世の中には怪異、幽霊、不可思議な
現象が確かに存在する……。

時として人は、自ら望む望まないにかかわらず、不可思議な世界へと足を踏み入れてしまう。


……数奇な運命によって出会った人とあやかし。
不思議な交流の果てに何が起こるのか?

今日この日、いつもとは違う顔ぶれは、ふとした拍子に取り返しの付かない罪をおかそうとしていた……。

あやか

花さ~~ん! いらっしゃいますか!?
遊びましょう! さぁさぁ!

あやか

【西園寺 綾香】
(さいおんじ あやか)通称:あやか

今どき珍しいお嬢様系JK。
西園寺財閥の令嬢でめっちゃお金持ってる。
人の話は聞かないし、聞くつもりもない

てーちゃん

花ちゃん~。遊ぼ~♪
今日はそんなに遅くならないから
大丈夫だよ♪

てーちゃん

【寺金 手毬】
(てらがね てまり)愛称:てーちゃん

オドオドした雰囲気がある小動物系JK。
最近檀家向けに自伝を書き始めた。

花子

ねぇ……。なんで貴方達ナチュラルに
私を誘ってるのよ……

花子

【トイレの花子さん】
(といれのはなこさん)愛称:花ちゃん

正真正銘の怪異。トイレの花子さん。
太陽光に対する耐性を獲得しつつある

あやか

実はですね、今日は花さんにオブザーバーとしてついてきて頂きたいのですわ

てーちゃん

うんうん、二人だとちょっと不安だしね。
もし本当にお化けにあっちゃったら
どうしよう! ってなっちゃうもん

花子

……私はさーやみたいに
安易に突っ込まないわよ。

ってかさーやがいないのね。
だから私を誘ったわけか

あやか

そういうことですわ!

花子

なんで私になるのか
分からないのだけど……。
それで、今日はどんなくだらないことを
企んでる訳?

あやか

ズバリ!
今日は走る二宮金次郎像に
会いにいくのですわ!

夢見ヶ丘学園☆しんれ~ぶ

第三夜:二宮金次郎像

花子

二宮金次郎像……ねぇ

てーちゃん

うん。そうなの。
実は最近警備の人が夜中校庭のグラウンドで人影が走っているのを見かけたらしくってね

あやか

私達はそれが校庭にある二宮金次郎像の
仕業であると推測したのですわ!

花子

なるほどね……

花子

胡散臭い話。でもまぁ……。
これが間違って無かったりするのよね

あやか

えっ!

てーちゃん

わぁっ!


軽く視線を上げ、自らの記憶を手繰り寄せる。


――二宮金次郎像。


勤勉の象徴として様々な学校に配置されるこの像だが、やはりその奇妙な出で立ちが子供の想像力を
掻き立てるのか、怪談の題材とされてしまいがちな
オブジェクト。


もっとも、大抵は噂だけの眉唾ものなのだけど、
……残念ながらこの学園にある石像は
確かに動くのだ……。

誠に、不本意ながら。

花子

あの嬉しそうな顔……。
はぁ、仕方ない。少し付き合ってあげるか

てーちゃん

ほ、本当なの花ちゃん!?
じゃあ噂は本物だったんだあやかちゃん!

どうしよう!?
私達、怪異に遭遇しちゃうよ!!

あやか

ふふふ。落ち着きなさいてーちゃんさん。
確かに怪異と接するなんて驚きと共に恐怖することでしょう。

けど、私達は夢見ヶ丘学園心霊部!
この程度の事で怯えていてはこれから先、
やっていけませんわよ!

てーちゃん

う、うん!
そうだね、そうだよねあやかちゃん!
私頑張るよ! お化けは怖いけど……、
でも頑張るよ!

花子

……くっ、突っ込んだら負けよ。
耐えるのよ私

あやか

どうかしましたか?

花子

なんでもないわ。んじゃあ納得した所でさっさと会いにいくわよ

あやか

よろしくお願いしますわね、
オブザーバーの花さん!

てーちゃん

よろしくね、花ちゃん♪

花子

まっ、あいつは基本的に走るだけの
奴だから。

貴方達が見学する位だった問題ないでしょ。安心しときなさいな

てーちゃん

やった♪

あやか

流石我が部のオブザーバー!
頼もしいですわ!

花子

でもなんか嫌な予感がするんだなぁ。
なんでだろう?

花子

……まっ、気のせいよね!!

花子

ほらほら、ついてこいJKども~

あやか

は~い!

てーちゃん

は~い♪

花子

んで、あれが二宮金次郎。
ただ校庭を走るだけのつまらない石像よ

てーちゃん

凄い、本当にいた……

あやか

まさに、衝撃の光景……ですわね!


目の前には校庭のグラウンドを走る
二宮金次郎像がいる。

何を目的とするでもなく、ただただ校庭を
ぐるぐる回るだけ。

そんなつまらない光景にも、あやか達は
キラキラとした表情で嬉しそうに視線を送っていた。

花子

あいつずっとああやって走ってるのよね。
何がしたいのか分からないけど。
話しかけても答えないし面白くないのよ

あやか

へぇ! そうなのですね

てーちゃん

なんで走ってるのかな? 不思議だよね~

花子

……さっ、満足したでしょ?
じゃあさっさと帰りなさい。

私も最近早めに寝るようにしてるから、
そろそろお開きにしたいのよね

あやか

彼、ずっと走っているのでしょうか?

花子

ん? ……まぁ、そうね。少なくとも私が知っている限りでは何時でも走ってるわ

あやか

いつでも……

あやか

……私達に、何ができるのでしょうか?

花子

……は?

てーちゃん

どうしたの、あやかちゃん?

あやか

あそこでずっと走り続ける二宮金次郎さん。
あんなに頑張ってるあの方に、
私達は何もしてあげることはできない
のでしょうか?

花子

いや、何のスイッチ入ったから知らないけど、別にしてあげる必要はないんじゃない?

てーちゃん

確かに、見ているだけだなんて、
心霊部らしくないよねあやかちゃん!!

花子

おい、ちょっとまてJK共。
余計な面倒事を増やさないでくれる?

あやか

……けど、一緒に走るとかは体力的に
無理ですし。

……か弱いJKである私達に出来ること
なんて……はっ!

てーちゃん

何かあったのあやかちゃん!?

あやか

そうだ、そうですわ!
応援できるじゃありませんか!
私達、彼を応援できるじゃありませんか!

てーちゃん

なるほど! その手があったね!
一緒に走ったりできなくても、
応援は出来るよね!

あやか

さっそく応援しますわよ、
てーちゃんさん! 花さん!

てーちゃん

うん! わかったよあやかちゃん!

花子

ちょ! 待ちなさいよ!
私は応援なんてしないわよ。
こらっ! 走るな!

あやか

金次郎さん!
がんばってくださいまし!
応援しておりますわよ~!

てーちゃん

ふれ~! ふれ~! 金次郎く~ん!
頑張って走ってね~!

花子

はぁ、はぁ……。本当に応援してる。
こいつら本当に面倒くさいなぁ

あやか

はっ!
見てくださいてーちゃんさん、花さん!
心なしか、金次郎さんが喜んでいますわ!
がんばって~!

てーちゃん

うん! 喜んでる!
金次郎君、喜んでる!
やっぱり女の子に応援されたら、
男の子は頑張っちゃうんだよ♪

花子

現金な奴ね……。なんでその位でやる気出してるのやら……

あやか

がんばれ♥ がんばれ♥

てーちゃん

がんばれ~♥ がんばれ~♥

花子

なんかどんどん早くなってるし……
ってアイツ、どこいくの!?

あやか

あっ! 駄目です、金次郎さん!
そちらはグラウンドの外!

いくらこの学園が交通量が少ない山奥にあるとは言え、道路に飛び出しては危険ですわ!

てーちゃん

あっ! まって! あの光……車だ!
待って金次郎君! 駄目!
そっちは駄目!!

あやか

駄目ぇぇぇぇ!!!

てーちゃん

止まってぇぇぇ!!!!

あやか

あっ、あああ…………

てーちゃん

う、うそ……でしょ?

花子

ダサすぎる……

あやか

き、金次郎さん!

てーちゃん

金次郎君!

てーちゃん

あ、ああ、どうしよう!
あやかちゃん! どうしよう!?

あやか

お、落ち着いて下さい! まずは救急車?
そ、それから警察を呼んで……

てーちゃん

だめ、だめだよあやかちゃん……

あやか

な、なぜですか!

てーちゃん

金次郎君。心臓……動いてないよ

あやか

ばっ……。そんな!!

てーちゃん

金次郎君……。しんじゃってるよぉ……

あやか

…………あ、ああああ

花子

……突っ込まないぞ。
突っ込んだら負けなんだ。
私は突っ込まないぞ!

てーちゃん

け、警察……よ、呼ぶね、あやかちゃん

あやか

ま、待って! 待って下さいまし!

てーちゃん

え? どうして? 早く警察呼ばないと、
それに救急車。
……金次郎君、このままだと可哀想だよ

あやか

ひ、人にバレたらマズイですわ……

てーちゃん

え、え?
な、なに言ってるのあやかちゃん?
何を言い出してるの!?

あやか

だ、だってそうでしょ?
私達は彼を煽ったのですわよ。

つまり彼を殺したのも同然。
いくら直接の原因は車だからと言っても、
私達が罪に問われない理由はありません

てーちゃん

え? それって……逮捕、
され……ちゃう、の?

花子

わけねーだろうが!!

あやか

わたくしはそんなのゴメンですわ。
だって、わたくしは花も恥じらうJK。

まだまだやりたいことが
沢山あるんですもの……

てーちゃん

でも、でも……どうすればいいの?
私、わかんないよ……

あやか

…………

あやか

……埋めましょう

てーちゃん

えっ!?

あやか

金次郎さんの死体を……埋めましょう!

てーちゃん

まさか、そんな……隠すっていうの!?

あやか

わたくし達には、
もはやそれしか残されていないのですわ……

花子

ねぇ、いい加減我慢できなくなったんだけど、私疲れたからそろそろお開きにしない?

あやか

花さん。ごめんなさい……。
貴方にも罪をかぶせてしまいましたわね……。

わたくし達が無理に誘わなければ、こんな事にならなかったのに……

てーちゃん

花ちゃん。ごめんね、本当にごめんね……。許して、バカな私達を許して……

花子

お、おう……

花子

なんだこの空気……

あやか

雨……。こんな時に忌々しい……。
いいえ、チャンスかもしれませんわね。

地面がぬかるんで、
穴を掘りやすくなりますわ

てーちゃん

私……用具入れから
スコップ取ってくるね……

あやか

お願いします、てーちゃんさん。
さ、花さん。一緒に――金次郎さんの死体
を運びましょう

花子

…………えっと、は、はぁ

いつの間にか、雨はその勢いを増し、
ゴロゴロと雷までなり始めた。

暗く見通しの悪い中、私達は必死に穴を掘っている。
その隣には物言わぬ二宮金次郎像。

……いや、そもそも二宮金次郎像は
物を言わないんだけど。

頭が痛くなってくる。

だが、今の私には残念ながらこの空気に
ツッコミを入れる度胸はなかった……。

てーちゃん

雨……止まないね

あやか

何時人が来るか分かりません。
口を動かす前に、手を動かして下さい、
てーちゃんさん……

てーちゃん

なんでこんな事になっちゃったんだろう。
私達、金次郎君を励ましたかった
だけなのに……

あやか

……仕方ありませんわよ。なってしまったんですもの……。取り返しもつきませんし

てーちゃん

だって、おかしいよ。
私達、何も悪いことしてないのに……

なんでこんな事をしなきゃいけないの!? こんな事、本当はする必要ないよ!

花子

ちょ、ちょっと……

あやか

煩いですわ……。
さっさと口を閉じて手を動かして下さい

花子

……はらはら

てーちゃん

あやかちゃんはいいよね。
最悪お家にもみ消して貰えばいいんだし。

私なんて、お家が寺だから
こんなのバレたら――

あやか

手を動かせって言ってるでしょう!
てーちゃんさん!!

てーちゃん

あやかちゃんだってさっきから
全然進んでないじゃない!!

あやか

…………

てーちゃん

…………

花子

お、落ち着いて。
ほら、こういう時落ち着かないと
駄目でしょ。ねっ?

あやか

…………

花子

あやかもさ、大声出しちゃ駄目だよ。
人が来ちゃうからさ

てーちゃん

………

花子

てーちゃんも、気持ちは分かるけどまずは
埋めよう? それから話をすればいいんだし

あやか

…………

てーちゃん

…………

花子

きっまず~~~~!!!

花子

何なの! なんで私がこんなに胃の痛い思いしないといけないの!?

なんでいきなりホラー映画っぽい
雰囲気出てるの?

花子

こいつら本当もうなんなの!
しょっぱなからツッコミの難易度高過ぎるでしょうが!!

どういう対応が正解なのよ!

花子

くそぅ! なんで今日はさーやが
いないのよ!
ツッコミしか取り柄がないんだからこういう時ぐらい出てきなさいよね!!

あやか

……ふぅ

花子

……!?

あやか

……埋め終わりましたわ

てーちゃん

多分、これでばれないと思う……

花子

そ、そう……。無事バレずに埋められたね

てーちゃん

後は、家の人にばれないように、
こっそり帰るだけ……

あやか

ええ。分かっていると思いますけど、
今日の事は三人の秘密にしましょう……

あやか

何があっても、
絶対に人に言ってはいけませんわ……

てーちゃん

……うん

花子

も、もちろんよ! 当然じゃない!

花子

とりあえず適当に話を合わせよう!
これは私には無理なあれだ!

あやか

帰りましょう……

てーちゃん

……うん。そうだね

花子

じゃ、じゃあ、私も帰るから……

あやか

花ちゃんさん

花子

えっ? な、何かしら?

――絶対に……誰にも言わないでくださいね

花子

ひっ! ひゃ、ひゃい!!

あやか

分かってくれれば、いいんですの……

花子

だから、どういう方向性なのよ!
なんなの! 私は罪をゲロしようとして殺される役なの!?

ってかそもそも死んでるんですけど!!

花子

もう、いっぱいいっぱいだ……。

ああ、なんでこんな事に
なっちゃったんだろうなぁ……

こうして、愚かなる少女たちの、
愚かなる決断は一時の幕を閉じる。

彼女達は自らが犯した罪とどの様に
向き合っていくのだろうか……。

当事者である彼女達自身、
その問いに答える術を持たぬまま。

ただ、雨だけが冷たく、
そして静かにグラウンドに降り注いでいた。

ちなみにこの件は翌日あっさりバレ、あやかとてーちゃんは学園長より直々に大目玉を食らう事となる。

悲劇とは、時として人の予想を
越えて突如やってくるものだ。

今回の事件は、決して誰も幸せになれない、
まさしく悲劇と言って違いないものであった……。

pagetop