! なんかさっきノリで許可しちゃったけどこんな可愛い子と寝泊まりとか事案だからな!!!

エリーゼ

可愛い!? わたくし可愛いんですの?

ユウヤ

あぁ、それは保証する。むちゃくちゃ可愛い。こんな子と暮らせたらそれなんてギャルゲだしな。

ユウヤ

っ!? だから!俺はなんで今日に限ってこんな事を口走るんだ!?

エリーゼ

うれしいですわ! ぎゃるげっていうのはよくわかりませんけれど。

手を差し出すエリーゼ。

エリーゼ

それじゃあユウヤ? 案内、よろしくおねがいしますわ♪

ユウヤ

おう。分かった。

そして手を取るユウヤ。

ユウヤ

や、やっぱり恥ずかしいからこれはパスな!

そう言い、慌てて手を離す。

エリーゼ

男性がエスコートしないでどうするんですの!?

ユウヤ

失礼なのはわかるけど俺そういうの駄目なんだって! 案内はするからついてきてくれ!

エリーゼ

ほんと、変な人ですわ……。

エリーゼ

でもこれで、野宿は避けられましたわ。

そんな事を思い、ユウヤの後についていくエリーゼであった。

ユウヤ

そういや気にしてなかったけど、俺は制服姿でどこに向かうつもりだったんだ?

ユウヤ

それにここ、もう昼間なのに俺たち以外誰もいないし、車も来ない……。

ユウヤ

ま、今はこの子を家に送る方が先だな。

その時は深く考えることをやめ、ユウヤはエリーゼを連れ、家に向かった。

ちなみに今は平日の昼。ユウヤは今日、無断欠席で教師に怒られるであるが、ここでは詳しく語るまい。

とある場所、とある時間。スマートフォンの電源が入り、どこかへ通信を始めていた。

???

はい。こちら異世界転送サービスです。いつもご利用ありがとうございます。

???

……はい、エリーゼさんは無事転送できました。

???

住む場所もバッチリです。ちょっと通りすがりの少年の心いじっちゃいましたけどね。

???

当分は問題無いと思います。あ、ご要望通りレセリアでの記録も一時的に抹消しました。

???

はい。……はい。わかりました。引き続き監視を続けます。

???

監視記録は気が向いたら送りますね。めんどいので。

???

え? 定期的によこせ? いやですよ~。 私は給料以上の仕事はしない主義です。

???

それではまた、次の通信はいつかわからないので期待しないで待っててくださいね~。 

???

……もー、無茶ぶりにも応えたんですからすこしは休ませてほしいものです。

???

さて、あの子達はどうなることやら……。一応アフターサービスで見守りますけどね。なんか面白そうですし

???

さてさて私はこのへんで。グッバーイ!

スマートフォンの電源は切れ、物語はここで一旦終わり。次がいつかは神のみぞ知る、のか。

エリーゼの場合。

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