開かずの屋上。単純に、鍵がないから開けることができない、屋上。
学校の奥にある階段を、四階まで上りきると、屋上に繋がる扉がぽつりとひとつだけ存在する。
桃を先頭にした生徒会役員(書記を除く)が階段を上りはじめると、すでに階段を上っていた生徒たちが、桃を見つけてざわつきはじめた。
当の本人である桃は、平然と、大股で階段を上り続ける。
最上階まで着き、既に空いている扉を、桃は睨み付けた。晴れ渡った空が、向こうに見えた。もうすぐ日が沈みそうだ。
開かずの屋上。単純に、鍵がないから開けることができない、屋上。
学校の奥にある階段を、四階まで上りきると、屋上に繋がる扉がぽつりとひとつだけ存在する。
桃を先頭にした生徒会役員(書記を除く)が階段を上りはじめると、すでに階段を上っていた生徒たちが、桃を見つけてざわつきはじめた。
当の本人である桃は、平然と、大股で階段を上り続ける。
最上階まで着き、既に空いている扉を、桃は睨み付けた。晴れ渡った空が、向こうに見えた。もうすぐ日が沈みそうだ。
先にいく
念のためだと、桃の前に晃弘が立ち、慎重に屋上へと足を踏み入れた。歓迎するように、風がふわりと吹き、晃弘は顔をしかめる。
屋上には、生徒がちらほらと立っていた。ひそひそ、きょろきょろとしている人ばかりだ。
共通しているのは、皆手に携帯電話を握りしめていることだった。
香里は自分の携帯電話を見、まだなにもありませんねと独り言のように呟く。
桃はこくりとひとつ頷くと、広い屋上のど真ん中まで、大股で歩き進めた。可愛いよ、と野次馬の誰かが叫んだが、桃は意に介さない。
眉ひとつ動かさず、屋上のど真ん中で立ち止まると、辺りを見渡した。他の三人は、桃の後ろにつき、同じように辺りを見渡す。
忍は、わらわらと人が入ってきている扉に目をやった。表情を見て、制服を見る、をくりかえす。二年生は黒を貴重としたブレザー、一年生は私服。実際には、自由ななんちゃって学生服が多い。
学年ごとに制服の違うこの学校は、こうやって生徒が集まると、一種のカオスな空間になる。自主性を重んじるの極致だなと考えながら、忍は静かにためいきをつく。
明るい気分になれという方が、無理な話だ。
三年生以外は、明るい表情をした人ばかりだ。携帯電話を握りしめ、何が始まるのだろうとそわそわしている様子だ。
不安そうな表情や、緊張した表情をしている人は、必ず学ランかセーラー服を着ていた――三年生だ。
その学年だけは、校舎へと続く扉から近い場所にいるのも特徴的だった。何かあったら、すぐに校舎へと駆け込むためだろう。
忍は、群衆のなかに、血相を変えてきょろきょろとあたりを見渡している人物を見つけた。あ、と手をあげると、その人物、会計の桜歌がすぐに忍を見つけ出し、こちらに駆け寄ってくる。
桃、大丈夫? さっき書き込み見て、すぐに来たよ
桃は、うん、と小さい笑顔を浮かべる。
大丈夫。ウィッチっぽいやつがいたら教えて
分かった
あ、書き込みが
言ったのは香里だ。なんだって、と、生徒会役員全員が、香里の携帯電話をのぞきこむ。そこには確かに、ウィッチからの書き込みがあった。
No.1654 ルビーウィッチ 2015/5/25 17:59:64
役者はそろってるのかな? わからないけれど、多分いるでしょう!
では! 願いを叶えたかった君! どうぞ願いを叶えてください!
だれかが、書き込みを声にあげて読んでいた。桃は、腕を組み、眉間にシワを寄せながら叫んだ。
だってさ! 私に用事があるのは、どこのどなたさんですか!
忍は少しだけ驚いていた。いつもにこにこと笑っている彼女からは想像できないほどの剣幕だ。これでは、相手は出てきたくても出てこれないのではないか。
しかし、忍の予想とは裏腹に、あの、と大きな声がした。その声と同時に、背の高い男子生徒が、屋上の真ん中へと歩いてくる。
制服はブレザー。二年生だ。
俺です、俺が呼びました
はやし立てるような口笛が、あちこちから聞こえた。忍のとなりにいる晃弘が、その音がするたびに、その方向を睨みつけている。
何でしょうか
桃は腕組みをとき、いぶかしげに相手を見つめた。相手は、ずいぶんと高い位置から、しかし弱々しく、桃に言う。
に、二年七組、コンノユウです。告白しようと思って、その、あなたに
口笛と、きゃあという甲高い声があちこちからきこえる。
なんの告白かは言わないが、こんな場所で、まさかウィッチですと言うような類いの告白ではないだろうことは、そこにいる全員が分かっていた。
生徒会役員は、晃弘が小さな声でなんだってと言いかけて止めただけで、他は大きな反応を見せなかった。
あなたのこと、ずっと、す、素敵だなって思ってました
コンノの告白がはじまった。
囃し立てる声に負けそうなほど小さな声だったが、とつとつと、つっかえつっかえ、その告白は続いていく。
さ、最初は、四月の生徒会選挙のときの、あ、あなたが素敵で。笑顔が、その、素敵でした。はきはきしていて、とても好印象でした。
あと、業務以外にも、散乱している書類を片付けたいっていうのも、しっかり仕事に取り組むんだ、素敵だなって。
次は、部活会の新入生歓迎イベントのときに、あなたは司会進行を務めていましたよね、すごく、その、よかったです。スムーズだったし、冗談もすごく面白くて。
あんな大勢の中で話す勇気も、すごいものだと思って
次第に、観衆の声が小さくなっていった。コンノが一息ついたそのときにはもう、誰も話さなくなっていた。
全員が、じっと彼の告白を聞いている。
そ、それで、あなたがアイドルみたいにすごく人気があるのは知っていて、ファンもいて、俺もその中の一人だったんです。
最初は、ただ、かわいいよねって言っていればよくて。
でも、ある日、すれ違い様に、その、聞いてしまって。あ、ストーカーとか、そういうことをしていたんじゃないですよ、廊下で、ほら、あの購買の近くで
大丈夫。ストーカーまがいのことをした人は全部、うちの会長がやっつけてくれたよ
今まで無表情を貫いていた桃が、そこではじめてにこりと笑った。
生徒会役員は彼女の後ろに立っていたため、表情は見えなかったが、声の調子から彼女が笑ったことはすぐにわかった。
忍の横にいる晃弘が、俺強いからなとつぶやく。
忍はあきれながら、晃弘の横腹を肘でつついた。
あ、それはなによりです、えっと、そうだ、それで、そこで聞いてしまった……
そこで、コンノはしまったという表情を浮かべた。バカめ、と忍は思う。
聞いてしまったという表現を使ったということは、それがいい情報ではなかったということだろう。
それを、こんな人数がいる場所で、大きな声で公表できるはずがないのだ。
さあどうする、と忍が腕をくんだそのとき、桃が肩をすくめ、大きな声で言った。
うっすい茶色、っていうかオレンジ色の、しかもふざけたことに地毛の、この髪の毛のこと?