そういうわけで、君は死んだのです。
解ったかな……?

うん……


 莉緒は生返事を返し、顔を歪めて映像から目を逸らした。

 自分が跳ね飛ばされる姿を見ても、やはり莉緒は実感がわかなかった。悲しみよりも気持ち悪さが上回って、死体がグロくてきもい、ぐらいにしか思えない。

 

死んじゃったのかー。そっかー…………


あれ、そういえば……!?

デスさま、意外に落ち着きのある子で良かったですね!
これならスムーズに作業が行えます!

うむ、その点だけは評価――


 あああああああああああ!?
 


 莉緒は重大なことを思い出した。大学生になった自分へのお祝いとして買った、色々な物のことを。今日は念願のそれが届く日だったのだ。

 乙女ゲームにBLゲーム、人を選ぶ内容のBL漫画に小説、しかもそれらは全て18禁である。おまけに興味本位で頼んだ大人のおもちゃ、危ない下着にSMグッズ各種。

 莉緒が死んでしまった今では、あれらを開けるのは家族しかいない。娘を失って打ちひしがれている所に届くいかがわしい品々。それらを開封した時の両親の反応……。


  
 
 
 
 
 

宅急便でーす!
サインお願いしまーす!

はい……

ああ、あの子が頼んだ荷物ね……。
かわいそうに、莉緒……。
お仏壇に供えてあげるからね。

これは……!!

ううっ……!
莉緒……、お母さん、恥ずかしいわ!!

どうしたんだ、母さん。
また莉緒のことを思い出していたのか……?

違うの、違うのよ、お父さん!
莉緒ったら、こんなものを頼んで!!

こ、これを莉緒が……?
いやでもお年頃ならなあ……。
一応形見なわけだし、仏壇に……

やめてっ!
お仏壇にそんなもの置かないでちょうだい、汚らわしいっ!!
第一皆に見られるでしょ!!

かわいそうに、莉緒……。
お父さんがこっそり仏壇においてやるからな。あの世で楽しんでくれよ……。

 
 
 


ってなりそう。ってか絶対なる……!!


 その場面を想像した瞬間、莉緒は半狂乱になってわめいた。
 

いやあああああああああーっ!
あたしを戻して! 荷物を破壊させてっ!


 しかもそれだけじゃない。パソコンの中身だって見られたらやばいものがいっぱいだ。自作の小説なんか読まれた日にはもう莉緒はどうにかなってしまう。死んでいるにもかかわらず、そう思うのはどうしようもないことだった。
 その上それを父親に見つけられたら――亡き愛娘を偲び、遺作としてその小説を発行し、親類縁者に配るだろう。莉緒の父親ならやりかねなかった……。


あたしの人生お終いだよおおおおおお……!


 デスがうんざりした表情で、髪を振り乱してわめく莉緒をあごでしゃくる。
 

おい、パルピー……

はーい、デスさま


 またかよ、と思ったが、そんな感情はおくびにも出さずに、パルピーはにこやかに請け負った。
 

もー、落ち着いてくださいよ。死んでしまったあなたには関係のないことでしょう?

そういう問題じゃないんだよ!
荷物の中身を見られたら、
あたし恥ずかしくて死ぬ!

もう死んでますって

小説とか!
同じ趣味の子にみられるならいいけど、パンピーにはみられたくないいいいいいいい!

わたしは故人の笑い話になって和むと思いますけどね

和まない!
笑い者になんかなりたくない!!


 パルピーの慰めにもならない慰めは、莉緒を煽るばかりで逆効果にしかならなかった。
 

もうやだ、死にたい……


 ここに来て莉緒は初めて涙した。

なら良かったじゃないですか!
もう死んでるんだから!

だからそういう問題じゃないんだよ……!


 と、莉緒は泣きながら思った……。
 





 
  








 ひとしきり泣き喚いてすっきりした莉緒は、ようやく立ち直ることができた。
 

パパ、ママ、ごめんね。
莉緒のことは忘れて…………
特に荷物とかパソコンとか


 鼻をすすりながら、胸中で両親と自らの黒歴史に別れを告げた。
 ふっと顔を上げると、心配そうな顔をしたパルピーと視線がかち合う。
 

まだ泣くのか? 勘弁してくれよ……。



 

心配してくれたのかな……


 自分を労わってくれているのだろうか、と思い莉緒はちょっと嬉しくなって微笑んだ。
 
 
 

あ、笑った。
やれやれ、これで話を進められる。


 するとパルピーも微笑み返してくれたので、莉緒の心は少しだけ慰められた。知らぬが仏、である。
 

落ち着きました?

うん……

では、これから莉緒さんのこれからについて説明しますね

 パルピーは背後を振り仰ぐと、

デスさま、お願いしまーす

と言って、デスと入れ違いに後ろに下がった。
 前に進み出たデスは、仁王立ちして威圧感もあらわに莉緒を見下ろす。
 莉緒は嫌な予感しかしなかった。

光栄に思うがいい

 第一声からこれだ。莉緒はげんなりした。

うざっ!

お前は栄えある転生計画の要として選ばれたのだ。生まれたての癖に汚れきった魂を磨け

何それめちゃくちゃ大変そう

ていうかあたしそんなに汚れてないし!

 デスの言葉に腹を立てた莉緒は、せめてもの反抗心を奮い起こし不機嫌な顔で質問した。

それをして、あたしに何のメリットがあるんですか……

そうか、地獄に行くか

 そんな反抗心は、すぐ挫かれてしまったが。

安心してください、ちゃんとメリットならありますから。清き魂は神の御許へ……。つまり魂が洗練されれば、神さまのお傍にいけることができるのですよ!

はあ……


 デスの態度をフォローするように、パルピーが力説してくれたが、そんなことを言われても、莉緒にはありがたいなどとはまったく思えない。
 

神さまとか興味ないし、傍にいって何が嬉しいんだろ。イッちゃうくらいの快感をえられるとか?


 

…………

 などと不届きな考え事をしていたら、何故かデスに射殺しそうな視線で睨まれたので、慌てて居住まいを正した。

あは……

……とりあえず、お前には準備が整うまで、魂の特訓というものがどういうものかを体験してもらう


 デスがそう言うと、虚空に小型のスクリーンとキーボードらしきものが現れ、デスの前に浮遊した。彼はそれを手馴れたようにカタカタと操りだした。
 背すじをピシッと正して、真面目な顔で操作しているデスの姿は、イケメンだけあって様になっている。莉緒は思わず見とれてしまった。

口を開かなければ最高なのに……

そういえばお前は小説を書いていたのだったな

え、まあ、ちょっとした趣味で……

 デスは操作していた手を休め、おもむろに口を開いた。

”デスメタル★コンチェルト” 
ドッカーン!ガラガラガッシャーン。。。!それは王宮で起こった。突然現れ爆弾を投げつけたリオレッタに対して、王子は懐からリボルバーを取り出しパキューンと撃

うわああああああああ! 声に出して読まないで!! 

 ぼうっとなっていた莉緒だったが、デスの暴挙にパニックになってスクリーンに突進した。

うっ!?

 だが見えない壁に阻まれてしまい、莉緒の体はゴム毬のように吹き飛ばされてしまった。

なんという稚拙な文章なのだ……。小説としての体をまったくなしていないな

くっ……

 反論したいが、デスが恐ろしくてとてもではないが出来そうにない。莉緒はうつ伏せになりながら、悔しさに歯噛みした。
 

まあよかろう。…………それでこの話の時代設定は一体どうなっている

一応中世ヨーロッパ風を意識してみたんですけど……

そうか。それは丁度いい。では、この話を元に仮想世界を作る。足りない部分は補完してやる。……大幅な修正も必要だな。とりあえずは、ここで出来るだけ長く生き延びてみせよ

えっ

 デスがキーを押した瞬間、莉緒の体が光に包まれた。意識が徐々に薄れていく。そのはずなのに、デスの冷え切った声が、はっきりと莉緒の頭の中に響く。
 

神の御使いに対して道端の糞、などという無礼な想像をしたことを後悔しながら生きるのだな。せいぜい汚物にまみれるがいい

 遠のく意識の中で、莉緒は恐怖に戦慄した。





第二話 満ち溢れる黒歴史

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