佐藤真夏(さとうまさか)、24歳。警視庁勤務の警察官である。所属は刑事課。

刑事といえば、

止まれ!
止まらないと撃つぞ!!

お前は完全に包囲されている!
人質を解放しろ!!


のようなシチュエーションを想像する人も多いだろう。

しかし、それは刑事ドラマか漫画か小説のお話。

ここで、刑事・佐藤真夏巡査の一日をお送りしよう。

佐藤真夏

さっ、今日もはりきって署内の掃除だ!


背広を脱いで、いそいそとロッカーからホウキを取りだす真夏巡査長。これが、彼の一日の始まりである。

時刻、朝の7時15分。始業は8時45分なのでまだ上司の姿はない。真夏が一番のりで掃除をしている間に、先輩警察官がちらほら出勤してくる。

佐藤真夏

もうこんな時間か。矢代係長が来るまでに
掃除を終わらせておかないとな……


矢代(警部補)は真夏の上司である。

8時10分、デスクに矢代が姿を現す。
真夏は背広を羽織りなおし、姿勢を正して挨拶をする。

佐藤真夏

おはようございます!

矢代係長

うむ


真夏の次の仕事は、

強盗犯の逮捕!
……ではなく。

窃盗犯とのカーチェイス!
……でも、ない。

佐藤真夏

警部補、コーヒーです

矢代係長

うむ。お前の淹れるコーヒーは
署で一番旨いな

佐藤真夏

コーヒーメーカー使ってるんだし
誰が淹れても同じだと思うけどな……


こうして佐藤真夏巡査の一日は始まる。

刑事に憧れて警察官を志すものは多い。そのため希望者が多く、優秀な警察官でなければなかなか刑事にはなれない。

……かというと、必ずしもそうではない。

佐藤真夏巡査の場合、ただ人手不足だったために刑事課に配属された。真夏は勤続二年目の、ただの新米警察官である。

佐藤真夏

難事件を追い掛けるより、掃除や
お茶汲みの方が気が楽でいいや……


などと考えている。

そして、下手をすれば署から出ることなく、
パトカーすら乗ることなく、
デスクワークで一日を終える。

もちろん、公務員なので定時に帰宅……

日野悠二

おーい真夏~
この書類やっといて~

佐藤真夏

あ、はい!
了解です


……などできない。
使えない先輩のフォローで帰りが遅くなることなど
ザラである。

日野悠二

使えないってなんだよ!?
イケメンな先輩だろォ!?

佐藤真夏

先輩誰に怒ってるんだろ……


警察官は真面目でお堅い人物である。
……というのは、間違いである。

佐藤真夏巡査より5つ年上の先輩、日野(巡査長)。
かなり適当で不真面目でチャラい。

日野悠二

サンキュー、真夏!
帰りにラーメン屋でも連れてってやるわ!

佐藤真夏

え、いいですよ、そんな。


と、遠慮していると見せかけて、

佐藤真夏

早く帰って寝たいし……


本音はこうである。

しかし、先輩の手前、そうは言えない。

日野悠二

俺の行きつけでさー
旨いラーメン屋があるんだよ!
ビールも安いんだぜ!

佐藤真夏

ビール苦手なんだけどな……


先輩の手前、こうも言えない。

佐藤真夏

……じゃあ、ありがたく頂きます

日野悠二

おいおい、誰がオゴりだっつったよ!

佐藤真夏

……。

とまあ、こんな感じに、普通のサラリーマンと
なんら変わりない刑事ライフを送る
佐藤真夏巡査(24)。
変わっているのは「まさか」という変な名前くらいだ。


しかし、この後ラーメン屋で待ちうけている出会いが、彼を数奇な運命へと巻きこんでいくのである……。

それでも僕はやってない 1 ~巡査・佐藤真夏の地味な一日~

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