時刻的には深夜と表現すべき時間帯。
　当然、辺りは静寂に包まれている。

　俺と委員長とタツオの３人は、街灯のみが静かに照らす夜道の中、帰路に就いていた。

　何が基準になっているのかわからんが、そうらしい。

　ゲームセンターでは３人揃って想定以上に散財し、カラオケ店では全員が室内の機器の一切の使い方が前半の時間を完全に浪費し、ファストフード店ではタツオが口を滑らせまくって１０回以上もタツオの悲鳴を聞く事になったが……
　まぁ、思い返して見て、後悔する記憶では無い。むしろ前向きな感情を向けられる記憶だ。
要するに、楽しかった。

　中学の時はボロが出ない様に、余り学校外での付き合いには参加しなかったからな……
　友人とブラブラ遊び歩く事が、ここまで楽しめるなんて知らなかった。
　やはり、友人と言うモノは良いモノだ。

　要するに、リスクを負う事は承知していたが、これだけは我慢できなかった、と。
　本当に支配欲が強い様だ。

　自分の眼下に、数百人の生徒達が整然と並び、待機している光景、か。
　更に、その生徒達が自分を生徒会内での最高権力者と認めており、スピーチ…発言を待っている状態。

　……俺には支配願望が無いので、共感は難しいが……
　なんとなく、その光景に恍惚とする委員長を想像する事はできる。

本当に楽しそうである。

　高校入学に際して門限は撤廃された。
　今の俺は朝帰りさえ許される身分だ。
　歓迎してくれると言うのなら、伺わせてもらうしかないだろう。

　丁度近くにコンビニもある。

　そ、そうなのか……

　と言う訳で俺とタツオ、そして委員長はそれぞれ別行動。

　コンビニでの買い物を終え、俺とタツオは帰路の途中にある公園に立ち寄っていた。

　俺は独り、静かにトイレ前にて買い物袋を片手に待機。

　待機の理由は簡単。
　タツオが急に腹痛を訴え、トイレへ行ってしまったので用を足し終わるのを待っているのだ。

　カラオケのドリンクバーでやたらガバガバ飲んでいたからな。
　腹が冷えてしまっていたのだろう。

　余り人の事をこう言ってはアレかも知れないが、タツオは少々間抜けな部分が目立つな。

　不思議と、悪い気はしない。
　やれやれと呆れた様に言いつつも、少し笑ってしまっている事は自覚している。

　不意に、妙な感覚がした。

　何かこう、ぞわっ、とする様な……
　この感覚は、確か昔にも味わった記憶がある。

　異母兄妹の妹が、俺を殺すために用いた術。『空間移動の術』。空間を歪めていわゆるテレポートに近い事を行う、厄介な技だ。

　あれで空間が歪んだ時に感じた感覚と非常によく似ている。

　妙な感覚の出処を突き止め、空を見上げる。
　すると、

　何かが落ちてくる。
　あのシルエットは……人だ。服装や髪の長さから女性的要素を感じる。
　だが身長や髪色から判断するに妹ではない。

　と言うか、あの落下姿勢は……着地を考えていない、ただ落下している様に見える。
　そして動く気配も感じられない。

　唐突過ぎてよくわからない。
　だが、よくわからないからと言ってスルーする訳にもいかない。

　ビニール袋を放り投げ、俺は落下してきた少女を全力で受け止める。

　な、中々勢い付いてたなこの……

　ちょっと腕折れた。足の筋肉もヤバい。
　まぁ、治癒に集中すれば１０秒くらいで完治させられるから良いけど……

　俺の推測通り、少女は気を失っていた。

　しかし、落ち着いて眺めてみると妙な服装だな。
　洋服……にしても、何か浮いている。あまり見ない系統の服だ。
　服の端々に切れ目が入っているが、デザイン……では無く、切りつけられた様な切れ方だな。

　む、腰のベルトから下がっているこれは……剣だな。どう見ても。

　銃刀法、と言うモノがあったはずだが。

俺と目があった瞬間、何故か、少女の顔は大きく目を見開き、驚愕と焦りが入り混じった様な表情を浮かべた。

　む、そのまんま地に落っこちてしまった。
　放せと言ったから、放しても問題ない準備ができているモノかと思ったのに……

　手を貸そうかと思ったんだが……
　何か迫真の顔と声で「近寄るな」と言われては、離れるしかあるまい。
　３歩ほど後退する。

　気絶していたからちょっと心配だったが、あれだけ声を張れるなら問題は無さそうだな。

　何やら独りでブツブツと言っている。

　そして、不思議そうな顔で周囲をキョロキョロと見渡し始めた。

　異世界なんて言葉、普通は口にする機会など滅多にない。それを口にしたと言う事は……

　む、何やら警戒されている目だ。

　随分と漠然とした質問だな。

　むしろ友達募集中だ。
　なのでそんなにも警戒される謂れは無い。

　世界地理に特別造詣が深いと言う訳でもないが、欠片も聞き覚えのない国の名だ。

　急に、少女の全身から力が抜け落ちた。
　彼女の中でピンと張っていた何かが、急にたるんだ。
　何かに安堵した様子だ。

　エラくテンションが上がったな。

　俺が急にお祭り騒ぎ状態になった少女の扱いに困っていると、タツオがトイレから出てきた。

　しかも聞いて驚け、異世界から来た奴らしいぞ。
　そう、タツオに言おうとした時だった。

　リューナが剣を抜き、タツオに斬りかかったのは。

　リューナの袈裟懸け状の一閃を、タツオはギリギリの所で躱す。

　見ればわかる。
　だがわからん。
　どういう事だ。

　訳がわからんが、とりあえず袖口からクナイを取り出し、キャップを外して構え、タツオとリューナの間に割り込む。

　剣を水平に構え、リューナの瞳の内に、殺意と憎悪の色が躍る。

　それだけじゃない、その腕や、皮膚の所々が変色していく。
　炎の様に紅く煌く、鉄片の様な―――