おじさんとケータイ電話

第四話






倒れてしまった天使ちゃんと悪魔ちゃん。

二人が復帰するには数分ばかりを要した。

新築の建て売りを購入して早数年。

我が家へ始めてお迎えする相手が
まさか見ず知らずの幼女になるとは思わなかった。

私には友達が居ないのだよ。

しかも、天使と悪魔のコンビである。

羽が生えていたり、尻尾が生えていたり。

近所のご家庭から拉致した幼子に
コスプレでもさせたよう。

更に二人とも意外と露出の多い姿恰好である。

あぁ、けしからん。けしからんぞ。

殺す、このニンゲン、絶対に殺すっ!

ま、まあまあ、そもそもの原因は私たちが家主さんの留守中に窓ガラスを割って、部屋にまで入ってしまった点にある訳ですから。流石にこれを棚に上げて一方的に非難するのは良くないと思いますよぉ

ぐっ……


ちなみに今現在
我々が居するのは先程に同じくビングだ。

窓が割れたままのリビングだ。

風通しが良い。春風そよそよ。

そこでヒートアップする悪魔ちゃんを
天使ちゃんが諫めている。

ソファーに腰掛けてお話の時間である。

いやまあ、こちらとしても悪かったとは思っているが……


視線はあっちへ行ったりこっちへ行ったり。

先程からチラリチラリと
幼子たちの普通でないところに向かう。

尻尾と羽と、頭の上の蛍光灯もどきだ。

羽は両名共に身動きを取るに応じて、
パタパタと反応を見せる。


怒れる悪魔ちゃんの尻尾などは
捕えられた蛇のようにうねり狂っている。

天使ちゃんの輪っかに至っては支えの針金が
ちぃとも確認できない。

ご迷惑をお掛けしてすみません。まさか悪魔の方が一緒とは思わなくて

はっ! 窓ガラスを割ったのはテメェだろ? 私は関係無いねっ!

ですがっ、そ、それは貴方が急に襲ってきたからで……


なにやら言い合っておるぞ。

どうやら知り合いであったらしい。

喧嘩をするのも結構だが、せめて私に分かるようにして貰えないかね? どうやら、悩みを相談する先を間違えてしまったようだ。君たちは何者なのだ?

え、えっとぉ~


困惑の表情を浮かべる天使ちゃん。

これに先んじるよう悪魔ちゃんが語り始めた。

見て分からないのかよ? これだから老眼は困るなっ

なん、だと……


ピンポイント。

最近、気になり始めたところをで突かれた。

心にダメージ大だ。

あ、あのっ! 私たちは、人間界での勢力拡大に努めておりましてっ……

……勢力拡大?

はいっ! 近年、文化文明の近代化に伴い、対象が悪魔であろうと神であろうと、人類の信仰が失われつつあります。これを旧来の水準まで復帰させるのが、我々、末端の天使や悪魔の努めなのですっ!

おいこらっ! 私を貴様と一緒にするなっ! 末端じゃないっ!

生まれはどうだか知りませんが、今は似たようなものじゃないですか

ぐぬぬぬっ……


なるほど、なるほど。

恐らくはそういった類いの設定なのだろう。


とは、ここまで訴えられると、流石に続かない。

人類の英知を超越した何かが、

雲の向こう側か、

地面の下か、

いずことも知れないが、

どこか人知れぬ場所に巣くっているのだろう。


なによりも顕著なのは悪魔ちゃんの尻尾である。

まさかこれほど元気良く動く尾のコントロールを
幼女が尻穴一つに行えるとは思えない。

故に悪魔ちゃんと天使ちゃんは
人類が知見の及ぶところにない存在であると把握。

彼女たちこそ、
人類の知見が及ばぬアウトレンジ・オブ・ロリータ。

マーベラス。実に素晴らしい。

ちなみに旧来の水準というのは、どの程度を指すのだね?

上からはニンゲンの方が使われる西暦に換算して、千五百年前後程度には、と

……なるほど。そちらは?

お、同じようなもんだよっ!

…………


可哀相に。
双方共に上司から無茶振りされたようだ。

彼女たちがその願いを達する未来は、
永劫に訪れないだろう。

今の人類はかなり素直じゃないからな。

進捗はどの程度なのだね?

そ、それが、その……

いねぇよっ! ぜんぜんだよっ! イタ電ばっかり掛かって来やがるっ!

他に仲間も大勢いるのですが、誰も芳しくない様子なのです

ちょっと前までは何かありゃすぐに縋り付いてきた癖によぉ?

たしかに、そうでしたねぇー


愚痴混じりの悪魔ちゃん
これに納得を示す天使ちゃん。

この子たち、以外と仲が良いのだろうか。
属性的に水と油な気がするのだがね。

一連の語りを耳としている限り、
それなりに交流もあるように思える。

まあ、いずれにせよ私から返すところは決まった。

であれば、私が君たちの記念すべき一号となってあげても良いがね

ほんとうかっ!?

いいのですかっ!?


幼女たちの顔に笑みが浮かぶ。

私はこれを永遠に私のモノとしたい。

だがしかし、流石に無償でという訳にはいかないな。こちらも自分の生活がある。これを少なからず削っての奉公としては、相応のご恩というヤツを頂かなければ、この身が立ちゆかぬ故に


プランA、発動。

なんだよ? また悪魔を謀ろうってのか?

あの、わ、私でよろしければ、お聞かせ願えませんでしょうか?

おいこらっ! 抜け駆けするんじゃねぇよっ!

それは貴方が勝手に吠えているだけであって……

う、うるせぇよっ! いいからほらっ、言えよっ! くそっ!


上手い具合に競争原理が働いておる。

であれば、ここは素直にお伝えさせて頂こうかね。

私から君たちに願うことは一つ。共にこの家に住まい、身の回りの世話を焼いてはくれないかね? であれば、そうして生まれた時間を私は君たちの手伝いに使うことができる

お世話、ですか?

あぁ? どうして私がニンゲンなんかの世話をしなきゃならねぇんだよ

どうやら君たちは現代の人間社会に対する知見が著しく欠如していると思われる。同じ時間であっても、君たちが努力するのと、私が空いた時間に対応するのとでは、効率に大きな差違が見込まれるが、どうかね?

むむっ、たしかに仰ることは尤もですねっ……

わ、私を天使の野郎と一緒にするなよ!? 知っているさ、人間共のくだらない世の中なんて、わざわざ誰かの力を借りるまでもなく、ちゃんと理解しているさっ!

であれば、天使くん、貴方はこの提案を飲んでくれるかね?

……分かりました。誠心誠意、お世話を焼かせて頂きますっ!

あっ、お、おいっ! だから抜け駆けするなって言ってんじゃんかよっ!

うむ。共に一つの目標へ向かい、切磋琢磨して行こうではないか

はいっ!


きた。

天使ちゃんゲットである。

ぁあああっ、もうっ! わ、分かったよっ! 私もしてやるよっ!

本当かね? 私としては天使くんが一緒であれば……

うるせぇよっ! 私の方がコイツよりよっぽど使えるわっ!

であれば、その腕前、見せて貰えるのだろうかね?

だから、してやるって言ってるだろっ!? 勝手にしろよっ!

うむ。では悪魔くん。君もまた今日からよろしく頼もうか

……ふんっ!


プランA、導入成功。

今日この日こそ、
自身が独身であった事実を喜んだ瞬間はないな。

不動産会社の営業に見栄を張って
子供が四人居ると虚偽申告した結果、
いつの間にやら買わされていた無駄に広いこの一軒家。

思えば、二階から上にはここ数ヶ月、
一度として足を運んでいない。

それもこれも、あぁ、
この二人をお迎えする為の運命であったのだ。

ビバ運命。

では、さっそくだか君たちの部屋を用意しようかね

よ、よろしいのですか? 奥さんが一緒なのでは……

あぁ、妻なら別れたよ。ついさっきほどな

えっ!?

マジかよっ!?

うむうむ。これは忙しくなりそうじゃないか


私のラッキーすけべ生活は、
まだ始まったばっかりである。

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