里芋と吉岡は北二十四条のコインロッカーの前に
立っていた。

里芋

ここにおそらく観測すべき箱がある。
鍵が必要であるというし、
箱はコインロッカーではないかな。

吉岡

そうだとしたらどれに入ってる?
鍵はどこにあるんだ?

里芋

最も大きな箱の下にあるはずだけど、
ロッカーの下には隙間なんかないな。

吉岡

箱、箱ねぇ。大きな箱ねぇ。
地下にあるとか?

里芋

それじゃあ絶対に取り出せない。

吉岡

待てよ?隙間……隙間があるぞ、アレには!
自動販売機だよ!!

吉岡

ビンゴだ。何か細長いものを貸してくれ。
ノートとかでいい。


吉岡はノートを使って自動販売機の下から小さな鍵を
かきだした。

里芋

どうやら鍵はこのロッカーで
良いみたいだね。

吉岡

なぁ、資金が入ってたらどうする?
映画館でも買うか?

里芋

こんな小さいロッカーに
そんな資金が入ってるわけないでしょ。

吉岡

それもそうか。じゃああけるぞ。

ゆっくりとロッカーをあける。中に入っていたのはUSBとカードとA4の紙だけだった。

夏川、USBには癒着の証拠となるデータ、それに裏帳簿が入っている。カードは奪った組の資金が入れてある。全部で2億8千万だ。暗証番号下四桁。
頼む。時間がない、助けてくれ。

正しい行いを

吉岡

嘘じゃなかったんだな。

里芋

助けてくれってなんだろう。
なぁ、どうする?

吉岡

どうするって何がだ?

里芋

これ持ち逃げしてもいいし、
売ってもいいだろ?

吉岡

分かってるだろ。

里芋

ああ、正しいことを。

夏川

コウ!!


息を弾ませながら、必死な形相で夏川は走ってきた。
コウは夏川を見て逃げ出そうとするが、
里芋は吉岡の服をつかんだ。


夏川

それを渡してくれ。頼む。
もう不正を明らかにするだけじゃないんだ。

アイツのしてきたことを無駄には出来ないし
助けなきゃならない。

里芋

あの助けるってどういうことですか?

夏川

君たちはロッカーに入っていることが不自然だと思わなかったか?ロッカーは一週間しかしか保存してくれない。
もっといい保存場所があるはずだ。
にも関わらず、なぜロッカーに入っていたと思う?

里芋

もしかして一週間以内に
解決してほしいということですか?

夏川

ああ、その通りだ。
一度は計画は中止になったが、調べてくれた男たちの一人は再び計画を起こすためにまだ潜入捜査を続けていたらしい。

組長にも信頼されていたが、その調べてくれていた男の娘が組の薬に手を出してしまったと知り、情報を集めるのを早めた結果、
疑われてしまったらしい。

里芋

なるほど。それで先生はどうするんですか?

夏川

男の家族は既に保護した。

まず第一にすることは
男を探すことだ。
そのデータは男の身柄の安全を保障、
要求するのに必要だ。

もし仮に男が捕えられ殺されてしまっていたとしたら猶更この事実を白日の下にしなければならない。
彼のやったことを無駄にしない為にも。

夏川


その後については、
今は私の勝手な素人考えだが、

不正の情報はネットに流そうと思う。
資金もいずれ警察に渡すが、
もみ消されないよう
その前に各メディアや税務機関などに
警察に渡すことも言っておく。

実際に行動に起こす際は、
久しぶりに会った仲間と相談して
決めるさ。

吉岡

なぁ。あんたのやってることは分かった。
でも、どうして、こんなことするんだ?

あんたじゃなきゃダメだったのか?

夏川

僕は君に誇れる父親になりたいから。

吉岡

何だよそれ。

夏川

……やり直せないかな?

吉岡

分からないよ。
だけどもう一回だけチャンスをやってもいいかもしれない。

今度は、里芋もいるからな。
何とかなる気がするわ。

夏川

その、なんていうか本当にありがとう。

吉岡

うるせぇよ。
里芋、いこーぜ。



じゃあな親父。



吉岡は走っていく。それを追うように里芋も走る。
息を弾ませながら、走る。

何だか気恥ずかしくなって、
いてもたってもいられなくなって、
吉岡は走った。

駅から離れて繁華街も抜け出して、
閑静な住宅街にたどり着いて、
吉岡は口を開いた。



吉岡

父親の背中って大きいわ。

里芋

たしかにあの人は立派だ。

里芋

でも、コウちゃんには今は俺もいる。
二人なら大きな背中より大きくなれると
思わないか?


吉岡は苦笑しながら確かに、といった。
やがてどちらも同時に手を差し出して、
やや恥ずかしそうに微笑んだ。


里芋

これからもよろしく。

吉岡

ふつつかものですが。
なんちゃって。

友情を星々が照らした。
里芋はなんとなく吉岡はもう寝てるときに暴れることはないだろうなと思った。


それから、帰るのには電車を使うけど、
駅に戻って夏川先生がまだいたら何か格好が悪いなぁ
なんて考えて二人でゆっくりと歩きだした。

それから後日談。
監督は結婚した。相手は言うまでもないだろう。
今は二人で一つの小説を書いているらしい。

座長は別の劇団に移ってしまった。
最後まで悩んでいたけど、今は大手の劇団で大成功しているようだ。

僕はというと、なんとTV局で働いている。
ADとしての仕事をする傍ら、放送作家としても活動している。激務で、発給だが、満足はしている。

実は子供のころから放送作家になりたいと思っていたし、どうやらあれから複数の人と一つの作品を仕上げることにハマってしまったらしい。劇場にも足を運ぶようにしている。今日は舞台を見に行く。

僕の奥さんを連れて。
僕らが作った作品が再び舞台化するらしい。

演出家

ねぇあなた。
もしわたしが体調を崩していなければ、
どんな話になったかしら。

ぼく

そんなの仏か神しか
分からないんじゃないかな。

演出家

2chのみんなに聞いてみたけど
分からないだって。

ぼく

うーん。

この人とやっていけるか不安になってきたぞ

演出家

光あれ。

こんな書くにも値しないような会話が続く。
でも、彼女の言ったことは、
実は僕もよく考えることだったりする。

あの地獄のような変更を行ったメンバーに、
今度は彼女を交えて一つの作品をしあげてみたい。
これが今の僕の夢だったりするのだ。

光あれ、と祈りながら僕は仕事をする。
そしていつか。

いつか叶う日は来るのだろうか?

機械仕掛けの神は答えない。
なので僕も2chにいる神に聞いてみるとしよう。

それでこのお話はおしまい。
最後までおつきあいくださりありがとうございました。

敬具

神のみぞ知る世界(それから)

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