北方に火竜山脈を仰ぐ水神湖のほとり、アルサラムの町。
この町は三百年以上の昔から、旅人たちの宿場としてほどほどの繁栄とそこそこの平和を保ってきた。
町の中心には町長の住む立派な館が構えられ、そのすぐ近くには町でただ一つ許された町長の館よりも大きな建物がある。それがこの町とほぼ歴史を同じくする、宿屋を兼ねた酒場『ユニコーンの蹄亭』だ。
まだ昼間だというのに、酒場のテーブルは半分ほどが既に埋まっている。
ジョッキを片手に話に花を咲かせている者の大半は、暫しの休息を求めて立ち寄った旅人だ。
だが、旅人たちに混じってチラホラと、町の男たちの姿も見える。
この町の男たちはろくに働きもせず、昼間から旅人と酒を飲み交わすことで有名だった――