とある世界、とある国。
 そこでは、ドラゴンと言う生物は希少な生物だった。

 その爪や鱗で作った装飾品は宝石にも匹敵する資産価値を生む。
 骨を粉末状にすれば万病薬にもなり、その心臓を食えば寿命が延長されると言う信仰まで存在した。

 ドラゴンが強く、気高く、何より希少であったがために、ドラゴンは人間達に狙われる事になった。

 ドラゴンがその気になれば、人間を返り討ちにする事など容易い。
 だが、ドラゴン達は戦おうとはしなかった。
 元々が、非好戦的で温和な気性をしていたからだ。

 それが人間達を調子付かせた。

 どこまで逃げても人間達は追ってくる。
 その執拗さと狩人の数の力を前に、ドラゴン達はどんどん数を減らされていく事になる。

 これ以上仲間を失うのは耐えられない。
 平和主義であるドラゴン達も、流石に我慢の限界だった。
 そしてドラゴン達は蜂起し、人間と、種族間での全面戦争に発展した。

 だが、ドラゴン達は思い知る。
 蜂起するのが、遅かった。
 人間を、野放しにし過ぎた。

『ドラゴンスレイヤー』。

 それは、ドラゴンの心臓を己に移植し、それに見合う様に肉体を機械やドラゴンの素材を用いた装備で改造した、狂気の狩人達。
 そのドラゴンスレイヤーの兵団によって、ドラゴン達は敗戦を喫する事になる。

 この敗戦から、ドラゴンと言う種族の歴史は暗黒の時代へと突入する事になる。

タツオ

戦争を起こした事で、ドラゴンは完全に人間の敵とされ、人間はドラゴンを滅ぼすための法律まで制定しました

茶助

っ……

委員長

私達『魔女』も、同じく人間から迫害を受ける身。他人事じゃなかった

タツオ

だから、ドラゴンと魔女は手を組んで、
共に異世界へと疎開したんです


 魔女の魔法で異世界へと逃れ、ドラゴンの能力を活かして新天地にて生活基盤を築く。
 そういう共存契約の元、ドラゴンと魔女は手を組んだらしい。

委員長

もっとも、この世界じゃドラゴンは大して役に立たなかったけどね。
今の生活に必要なモノは、大体私が魔法で調達したもの

タツオ

へ、平和で良いじゃないですか……

委員長

結局、私が一方的にこのドラゴンを助けてるだけ、って訳

タツオ

……はい、僕はヒモです……


タツオが泣きそうである。

……にしても、中々エグい話だ。

茶助

……異世界の話とは言え、
何か同じ人間として申し訳ないな……

タツオ

茶助くんが罪の意識を覚える事ではありませんよ

委員長

にしても、結構あっさりと信じてくれるのね。もう少し懐疑的になっても良い話だと思うのだけど

茶助

辞書に『想像上』の生物と書かれていたドラゴンが、現に目の前にいる。
さっきのピッキングに付いても、通常の手段であそこまで迅速に開錠できるとは思えない

委員長

目の当たりにした以上、疑う余地は無いと?

茶助

そうだ


 今の話の通りなら、タツオ達がわざわざ異世界からここへやって来た理由ももっともだと納得できる。
 疑う要素が無い。

委員長

突拍子が無いとは、思わないの?

茶助

人生は何事も突然だ


 むしろ前フリがある事の方が少ないはずだ。
 突然爺ちゃんの稼業のライバルに拉致監禁されたり、受験の時にヤマが外れる事だってある。

 今までひとりっ子だと思っていたのに実は腹違いの妹がいて、しかもそいつが自分を殺しに来るなんて事すら起きる世の中だ。

 ……あの時はマジでビビった。

 だが、それでもだ。
 驚愕し、動揺はしても、現実は受け入れるしかない。否定した所で起きてしまった事象は無かった事にはならない。

 更に今回の件については、納得の行く説明もされた。
「突拍子がない」なんて理由でそれを否定する道理は無い。

 何事も冷静に受け入れ、早急に対処を検討し、実行する。
 それが人生を上手く生きるコツだと思う。

茶助

で、共犯にすると言っていたが……
俺はどうすれば良い?
お前達の事を黙っていれば良いのか?

委員長

それと、学校や公共の場ではこれからも普通に接して欲しい。
ドラゴンや魔女のワードはNG

タツオ

この世界でも異端は排除される傾向にある様なので……ドラゴンや魔女である事がバレると、面倒な事になってしまいます

茶助

……異端は排除される傾向……か


 確かに、その通りだな。
 その事については、俺もよく知っている。
 だからこそ、世間一般で言われる『普通』であるべく努力しているのだ。

茶助

わかった。お前達の特異な点については今後一切触れないし、当然公言もしない

委員長

信用できない


 マジかよ委員長。

委員長

あなたは何かがおかしい。
普通、こんな話を突然聞かされて、
そんな整然としていられるはずがない

茶助

……この対応はおかしいのか……
では、疑う。今の話は本当か?

委員長

本当よ

茶助

そうか。
疑って悪かった

委員長

……馬鹿にしてるのかしら?


 何の話だ。

茶助

信じても不服、疑っても不服……
俺は一体どうすれば良いんだ?

タツオ

そうですよ、雨市さん。
そんな対応をしては、茶助くんが困ってしまいます

委員長

腑に落ちない、あっさりし過ぎてる。
もっと動揺するモノでしょう、普通

茶助

すまない、こういう性分なんだ


 それと表に出すのを堪えていただけで、タツオに関しては充分に激しく動揺させてもらった。

委員長

それに……お約束の展開と言うものもあるでしょう?
ここは『秘密をバラさない代わりにグへへへ……』と私や超絶の肉体を要求しエロ同人的展開に持っていくモノじゃない?

茶助

…………?


 何だ……?
 委員長が何を言っているのか全く理解できない。
 お約束だ展開だと言っているが……何か異世界特有の様式美的な文化についての話か……?

委員長

ドラゴンを掘る機会なんてそうそう無いわよ。
男を見せなさい忍ヶ白茶助。
カメラの準備はできている

タツオ

ごめんね茶助くん、
雨市さん、最近ちょっと変な趣向に目覚めちゃって……スルーしてあげて

茶助

スルーしていいのか?
よくわからない話題だから詳しく話を聞くべきかと思ったのだが……

タツオ

確実に後悔すると思うからやめとこう

委員長

超絶、ヒモなんだから私の好奇心のためにその身を捧ぐべきだと思う

タツオ

そんな事を要求されるくらいなら、
僕は元の世界に送還される覚悟もある


元の世界って、ドラゴンが迫害されてる世界だろう。
何かよくわからんが、凄まじい覚悟だな……

茶助

委員長、話の内容はよくわからんが、
そこまでの覚悟を決めてでも拒否する様な事を強制するのはどうかと思うぞ

委員長

……ちっ、意気地なしめ。
がっかりよ、忍ヶ白くん


 何故俺は罵倒され呆れられているんだ。
 納得がいかない。

茶助

……まぁ良いか。
美人に罵倒されるのは嫌いな方では無いし

委員長

とにかく、私は口約束では信用できない。
私達に何かしらの見返りを要求しなさい

茶助

……成程、口約束ではなく、
『取引』にしたいのか

委員長

話が早いわね。その通りよ。
そうして、私達と共犯関係になってもらうわ


 異世界では違法とされる「ドラゴンを助ける行為」を働く魔女、その存在を知りながら、自らの利益のために秘匿する。
 確かに共犯だと言える。

茶助

良いだろう


 だが、犯罪と言っても異世界の法であり、それも理不尽なモノだ。
 この案件に関して共犯になる事に、迷う要素は無い。

委員長

で、あなたはどんな見返りを望むの?
私の魔法の力で何かしら望みを叶える?
それともやっぱりここは超絶の体?

タツオ

しつこいですよ、雨市さん

委員長

この好奇心は止まらない

茶助

何の話をしているか知らんが……


 見返り、か。
 ふむ……そんな事を言われても、特に今、どうしても欲しいモノは無い。
 しかし率直にそれを伝えても委員長は納得してくれなさそうだ。

どうしたものか……

茶助

……そうだな……
なら、今日の昼食の代金を負担してくれ


 それくらいが妥当かつ無難だと思う。

委員長

そんなモノならお安い御用ね。
超絶、財布を出しなさい

タツオ

え、僕?

委員長

あなたのそのお金は、
誰が捻出したモノかしら?

タツオ

うぅ……ヒモの辛い所だね……

茶助

……何かすまない


……可哀想だから、昼食は安めの奴を選ぶとしよう。

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