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――寝覚めが悪い。まるで一睡もしていないかのように、芳恵の身体からは眠気が全く抜けていなかった。
それでも陽は落ち込んできていて、すでに四時を回ろうかとしていた。昼寝からとうに起きていた眞一郎が控えめに泣いている。
身体中が怠い。眞一郎の指を掴む。潰れてしまいそうなほど小さい指を掴む。それでも確かに熱は伝わってくる。
分娩室で激痛に堪えながら眞一郎を産んだ時、何もかもを投げ打たねばならないことを強く理解した。頭ではなく、他のすべての器官でそれを理解したのだ。あの時の呪いにも似た確固たる決意は、日に分けてアルコールの海にばら撒いてしまったのだ。この子を抱きしめると、柔らかなその肌が、私にはまるで返し刺のついた拷問器具のように私の心を傷付けた。
何度も、何度も非難した。
とりわけ文隆のことを。まどろみの中でそんなことをぼんやりと考えていた。せめて形だけでも後悔したかったからだ。
そつなくこなすことは即ち正しさを盾にすることで、芳恵はそれで彼を非難した。非難という言葉はとても便利で、そのニュアンスを罵倒に込めて彼に詰め寄ったとき、そこに芳恵はいなかった。芳恵は、誰も恨んでなどいないことに気付いて、ひとりで焦っていただけだった。
その焦燥に気付いてくれた後も、文隆は変わらず、彼女が彼女の問題を解決するものと思い込んでいて決して寄り添ってはくれなかった。自分の息子が産まれるというイベントを、他のすべての男たちと同様にしっかりと受け止めた顔をして、今日も明日も十年後も出勤しては帰ってくるだろう。
芳恵のために泣いてくれるのは、眞一郎だけだった。それを思うと、またあのほろ苦い香りがあたりに漂ってくるのだ。
――いま、黄金の川は最澄を迎えている。銀河の木漏れ日を受けてきらきらと光っている。水温も適している。泳ぐにも、浸かるにも、申し分ないぬるさだ。水をすくって顔につける。金色の水滴が頬を伝う。それは涙か。違う、酒だ。鬱というこの世でもっとも崇高な感情で満たされた、月の川だ。
眞一郎が泣く声がする。祈るように、首をもたげた芳恵が川に顔を浸す。ここから先は、夢の界隈。