程なくして、私はあまりにあっけなく、元の世界に戻った。


みんなでそうめんを食べ、『今日は特別よ』とナミナがジイジにパフパフをする。


そんなしょうもないやり取りに大笑いした直後の出来事だった。


異世界への移動は突然だと相場が決まっているけれど、このタイミングはあまりに突然かつ間が抜けていて、私は帰ったあとも一人笑い続けた。

テオ

戻ったみたいだな

その直後、いつの間にか握りしめていた携帯を伝い、テオの声が響く。

サキ

すごい変なタイミングだったよ

ジイジ

ぱふぱふ

サキ

うん、パフパフの瞬間だった

ナミナ

あらやだ残念。
サキにもパフパフしてあげたかったのに

サキ

たしかに、こんなにおっきいおっぱい初めてだから興味あるかも

テオ

真顔で返すなって

ナミナ

あ、テオにもしてあげようか?

テオ

謹んで辞退する

ナミナ

じゃあ今度また来たとき、サキにはしてあげる

ナミナ

あとおっぱい大きくする魔法も・・・

ルース

おい!!!!

賑やかなやり取りを、突然遮ったのはルースの声。

慌てて起きてきたのか、少しだけいつもより髪が乱れている気がする。

ルース

お前、何勝手に帰ってるんだよ!

サキ

いや、なんか急に戻っちゃって

ルース

俺に一言くらい断りを入れろ!

サキ

いや、だから……

レン

気にしなくて良いですよ、
ルースさん拗ねてるだけですから

ナミナ

うん、私のおっぱいで慰めとくから、サキちゃんは気にしないで

ルース

お前の人工物になんざ興味ねぇよ!

ナミナ

じゃあ、サキちゃんの胸なら良いの?

ルース

おまっ……

ナミナ

あらやだ照れちゃって可愛い

ルース

さ、サキの胸になんて興味ねぇ… 

テオ

とかいって、昨日すごい見てただろお前

ルース

なっ

レン

確かにルースさん、サキさんにめちゃくちゃ見とれてましたよね

ルース

し、しかたねぇだろ!
もう長いこと野郎の顔ばっかり見てんだし!

ルース

急に女がきたら、みんだろ

ナミナ

……相変わらず素直じゃないわねぇ

ナミナ

だから、せっかくのチャンスも逃すのよ

ルース

チャンス?

ジイジ

ちっす、チャンス

ルース

ちっ!?

ジイジ

テオ、ちっすした

ルース

お前、何抜け駆けしてんだよ!!!!!

レン

抜け駆けって……

ルース

おい、今度は俺ともしろ!

サキ

ど、どうしてそうなるの!?

ルース

悔しいだろなんか!

テオ

お前、もうちょっと他に言い方……

ルース

ともかく早く戻ってこい!
すぐ戻ってこい!

ルースの勝手な言葉には苦笑しか返せないけれど、でも無理だと突っぱねる言葉は出てこなかった。

サキ

今すぐは無理だけど、でも何故だかまた、
私はあそこに行ける気がする

行けた理由や方法はまだ明確にはわからないけれど、なぜか私は確信していた。


だって私の日常は、魔法や勇者や異世界と深く、そして複雑に絡んでしまっている。


そしてそれはたぶん今後も続くし、その不思議な日常こそが私の現実なので逃れようもない。

サキ

だから、きっとまた……


この手で触れたテオのことやみんなの笑顔、それに散らかったリビングや食材のない台所など、私は奇跡の中での事を思い出す。

サキ

とりあえず、いつ行っても大丈夫なよう準備はしておくよ


まずは食材、とくに野菜とお肉はあちらの冷蔵庫に入れておかなければと私は考える。


身に起きた出来事とは裏腹に頭に浮かぶのは所帯じみたことばかりだが、たぶん今後も、私に日常はファンタジックにもドラマティックにもなりきれないだろう。


けれど勇者達の食事事情を心配する日々を、私は幸福だと感じていた――――。

エピローグ:終わりは始まり

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