世の中には怪異、幽霊、不可思議な
現象が確かに存在する……。

それらは時として、意外な場所で
目にすることができる。

……彼女たちは知らない。
自分たちが在籍する夢見ヶ丘学園以外でも――。

人の理解を超えた存在は、
確かに蠢いているのだということを。

あやか

深夜のドライブって素敵ですわね!
まさか貴方が免許を持ってるとは
思いませんでしたわ

あやか

【西園寺 綾香】
(さいおんじ あやか)通称:あやか

今どき珍しいお嬢様系JK。
西園寺財閥の令嬢でめっちゃお金持ってる。
免許は持ってないが車は持ってる

てーちゃん

えへへ、そうだよね。
今日はちょっぴり夜更かしして、いろんな所にドライブに行っちゃおうよ?

きっと楽しいと思うよ!

てーちゃん

【寺金 手毬】
(てらがね てまり)愛称:てーちゃん

オドオドした雰囲気がある小動物系JK。
最近実家が檀家の一人と土地の権利について揉めている

さーや

ねぇ、いろいろ突っ込みたいところはあるんだけど……。
端的に言っていいからしら?

さーや

【山田 沙苗】
(やまだ さなえ)愛称:さーや

元気だけしかとりえの無いありきたりJK。
まだ出番はあった

さーや

なんで二宮金次郎が車を運転してるのよ!!

夢見ヶ丘学園☆しんれ~ぶ

第四夜:ターボババア

あやか

大きな声を出さないでくださいさーやさん。そんなの免許を持っているからに決まっているでしょう?

てーちゃん

そうだよさーやちゃん。
金次郎君、この前の事故でいろいろ思うところがあってね。
交通ルールを知りたいって思うようになったんだって……

あやか

それで、交通ルールを知るくらいだったら免許を取ればいいんじゃないかしら? って話になったって訳ですわ!

さーや

一切理解できないけど、まぁいいわ。
これ以上聞いても頭が痛くなるだけだから……

さーや

とりあえず、私たちはどこに向かっているわけ? ドライブっていっても一応の目的地を決めておかないとグダグダになっちゃうわよ?

あやか

ふふふ……そこはご安心下さい。
実は素晴らしい場所を知っておりますの

てーちゃん

素晴らしい場所? それってもしかして、
心霊部の活動と関係しているの?

あやか

ご明察ですわてーちゃんさん!
金次郎さん! 先程伝えた国道に
向かって下さい!

さーや

……国道? なにそれ?
国道って、あの国道よね? 普通に道に向かってどうするの? それ、楽しいの?

あやか

甘いですわよさーやんさん。
例の国道……通称『追い越し国道』。

そこはですね――

あやか

……出るんですよの

さーや

出るって……何が?

あやか

妖怪に決まっているじゃないですか!
これはチャンスですわよ! どうやら最近は目撃例も増えているらしく、今行けばほぼ百パーセント会うことが出来ますわ!

てーちゃん

すごい! すごいよあやかちゃん!
私も妖怪を見てみたいよ!

あやか

そうでしょ、そうでしょ!
私も妖怪を見てみたいですわ!!

さーや

妖怪なら目の前にいるわよ?

あやか

……そういうわけで、よろしくお願いしますわ金次郎さん。
私達を『追い越し国道』まで連れて行ってくださいまし!

さーや

無視しやがったな……

さーや

そういえば聞くの忘れてたんだけど、
その『追い越し国道』って何がでるの?

あやか

出るのは"ターボババア"ですわ……

さーや

ターボババァ……

 聞いたことがある。
 ターボババァとは主に人気の少ない道路やトンネルで出くわす妖怪だ。

 ドライバーが何気なしにバックミラーに目をやると、ボロボロの服に身を包んだ老婆が
四つん這いで走っている……。

 いくらアクセルを踏もうと恐ろしい早さで追いかけてき、やがて車を抜き去って行ってしまう。

 それがターボババアと呼ばれる妖怪の基本的な噂だ。

 ターボババアに抜かれると死ぬとか事故に
あうとか良くない噂も聞くが……。


 はたして大丈夫なのだろうか?

あやか

そろそろ『追い越し国道』ですわね……

てーちゃん

うわ~。すごい、国道なのに全然車が
走ってないね……

あやか

利用するにはいろいろと
不便な道路ですからね。
地元では賄賂と汚職の申し子とも言われていますわ――

てーちゃん

ああ、分かる。やっぱりお金貰っちゃったら道路作るように圧力かけないといろいろ角が立つしね……

あやか

そうなのですわ。清濁併せ呑むとは言え、
面倒なことです

てーちゃん

そう言えば、ここの道路の公共事業ってあやかちゃんのお家があからさまに掻っ攫っていったよね?

あやか

まぁ、ひどい言い草ですわね。
あくまで正当な入札を行ったまでですわよ。

てーちゃん

本当、見習いたいなぁ、あやかちゃんの
そういうところ……

あやか

うふふふふ

てーちゃん

えへへへへ

さーや

ねぇ、ふたりとも……あ、三人か

あやか

……? どうかしましたか?

てーちゃん

なぁに、さーやちゃん

さーや

バックミラーに、なんか変な影が映ってない?

あやか

――っ!!

てーちゃん

――!?

てーちゃん

な、何あれ……ちょっと良く見えないよ

あやか

だ、だんだん早くなって来ているような……

さーや

ねぇ、金次郎。今何キロ出ているの?

あやか

……時速70キロですわね

さーや

……バイク、じゃないわよね?

てーちゃん

無灯火だよ……

 背後からやってくるソレがだんだんと
はっきりしてくる。

 やがて電柱に付けられた街灯が先程から
私達を追いかけてくる存在を照らし出す……。

さーや

あっ!!

てーちゃん

ひっ!!

あやか

きゃっ!!


 その姿を見た全員が一斉に息を呑む。
 それは、不気味に両手両足をばたつかせ走る。

 ――老婆だった。

さーや

ターボババアだ……

てーちゃん

ど、どうしよう!?
あやかちゃん、ターボババアに追い抜かれると良くないことが起きるんじゃなかったの!?

あやか

え、ええ、そう言われていますわね

さーや

ぼーっとしているんじゃないわよ!
金次郎! スピード上げて!

あやか

さーやさん!
すでにメーター振りきっていますのよ!

さーや

そんな! 追いつかれちゃうわよ!?

てーちゃん

だ、だめ! もうすぐそこまで来てる!!

さーや

あっ――

てーちゃん

ど、どうしよう……

さーや

どうしようもないわよ。とりあえず抜かれちゃったものは仕方ないわ!
事故だけは起こさないように
安全運転しましょう!

てーちゃん

そ、そうだね! 金次郎君、お願い

――あれ? どうしたの?

あやか

あら? 何か向こう側に明かりが見えますわね……

さーや

あれは!!

警官

おばあちゃん……。
これでスピード違反何度目なの!?
危ないって言ってるでしょ?
ほら、免許出して!!

ターボババア

離せぇ! 離せぇ!!

さーや

ターボババアが検問で
捕まってるぅぅぅ!!!

ターボババア

風に……わしゃ風になりたいんじゃ……

さーや

うわぁ……

あやか

ちょっとゆっくり走って下さい金次郎さん。様子を見ましょう

てーちゃん

ターボババアも国家権力には
勝てなかったんだね……

さーや

ってかターボババアも免許持ってるの?

あやか

でも、何度も違反しているみたいですし、
免停食らっても良さそうなものですけどね……

警官

ほら! おばあちゃん! 早く免許出して

――あっ! これ免停中じゃないか!
アンタ、何やってるんだ!

ターボババア

わしゃ風になるんじゃ!
スピードの向こう側へ行くんじゃ!!

警官

こら! 暴れるな! あっ! 逃げたぞ! 追え追え! 逃すな!!

ターボババア

世界を取るんじゃああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁ………――――

てーちゃん

行っちゃった……

さーや

……さて、どうする?

あやか

なかなかスリリングな経験でしたわね。
でも、私たちは今回の出来事を通じて、
一つ大切なことを学びました

さーや

えっ? まとめに入るの?
まぁ良いわ。何よ?

あやか

交通ルールは守りましょう。

――ターバババアさんは、きっと身を持ってそのことを私達に教えてくれた

あやか

そう、思うんですの……

さーや

…………そうね

こうして、少女たちと石像の
恐怖のドライブは幕を閉じた。

道路交通法によると速度制限の超過は
場合によって一発で免許取り消しになることもあり、
また重大事故を引き起こす危険性も十分に孕んでいる。

 その事実に震えながら……。
 少女たちは、交通ルールを守ることの大切さを
強く学んだのであった……。

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