陽は沈んだが月が出てきたことには気づけない夜だった。つまりは屋内で夜というものを迎えたということだ。それが何故かというと人に呼ばれたからだ。
陽は沈んだが月が出てきたことには気づけない夜だった。つまりは屋内で夜というものを迎えたということだ。それが何故かというと人に呼ばれたからだ。
うーん、入らないなぁ
俺を呼び出した本人はというとこちらには見向きもせずにバスケットゴールと向き直っている。そして今しがたまるでボールをゴールに入れ損ねたような口調をしていたがそもそも彼女はボールを持っていない。そのことについて口を挟めば彼女は何もおかしいことはないというような様子でこちらを向いた。
だって、私は貴方と話に来たんだから。バスケなんてできないししようとも思わないよ
何もかもおかしいのだがそれに対して何か言う気持ちは失せた。そんな俺の心情を察してかどうか、彼女はゆっくりと俺に近づいてくる。にっこりと笑って言うのだ。その可愛らしい唇は閉じられていた方がいいというのに。
怖い話をしようよ!
一つ勘違いをしていたのかもしれない。いや、この勘違いも仕方のないものだ。怖い話をしようという提案をされた刹那、思い浮かぶのは、そう、夏の風物詩ともいえる怖い話大会…百物語だとか、そういうものだ。
私はねぇ、そうだなぁ、毛虫!毛虫かなぁ…暖かくなってきたからさ、元気よね、あいつら。後、み、み…口に出すのもいやだけど!み、ず、ね!あいつらよ…雨の日に出てくる!
予想とは大分違っていた、怖い話。何が楽しいんだろうかこの話題は。なんてことを考えつつ同意してやる。不意に彼女が俺の怖いものを聞きたがった。一体この会話の何が楽しいのだろうか。再びそんな思いに駆られながらも思考を巡らせる。
…こんなのとか。
…こんなのもいやかな。
…こんなのも困るな!
ひとしきり考えてから彼女を見やる。先程と寸分違わぬ笑顔がそこにあった。何が面白いのかわからずに、素直に何が面白いのかと問えば彼女は笑顔のまま口を開く。
もう少ししたら、貴方の恐れているものがわかるからよ!
とりあえず今は君が一番恐ろしいかな。