視界の端で父親が死んでいる。口から血を吐き出して目を見開いている。確かに死んでいるのだけれどその口は動いていて私に呪いの言葉を吐いている。
私はきっと頭がおかしいんだわ
視界の端で父親が死んでいる。口から血を吐き出して目を見開いている。確かに死んでいるのだけれどその口は動いていて私に呪いの言葉を吐いている。
いや、そんなはずはないのだ。父親は確かに死んでいる。しかし10年も20年も前にだ。いや、違う。だって私は10年も生きていない。
そもそも私に父親なんていたんだろうか。そこすら既に怪しい。いや、しかし、私がこの世に生を受けているということは父親にあたる人物は確かに存在していたんだろう。
ねぇ、私のおとうさん、見える?それとも、私の頭の中にしかいないの?ねぇ、私は頭がおかしいの?
「そんなことない。本当に頭のおかしい人間はおかしいなんて自覚がないのだから」
そう。でも、それだと、私は頭がおかしくないって思ってしまうからそしたら本当に頭のおかしい人になっちゃうんじゃないかしら
「でも、本当に頭のおかしい人はおかしいという自覚がないのだから大丈夫だろう」
そっかぁ…。でも、そうして頭がおかしくないって思ってしまったら頭がおかしいのに、おかしくないって思うから、だから、頭がおかしいってことにはならない?
こうして話している間に父親は溶けてなくなって床の染みになった。窓の外から入り込んできた肉片はきっと兄のだろう。私が数年前に殺してしまった、死んでしまった兄の肉に決まってるのだ。でも、腐ってないのはなんでだろう。
かあさんが、おかあさんが私を殺しにくるのです。今夜です。昨日の夜、朝、夢、でそう、言ってたはずなのです。だから今日です
「大丈夫だよ。お前の母親はもう死んでるんだから。今日は寝なさい。夜だよ」
そうなの、もう夜なの。陽が沈んだからなのです。朝はいるくるの?眠ったらもう朝です。朝は陽が昇ったら朝なのです。あさごはんがでます
「そうだよ、おやすみ」
眠ったら来るよ。悪い人がくるますよ。おなかを割いて中身を出して食べて頭のなかをすいつくするの。くるよ、もうすぐくるよ、きてるよ。おやすみなの?
「おやすみなさい」
おやすみなさい
ところでわたし、だれとおはなししてたんだろう?