半年が過ぎた。ようやく二人にもダイエットの効果が表れ、お腹が少しほっそりとしてきた。俺の時より進行が早いのはダイエットをメインに据えているからだろう。だからと言って、筋肉の鍛錬も怠ってはいない。ここのところ、明らかに二人のパワーが上がってきている。

 先日、村の力自慢を相撲で倒したとトムが嬉しそうに報告してきた。

 そのせいだろうか。最近は俺が何も言わないでも、淡々とトレーニングをこなすようになってきた。トレーニングにハマったんだろう。喜ばしいことだ。

 そしてベティが細くなってきて、なんだか色っぽくなってきた気がする……



これより
オーク村第38947回定例会議を開催する

今日の議題

トムに相撲で負けた

マジで!?

嘘だろ
お前に勝てそうなのって
ビリーさんくらいじゃん

最近あいつ小さくなったよな

うん
なんか縮んできたね
特にお腹のあたりとか

それをからかったんだよ
そしたら怒ってさ
喧嘩するのもなんだし
相撲でかかってこいって言ったんだよ

無茶なことをいうなー

この村で相撲で
お前に勝てるのなんかいねーじゃん

それで引くと思ったんだ
けどやることになってさ

それで負けたの?

負けた
普通に正面からぶつかって力負けした
わけがわからなかった

それって強くなってるってことか

そうなんじゃないか

トムは最近会議に来ないね

役員以外は自由参加だからね

お酒がタダで飲めるのに

お酒はダイエットの邪魔になるから飲まないって言ってた

ダイエット?

そういう訓練法らしい

ダイエットか……
おれもそれをすれば強くなれるかな?

でもお酒も砂糖大根も禁止なんだよ
そんなの耐えられる?

無理だな

無理だろ

無理無理

砂糖大根うめえ

おい、まだ食うなよ
他に議題はないか?

ありません

ありません

では会議を終了して宴会を始めるとする

ヒャッハー
酒だあああああああ

さらに半年が過ぎた。トレーニングは順調に進んでいる。二人の贅肉はかなり削げ落ち、その下の筋肉が薄っすらと見え始めていた。

そして俺達三人はコボルトとの戦場へと向かっている。戦に出るのは男性だけなのでベティは来る必要はないのだが、どうしてもとついて来たのだ。

ダイエットの力、見せてやりますよ!

お、おう

 ダイエットの指導をしただけで戦い方などもちろん教えてないのだが、トムはやる気まんまんだ。いくら力が強くなっても矢の一発も食らえばおしまいだと思うんだが。
 俺は去年の反省を踏まえて、防具もきっちりと作ってきた。皮の防具に木の板を貼り付けて強化した、歩く度にがちゃがちゃとうるさいものだが、矢くらいは防いでくれるはずだ。頭には村の鍛冶屋に頼んで鉄のヘルムを作ってもらった。
 武器は相変わらず丸太である。他にしっくり来るようなものがなかったのだ。どれもこれも軽すぎた。
 二人は巨大な棍棒を丸太から削りだして装備してた。俺の丸太の半分くらいのサイズだが、それでも身長近くの長さがある立派なものだ。

戦場につくとオークの陣地が騒然としていた。

あっ、ビリーさん!

騒がしいけど何かあった?
まだ戦いは始まってないよね?

それがあいつら
オーガを助っ人に連れてきやがったんだ

なんだってー!?

一〇人もいて、金属鎧の完全装備
反則だ!

 オーガというのはオークより遥かに大きな肉体と強靭な皮、そしてパワーを持った種族だ。それが一〇人でしかも完全装備。

助っ人は認められているが
いくらなんでもやりすぎだ

どうする?

時間がない
そろそろ日の出で
戦いが始まる……なんだ?

 わああああああああ。

奇襲だ!
あいつら日の出前に攻めてきやがった!
応戦、応戦しろーーーー!

 激しい戦闘音。そして上がる悲鳴。

二人はここで!

俺たちも行きます!

 議論してる暇はないか。

好きにしろ

 戦場にたどり着くと、そこには数体のオーガと、倒れたオーク。
倒れたオークに見覚えが……親父!?
 だがそれを確認する間もなく、オーガが吠え声を上げて襲いかかってきた。
 頭に血が昇る。

貴様らあああああああああああああ!


 気が付くと親父の亡骸の前で座り込んでいた。
血まみれの丸太を捨て、親父を持って、かつての家、実家へと向かった。

 俺がすべてのオーガを倒したあと、オークの部隊は怒りに任せてコボルトの村へと攻め上り、制圧をしたようだ。

 そしてこれこそが、一代でオーク帝国を築き上げた帝王ビリーとその部下たちの、最初の戦いであった――







         第一部(完)

pagetop