次の日、学校中がルビーウィッチの噂をしていた。

俺たちの影の活躍を褒めてくれる人はいないのかね

 二時間目と三時間目の間、中休み。晃弘は、忍の机の前にある椅子に腰かけると、ひそひそ声でそう言った。

会長殿、君が、雑務の俺の活躍を褒めてくれたことはあるかね

忍、いつも本当にありがとう

はじめての褒め言葉、嬉しすぎて泣きそうだよ

 しかしなあ、と晃弘はスマートフォンを取り出す。無言で数秒操作した後、これだもんな、と忍に画面を向けた。忍は目を閉じ、見あきた、とつぶやく。

休み時間ごとに書きこみされてるんだろ。最初は昨日の感想や考察がたくさんあったけど、すぐに願い事の嵐になったな。馬鹿げてるやつばっかり

ほんとな。あ、でも、俺とのデートを実現させてほしいって言うのは感動した

はいはい色男

いつでもしてあげるって書きこもうかと思った

はいはいチャラ男

チャラ男とは、どうも、まじめ君。しかし、ルビーウィッチはうんともすんとも言わねえのな

 そうなんだよね、と忍は晃弘の携帯を手にし、今なお増え続けている最新の書きこみをチェックした。ルビーウィッチのルの字も無い。

なりすましの書きこみが消されているから、チェックはしてるようだけどな

吟味中ってことかな

だとしたら随分、偉そうだ

 偉そうねえ、と晃弘は下唇をつきだす。

何がしたかったんだろうね、忍はどう思う?

あんなのに素晴らしい目的があったら驚くよ。あって、俺たちを嫌がらせたかったとか、そういう幼稚なものだろう

やっぱり愉快犯かなあ

 忍から手渡された携帯を受けとり、晃弘は画面に目をやる。願い事は増え続けている。

愉快犯だろうな。犯人探し、したいのか? 晃弘は

んにゃ。このまま何も無く終わってほし――おや

 晃弘が目を丸くした。ん、と忍が目をあげると同時に、クラスの誰かが叫ぶ声がした。


 ルビーウィッチだ!

書きこみか?

 忍の質問に、ああ、と晃弘が頷いた。ほら、と画面を忍に向ける。忍は、画面に顔を思いきり近づけた。

No.876 ルビーウィッチ 2015/5/22 10:28:61

引き受けたよ! でも、どの書き込みの願いを引き受けたのかは言わないよ!
言ったら簡単に阻止されちゃうからね!

エクスクラメーションうっぜえー

 忍が顔をしかめる。まずそれかよ、と晃弘は苦笑した。

しかし、どの願い事だって、引き受けたって言わない方がばれないに決まってるのにな

 晃弘の言葉に、いや、と忍は首を横に降る。

願い事によるだろ。事実、昨日は願い事を特定した上で引き受けてるんだ。楽しいこと、なんていう抽象的な願いだったからできたんだろうけど

確かに、じゃあ今回の願い事は具体的ってことだ

そういうことになるな。ま、俺に迷惑がかからなければいいけどさ

俺ら、でしょ。大事にならなければいいけど

 ざわつく教室をたしなめるように、チャイムの音が教室に鳴り響いた。じゃあ、と晃弘は席をたつ。

放課後、生徒会室で

2 屋上の夕日はまるであなたの(1)

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