不思議な森。
周りには、ぴかぴか光る小さな星のような珠がふわふわと浮いている。
空は木々が邪魔をして見えないけど、このホタルのような珠が明るく照らしているから、視界は良好。
その中、あたしもふわふわと浮きながらさ迷っていた。
……あれ? あたしも、この珠と同じ存在かな?
と言うことは、他の珠もあたしと同じように何か考えているのかな?

<おーい! 誰か返事してー!>

……。
…………。
………………。

三十秒ほど待ったけど、誰も返事してくれなかった。
もしかして、あたしハブされてる? くすん。
イジメダメ! ゼッタイ!

まあいいや、みなが無視するならあたしも無視し返してやるさ!
あたしは切り替えが早い女として有名なのだ。
しかしこのふわふわ感、たまりません。
癖になりそう。
水の上を浮き輪に座ってどんぶらこっこと進んでいる感じがして、ものすごく楽ちん。
だって自分で歩かなくても勝手に動いてくれているしね。

……あれ?

じゃあ自分では動けない?!
何と言う落とし穴!!
浮いてるから落ちないけど。

ま、いっか。
あたしは切り替えの早い(以下略。
そのままあたしは、流れに身を任せて、ゆったりと暮らしましたとさ。
おしまい!


……と言う事にはならなかった模様。
どのくらい月日が流れたのかは分からないけど、とある日、あたしは一人の少年と出会った。
銀髪赤目の十歳ちょっとくらいの少年に。

おやまあ、中々の美形じゃないですか。将来がとても楽しみです。おねーさん眼福です。
おっと涎が……でませんよ?
あたし珠ですから、口なんかありませんので、残念!

……ちょっと古かったね、反省。

キミは誰?


そう少年に尋ねられたけど、そういえば……あたしは誰だ?
確か昔は何となく人だった気がするけど。

<あたし? あたしは……んーっと、誰だっけ?>

僕が尋ねているんだけど。それって、僕がツッコミ入れなくちゃダメかな?


<ツッコミ担当は必須だよ! ……ってあれ? あたしの声聞こえている?>

もちろん


<おおー! やっと話の通じる人が来たよ! 一人でボケてても楽しくなかったし、これでようやくコンビを組めるね!>

組まないよ


<なんとっ?! そんな酷い……。所詮あたしはポイっと捨てられる運命の女なのね。しくしく>

女? 珠に性別ってあったんだね


<何となくあたしが、女と思っているだけなのさ>

そ、そうなんだ。まあいいけど、それよりキミはどこから来たんだい?


<さあ……気がついたらここにいて、ふわふわ浮いてたの。暇だったから、流されっぱなしの人生を歩んでいたんだよ。でもそろそろ地に着いた生活をしたい年頃ですっ!>

足、無いじゃないか……


<おっとこれは一本取られましたな、あはははははは>

この少年と会話をしているけど、その間にもふわふわ流されていたりする。
でも少年もあたしが移動するのに合わせて動いてくれている。
なんて優しい子!

ひょっとしてキミ、アホな子?


もとい、全然優しくなかったよ!
でもメゲない、あたしは寛大なのさ。

<ぱんぱかぱーん! そのセリフ言われたの、あなたでちょうど五百人目ですっ!>

……記憶があるのか、ないのか、さっぱり分からない子だね


<何となくそれくらいの人たちに、言われた気がするのよ>

ある意味幸せな人生を歩んでいるね


<褒められました、てれてれ>

少年は人差し指を額に当てて、何やら眉をしかめている。
いけませんな、そんな年齢から悩んでちゃダメでしょ。
もっと人生を謳歌しましょう!

まあいいか。ところで、キミの名は?


<適当に付けてください>

適当でいいの? じゃあゴンザレスで


<略してゴンさん。何だか狐っぽいかも>

それでいいのっ?!


少年よ、あなたが決めたんじゃないか。
何を今更驚くことがあるというのだ。

ふぅ、真面目に決めよう。キミに付き合ってたらいくら時間が合っても足りなくなりそうだ


<あたしは楽しいから大歓迎!>

さて、そうだね。珠だし、どうしようかな、珠、宝、豊穣……


お願いスルーしないで、それが一番堪えるよ!
しかしあたしの願いもむなしく、少年は思案顔で悩んでいらっしゃる。
別にあたしはゴンさんでもいいのに。

よし決めた。ファルティラでどう?


体感五分程考え込んでいた少年が、ようやく顔を上げて聞いてきた。
ファルティラって、凄く良い名じゃないですか。
何だかあたしにはもったい無い。
けど、少年が五分もかけて決めてくれたのだ。あたしの為に。
ここは一肌脱いであげようじゃないか。
あたしは寛大なのだよ。

<うん、とても良い名前だね!>

あたしがそう答えると、少年がにこりと笑い、威厳に満ちた声で厳かに言う。

キミの名は、ファルティラ。それに決定した

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