なんて?

 晃弘が、桃の後ろから除きこむ。

おうわっ! 近いよ会長!

おう、わ、わるい

 もおと頬を膨らませながら、なになに、と二人は眉を潜ませた。そして交互に、書き込みを読みあげる。

今日は、したくても、

できないです、ごめんなさい。

もうすこし

まってて、ね……

 そして二人で、はあ? と声をあげるのだった。
 
 その日は金曜だったため、土曜日曜の二日間は音沙汰がなかった。

 授業のない土日に何かあるのではないかと噂になったが、すぐにウィッチが土日には何もしないと告げた。その間にも願いは受け付けているとも伸べたため、土日にあった書き込みのほとんどは、各々の願いだった。

 忍は、休み中に何度か掲示板を確認したが、ほとんどがくだらないものに思えた。

 全員、騒ぎたいから騒いでいるだけなのではないか。こんな書き込みを、ウィッチはすべて確認しているのだろうか。

 そうだとしたら重労働だ。ごくろうなことで。

 25日の朝、電車の中で忍はウィッチの新しい書き込みを確認した。

No.1432 ルビーウィッチ 2015/5/25 08:05:01

今日、決行できそうだよ! 放課後に、また書き込みをするから、楽しみにしていてね!


 教室に着くと、どこもかしこもウィッチの話をしていた。

 ウィッチという単語を聞くたび、忍は科学室のあの光景を思い出した。あの綺麗な光景を思い出し、感動しているのではない。面倒くさい、掃除のことを思い出すのだ。

 薄っぺらいガラスを撒き散らしやがって。

おはよう、忍

 振り向くと、会計の篠崎桜歌が立っていた。

 忍は廊下に出て、昨日はどうしたのと訪ねる。昨日、桜歌は生徒会室にこなかったのだ。忍の質問に、ああ、と桜歌は顔をしかめた。

会計のことで、先生といろいろね。いくら予算に余裕があったといっても、スライドガラスとカバーガラスを一式買い換えるのは、結構なお金が動くのよ。

ま、お金の動きが気になるから、先生たちの会議に無理矢理乗り込んだ感はあるんだけどね

 黒く長い髪の毛に、落ち着いた雰囲気を持つ桜歌は、イメージで言えば文系少女だ。
 窓際で一人、眼鏡をかけて本を読んでいそうな風貌だ。制服の着方もきっちりと守っているため、模範的な生徒にも見えた。

 しかし、中を開ければバリバリの理系、興味があるのは株価と為替。
 読む本も数学や経済に関する本ばかりという、見た目とのギャップ女子なのだった。

 ここで、先生と他にもどんな話をしたのか、といった話題を振りかけたら最後、桜歌は目を輝かせて予算について語り出すだろう。

 忍は、そうか、と軽く流した。深く聞かないのか、と桜歌が少し残念そうな顔をしたが、気がつかないふりをする。

どこもかしこもウィッチウィッチで、まいっちゃった

俺も気になるけどな

そうなの?

ああ、捕まえて、あの大掃除の件を謝らせたいだけだけどな。今日も面倒なことを起こしてくれたら、ほんとどうしてくれよう

ほんとだよね。何をするのか、言わないみたいだけど

大したことじゃないように祈るよ

 予鈴が鳴り、じゃあ、と桜歌が手を降る。ああ、と手を振り替えし教室に戻ると、いいなあとクラスメイトが忍に歩み寄ってきた。

 何が、と問えば、美人の篠崎さんと知り合いなのが羨ましいそうだ。

 数字おたくだということは、桜歌のために黙っておいてやろう。


 授業中に書き込みをチェックするのを、忍はやめていた。最初こそ細かく読んで目を光らせていたが、疲れるだけだと判断したのだ。

 忍と同じように考える人も多いようで、書き込みの数は少しずつだが減ってきていた。

流行りって言うのは残酷だねえ

 授業が終わるとすぐ、教室にやってきたのは晃弘だった。あきひろくん、と誰かに声をかけられ、やっほーと微笑みを返している。きゃあ、という黄色い悲鳴を聞き、忍はうわっとベロを出した。

君ね、そういう反応をするのは、あの子達に失礼だとは思わないのかね

お前なんかに黄色い悲鳴をふっとばすやからに、失礼だと思われても全く問題ないのだ

そんなんじゃ彼女できないよ?

別にいい。っていうかお前も彼女いないよね?

忍、最近恋してる?

話をそらさないでいただけますか?

忍君、晃弘君。声が大きいですよ

 笑顔で現れたのは、おっとり副会長の香里だ。
 突然の登場に驚きながらも、どうしたの? と忍が訪ねる。

桃さんが、いつでも出撃できるように待機するって、はりきって生徒会室に向かっていましたよ。生徒会長と雑務さんも、一緒に行って待機しましょう

雑務さんって呼ぶの、やめていただけませんか

 忍がつっこむと、あら、と香里が首をかしげる。

では、なんて?

……役職名では、呼ばない方向で頼みます

 どうあがいても副会長には敵わないんだから、と晃弘が笑った。忍はぐうとうなりながら、立ち上がる。

会計殿は

 忍が訪ねると、香里は今日も忙しいみたいですよと微笑んだ。

 まあ、彼女はウィッチよりも、お金問題だろう。

2 屋上の夕日はまるであなたの(3)

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