世の中には怪異、幽霊、不可思議な
現象が確かに存在する……。
時として人は、自ら望む望まないにかかわらず、不可思議な世界へと足を踏み入れてしまう。
……数奇な運命によって出会った人とあやかし。
不思議な交流の果てに何が起こるのか?
今日この日、いつもとは違う顔ぶれは、ふとした拍子に取り返しの付かない罪をおかそうとしていた……。
世の中には怪異、幽霊、不可思議な
現象が確かに存在する……。
時として人は、自ら望む望まないにかかわらず、不可思議な世界へと足を踏み入れてしまう。
……数奇な運命によって出会った人とあやかし。
不思議な交流の果てに何が起こるのか?
今日この日、いつもとは違う顔ぶれは、ふとした拍子に取り返しの付かない罪をおかそうとしていた……。
花さ~~ん! いらっしゃいますか!?
遊びましょう! さぁさぁ!
【西園寺 綾香】
(さいおんじ あやか)通称:あやか
今どき珍しいお嬢様系JK。
西園寺財閥の令嬢でめっちゃお金持ってる。
人の話は聞かないし、聞くつもりもない
花ちゃん~。遊ぼ~♪
今日はそんなに遅くならないから
大丈夫だよ♪
【寺金 手毬】
(てらがね てまり)愛称:てーちゃん
オドオドした雰囲気がある小動物系JK。
最近檀家向けに自伝を書き始めた。
ねぇ……。なんで貴方達ナチュラルに
私を誘ってるのよ……
【トイレの花子さん】
(といれのはなこさん)愛称:花ちゃん
正真正銘の怪異。トイレの花子さん。
太陽光に対する耐性を獲得しつつある
実はですね、今日は花さんにオブザーバーとしてついてきて頂きたいのですわ
うんうん、二人だとちょっと不安だしね。
もし本当にお化けにあっちゃったら
どうしよう! ってなっちゃうもん
……私はさーやみたいに
安易に突っ込まないわよ。
ってかさーやがいないのね。
だから私を誘ったわけか
そういうことですわ!
なんで私になるのか
分からないのだけど……。
それで、今日はどんなくだらないことを
企んでる訳?
ズバリ!
今日は走る二宮金次郎像に
会いにいくのですわ!
夢見ヶ丘学園☆しんれ~ぶ
第三夜:二宮金次郎像
二宮金次郎像……ねぇ
うん。そうなの。
実は最近警備の人が夜中校庭のグラウンドで人影が走っているのを見かけたらしくってね
私達はそれが校庭にある二宮金次郎像の
仕業であると推測したのですわ!
なるほどね……
胡散臭い話。でもまぁ……。
これが間違って無かったりするのよね
えっ!
わぁっ!
軽く視線を上げ、自らの記憶を手繰り寄せる。
――二宮金次郎像。
勤勉の象徴として様々な学校に配置されるこの像だが、やはりその奇妙な出で立ちが子供の想像力を
掻き立てるのか、怪談の題材とされてしまいがちな
オブジェクト。
もっとも、大抵は噂だけの眉唾ものなのだけど、
……残念ながらこの学園にある石像は
確かに動くのだ……。
誠に、不本意ながら。
あの嬉しそうな顔……。
はぁ、仕方ない。少し付き合ってあげるか
ほ、本当なの花ちゃん!?
じゃあ噂は本物だったんだあやかちゃん!
どうしよう!?
私達、怪異に遭遇しちゃうよ!!
ふふふ。落ち着きなさいてーちゃんさん。
確かに怪異と接するなんて驚きと共に恐怖することでしょう。
けど、私達は夢見ヶ丘学園心霊部!
この程度の事で怯えていてはこれから先、
やっていけませんわよ!
う、うん!
そうだね、そうだよねあやかちゃん!
私頑張るよ! お化けは怖いけど……、
でも頑張るよ!
……くっ、突っ込んだら負けよ。
耐えるのよ私
どうかしましたか?
なんでもないわ。んじゃあ納得した所でさっさと会いにいくわよ
よろしくお願いしますわね、
オブザーバーの花さん!
よろしくね、花ちゃん♪
まっ、あいつは基本的に走るだけの
奴だから。
貴方達が見学する位だった問題ないでしょ。安心しときなさいな
やった♪
流石我が部のオブザーバー!
頼もしいですわ!
でもなんか嫌な予感がするんだなぁ。
なんでだろう?
……まっ、気のせいよね!!
ほらほら、ついてこいJKども~
は~い!
は~い♪
んで、あれが二宮金次郎。
ただ校庭を走るだけのつまらない石像よ
凄い、本当にいた……
まさに、衝撃の光景……ですわね!
目の前には校庭のグラウンドを走る
二宮金次郎像がいる。
何を目的とするでもなく、ただただ校庭を
ぐるぐる回るだけ。
そんなつまらない光景にも、あやか達は
キラキラとした表情で嬉しそうに視線を送っていた。
あいつずっとああやって走ってるのよね。
何がしたいのか分からないけど。
話しかけても答えないし面白くないのよ
へぇ! そうなのですね
なんで走ってるのかな? 不思議だよね~
……さっ、満足したでしょ?
じゃあさっさと帰りなさい。
私も最近早めに寝るようにしてるから、
そろそろお開きにしたいのよね
彼、ずっと走っているのでしょうか?
ん? ……まぁ、そうね。少なくとも私が知っている限りでは何時でも走ってるわ
いつでも……
……私達に、何ができるのでしょうか?
……は?
どうしたの、あやかちゃん?
あそこでずっと走り続ける二宮金次郎さん。
あんなに頑張ってるあの方に、
私達は何もしてあげることはできない
のでしょうか?
いや、何のスイッチ入ったから知らないけど、別にしてあげる必要はないんじゃない?
確かに、見ているだけだなんて、
心霊部らしくないよねあやかちゃん!!
おい、ちょっとまてJK共。
余計な面倒事を増やさないでくれる?
……けど、一緒に走るとかは体力的に
無理ですし。
……か弱いJKである私達に出来ること
なんて……はっ!
何かあったのあやかちゃん!?
そうだ、そうですわ!
応援できるじゃありませんか!
私達、彼を応援できるじゃありませんか!
なるほど! その手があったね!
一緒に走ったりできなくても、
応援は出来るよね!
さっそく応援しますわよ、
てーちゃんさん! 花さん!
うん! わかったよあやかちゃん!
ちょ! 待ちなさいよ!
私は応援なんてしないわよ。
こらっ! 走るな!
金次郎さん!
がんばってくださいまし!
応援しておりますわよ~!
ふれ~! ふれ~! 金次郎く~ん!
頑張って走ってね~!
はぁ、はぁ……。本当に応援してる。
こいつら本当に面倒くさいなぁ
はっ!
見てくださいてーちゃんさん、花さん!
心なしか、金次郎さんが喜んでいますわ!
がんばって~!
うん! 喜んでる!
金次郎君、喜んでる!
やっぱり女の子に応援されたら、
男の子は頑張っちゃうんだよ♪
現金な奴ね……。なんでその位でやる気出してるのやら……
がんばれ♥ がんばれ♥
がんばれ~♥ がんばれ~♥
なんかどんどん早くなってるし……
ってアイツ、どこいくの!?
あっ! 駄目です、金次郎さん!
そちらはグラウンドの外!
いくらこの学園が交通量が少ない山奥にあるとは言え、道路に飛び出しては危険ですわ!
あっ! まって! あの光……車だ!
待って金次郎君! 駄目!
そっちは駄目!!
駄目ぇぇぇぇ!!!
止まってぇぇぇ!!!!
あっ、あああ…………
う、うそ……でしょ?
ダサすぎる……
き、金次郎さん!
金次郎君!
あ、ああ、どうしよう!
あやかちゃん! どうしよう!?
お、落ち着いて下さい! まずは救急車?
そ、それから警察を呼んで……
だめ、だめだよあやかちゃん……
な、なぜですか!
金次郎君。心臓……動いてないよ
ばっ……。そんな!!
金次郎君……。しんじゃってるよぉ……
…………あ、ああああ
……突っ込まないぞ。
突っ込んだら負けなんだ。
私は突っ込まないぞ!
け、警察……よ、呼ぶね、あやかちゃん
ま、待って! 待って下さいまし!
え? どうして? 早く警察呼ばないと、
それに救急車。
……金次郎君、このままだと可哀想だよ
ひ、人にバレたらマズイですわ……
え、え?
な、なに言ってるのあやかちゃん?
何を言い出してるの!?
だ、だってそうでしょ?
私達は彼を煽ったのですわよ。
つまり彼を殺したのも同然。
いくら直接の原因は車だからと言っても、
私達が罪に問われない理由はありません
え? それって……逮捕、
され……ちゃう、の?
わけねーだろうが!!
わたくしはそんなのゴメンですわ。
だって、わたくしは花も恥じらうJK。
まだまだやりたいことが
沢山あるんですもの……
でも、でも……どうすればいいの?
私、わかんないよ……
…………
……埋めましょう
えっ!?
金次郎さんの死体を……埋めましょう!
まさか、そんな……隠すっていうの!?
わたくし達には、
もはやそれしか残されていないのですわ……
ねぇ、いい加減我慢できなくなったんだけど、私疲れたからそろそろお開きにしない?
花さん。ごめんなさい……。
貴方にも罪をかぶせてしまいましたわね……。
わたくし達が無理に誘わなければ、こんな事にならなかったのに……
花ちゃん。ごめんね、本当にごめんね……。許して、バカな私達を許して……
お、おう……
なんだこの空気……
雨……。こんな時に忌々しい……。
いいえ、チャンスかもしれませんわね。
地面がぬかるんで、
穴を掘りやすくなりますわ
私……用具入れから
スコップ取ってくるね……
お願いします、てーちゃんさん。
さ、花さん。一緒に――金次郎さんの死体
を運びましょう
…………えっと、は、はぁ
いつの間にか、雨はその勢いを増し、
ゴロゴロと雷までなり始めた。
暗く見通しの悪い中、私達は必死に穴を掘っている。
その隣には物言わぬ二宮金次郎像。
……いや、そもそも二宮金次郎像は
物を言わないんだけど。
頭が痛くなってくる。
だが、今の私には残念ながらこの空気に
ツッコミを入れる度胸はなかった……。
雨……止まないね
何時人が来るか分かりません。
口を動かす前に、手を動かして下さい、
てーちゃんさん……
なんでこんな事になっちゃったんだろう。
私達、金次郎君を励ましたかった
だけなのに……
……仕方ありませんわよ。なってしまったんですもの……。取り返しもつきませんし
だって、おかしいよ。
私達、何も悪いことしてないのに……
なんでこんな事をしなきゃいけないの!? こんな事、本当はする必要ないよ!
ちょ、ちょっと……
煩いですわ……。
さっさと口を閉じて手を動かして下さい
……はらはら
あやかちゃんはいいよね。
最悪お家にもみ消して貰えばいいんだし。
私なんて、お家が寺だから
こんなのバレたら――
手を動かせって言ってるでしょう!
てーちゃんさん!!
あやかちゃんだってさっきから
全然進んでないじゃない!!
…………
…………
お、落ち着いて。
ほら、こういう時落ち着かないと
駄目でしょ。ねっ?
…………
あやかもさ、大声出しちゃ駄目だよ。
人が来ちゃうからさ
………
てーちゃんも、気持ちは分かるけどまずは
埋めよう? それから話をすればいいんだし
…………
…………
きっまず~~~~!!!
何なの! なんで私がこんなに胃の痛い思いしないといけないの!?
なんでいきなりホラー映画っぽい
雰囲気出てるの?
こいつら本当もうなんなの!
しょっぱなからツッコミの難易度高過ぎるでしょうが!!
どういう対応が正解なのよ!
くそぅ! なんで今日はさーやが
いないのよ!
ツッコミしか取り柄がないんだからこういう時ぐらい出てきなさいよね!!
……ふぅ
……!?
……埋め終わりましたわ
多分、これでばれないと思う……
そ、そう……。無事バレずに埋められたね
後は、家の人にばれないように、
こっそり帰るだけ……
ええ。分かっていると思いますけど、
今日の事は三人の秘密にしましょう……
何があっても、
絶対に人に言ってはいけませんわ……
……うん
も、もちろんよ! 当然じゃない!
とりあえず適当に話を合わせよう!
これは私には無理なあれだ!
帰りましょう……
……うん。そうだね
じゃ、じゃあ、私も帰るから……
花ちゃんさん
えっ? な、何かしら?
――絶対に……誰にも言わないでくださいね
ひっ! ひゃ、ひゃい!!
分かってくれれば、いいんですの……
だから、どういう方向性なのよ!
なんなの! 私は罪をゲロしようとして殺される役なの!?
ってかそもそも死んでるんですけど!!
もう、いっぱいいっぱいだ……。
ああ、なんでこんな事に
なっちゃったんだろうなぁ……
こうして、愚かなる少女たちの、
愚かなる決断は一時の幕を閉じる。
彼女達は自らが犯した罪とどの様に
向き合っていくのだろうか……。
当事者である彼女達自身、
その問いに答える術を持たぬまま。
ただ、雨だけが冷たく、
そして静かにグラウンドに降り注いでいた。
ちなみにこの件は翌日あっさりバレ、あやかとてーちゃんは学園長より直々に大目玉を食らう事となる。
悲劇とは、時として人の予想を
越えて突如やってくるものだ。
今回の事件は、決して誰も幸せになれない、
まさしく悲劇と言って違いないものであった……。