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ルイーゼのケミカル・ラボラトリー分館
中等科卒業生募集 若干名 寮制三食付
アカデミア・テクニカ専門科推薦あり
学費全額補助
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ルイーゼのケミカル・ラボラトリー分館
中等科卒業生募集 若干名 寮制三食付
アカデミア・テクニカ専門科推薦あり
学費全額補助
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………………
夕食の買い物を済ませたエミーは、たまたま通りかかったラボラトリーの掲示板を見て、学生の募集を知った。
ラボラトリーかぁ。
ラボラトリーは王立アカデミーのひとつ、アカデミア・テクニカに附属する研究機関である。
アカデミーは大学のようなものだが、学問の入り口に簡単に触れることのできる教養科から専門的な研究を行う研究科まで幅広く学問を支えており、飛び級した10代の青年から60代の老人まで様々な人の学びの場となっている。
ラボの教授であるルイーゼは、100年に1人と評判の天才化学者であった。彼女によっていくつもの画期的な反応が発見され、世界を確実に良い方向へと導いていた。
その一方、彼女は人間ではなく、悪魔と契約した魔女ではないかという噂もあった。ルイーゼの作り出すものはどうも奇妙で、どういう原理で動いているのかよくわからないということが理由の一つである。
ルイーゼのラボ分館では、彼女の研究成果の一部が製品化されて、高品質な特効薬や奇妙な道具が一般向けに売り出されている。泥水を綺麗にしてくれるツボとか、飲むとたちまち腹痛が治る薬とか、一見怪しいものが雑然と並んでいる。
エミーは何となく気が向いて、奇妙な道具を面白半分に見にきたのであった。
これ、いいかも
とエミーは思った。
実のところ、実家から抜け出す口実がほしかったのである。
家族仲は悪くない、というよりむしろ良い方なので、家にいて居心地が悪いわけではない
しかし、商店の手伝いはエミーにとってつまらないことでしかなかった。何か新しいことがしたいと常々考えていたところだったのだ。
でも試験があるって書いてある。試験難しいのかな……
エミーはそこまで勉強に打ち込んだことはなかった。
休日は商店の手伝いをするので、勉強はとりあえず宿題だけ済ませる程度にしかしない。
「家業を継ぎたくないのなら、高等学校に進みなさい」と言われていたのだが、高等学校は入試も卒試も非常に難しいことで有名である。
全国統一卒試を通ると、入試を免除された上で成績順に13ある王立アカデミーの教養科を飛び越して専門科へと入学できる。しかも学費は免除である。
高等学校に進む人は早いうちから準備をするのが普通で、エミーはいまから頑張ったところで到底合格できそうになかったので諦めていた。
一方、ラボラトリーの試験科目は「中等理科と面接」と書いてある。勉強が苦手な中でも、理科の成績はまずますできる方だとエミーは思っていた。
とりあえず半ペラの募集要項だけ持ち帰ることにし、両親を説得しようと決心した。
なあに。急に改まって。
母はゆっくりとテーブルの椅子を引き、腰掛けた。
わたし、このラボラトリーに入りたい
両親に募集要項を見せた。
あら、あそこのラボラトリー?学生募集してたの。いいじゃない。ねえあなた
ほう……。ルイーゼ教授から直接教わるのか。魔女って噂だけど大丈夫か?
あら、あそこの品は一級品よ。見る人が見れば。
そうなのか。ラボラトリーを出た後はどうするんだ。教授になるのか?
そ、それは……
そう!調剤師になるの。ラボラトリーで勉強して調剤師になる
完全に口から出まかせである。エミーにとってはとりあえず何でもよかった。家業を継ぎさえしなければ。
なるほど、調剤師か…。それは父さんもやってみたかったな。
よし、とりあえず受けてこい。ただし落ちたらうちの商店を継ぐこと。いいな
両親は実にあっさり説得に応じた。というより、
あの天才ルイーゼ教授が弟子を取るのは珍しいと聞くぞ。何百人と応募するんじゃないか。
そうねえ。エミー、あなた受かる見込みはあるの?
うっ……
内心では受かるわけがないだろうと思っているようでもあった。とりあえず理科の復習をしようと決心したのであった。
入試当日
いよいよだ。緊張するなあ
王立アカデミーの教室に100名ほどの学生が集まった。
うへーこんなにいるの……。若干名って何人受かるんだろう。
エミーの心配をよそに、ついに答案用紙が配られる。
解答はじめ!
白衣をまとうリボンのほっそりした女性が試験開始の号令をかけた。
これは……うっ……む、難しい……
予想していたことではあったが、試験問題は高等学校の入試より難しいものだった。
こんな問題考えたことないよ……でも、とりあえず埋めよう
時間は刻々と過ぎていく。
解答おわり!
お、おわったー、ぎりぎり
何箇所か飛ばしてはいるが、一応最後までたどり着いた。
次は面接かー。緊張するなあ。
面接は3日間に分けられて実施されるが、エミーは初日だった。
エミーリエ・ヴァンダ・カルクさん
試験監督をしていた白衣の女性に呼ばれた。
は、はいぃ
声がうわずっている。エミーはすでに緊張しきっていた。
失礼します
エミーは小さな部屋に入った。中には2人の女性と1人の男性が待っていた。
ルイーゼです
真ん中の女性が自己紹介した。長い金髪に、とんがり帽子。
エミーは一見して
魔女だ
と素直な感想を持った。
え、エミーです。よろしくお願いします。
面接が始まった。
これにて終了です。ありがとうございました
ありがとうございました
15分にわたる面接が終了した。
うーん。これはダメかなあ……
木を描かされたけど、画力も必要だったのかなぁ。
エミーはあまり自信がないようだ。とぼとぼと帰路に着いた。
5日後、エミーの家に一通の封筒が届いた。
差出人はルイーゼ・ブリギッテ・ハインツ……
……あ、通知書だ
胸が高鳴る。封筒を開く手が震える。
どうしよう…きっと落ちてるよね
中から三つ折りの手紙が出てきた。おそるおそる手紙を開く。
『エミーリエさま。あなたは弊ラボラトリーの入試に合格されたので通知いたします』……。
え、合格?!あたしが?!
おとうさーん!おかあさーん!受かったよ!!
あら、本当に受かったの?
ええっ、本当に受かったのか。すごいな……。よく勉強したな。
うう、なんだか褒められてるのかどうかわかんない
まさかあんたがねえ……ううん。素直に喜びましょう。おめでとう
おめでとう。エミー。
ありがとう!お父さん、お母さん!頑張って勉強するから!
3月末、通知書に書かれた通り荷物を持ってラボラトリーの分館へ向かった。
こんにちはー。新しく入ったエミーですー
おお、エミーリエくんか。さあ座ってくれ
どうやら一番乗りらしい。ラボにはルイーゼ教授とお手伝いさんの男性と女性が一人ずついた。
あ、面接の時の
覚えてましたか。カスパルです。実験助手をやっています。
リタです。研究員です。時々講義も受け持ちます。
エミーリエです。よろしくおねがいします。
私がルイーゼだ。このラボの教授をやっている。
堂々とした風格。長い金髪に魔法使いのような帽子をかぶっている。室内でも脱がないらしい。
えーっと、受かったのってもしかして私一人だけですか?
いや、あとひとり来るはずなんだが……。お、来たようだ
カランコロンとラボのドアベルが鳴った。
遅くなりました。もう始まってますか?早く来たつもりだったんだけど
歳上に見える長身の男子が入ってきた。なぜ偉そうに感じるのだろう。
いや。まだ定刻ではない。とりあえず座ってくれ
はい、ありがとうございます。ブルーノといいます。
カスパルです
リタです。
ルイーゼだ。
え、エミーリエです。
こんにちは、エミー
いきなり呼び捨てである。しかも略称で。
ブルーノ…さん?
ブルーノでいいよ
いきなり呼び捨てでいいらしい。なんだこいつは。
さて、二人にはとりあえず今日からこのラボラトリーに住んでもらう。
ええっ、この人と同居ですか
いやいや、男女別棟だからそんなに驚かなくていい。
エミーさんは私の部屋に住んでくださいね
あ、そうでしたか。よろしくお願いします。
ところでルイーゼ先生。
ん。なんだ。
入試成績って私が2位だったんですか?
ああ、それはな。まあブルーノは入試トップだった。
隣のブルーノが誇らしそうである。
やっぱり。
でも残念ながら、エミーは理科の試験で最下位だ。
ええー!さ、最下位?!な、なんで採用したんですか?!
そりゃあ、まあなんていうか、育てがいがあるじゃないか
ううー、なんかへこむなあー
単なる最下位じゃない。それは試験が最下位だっただけで、面接ではかなり高評価だったんだ
ルイーゼ先生。俺は入試最下位と一緒に勉強するんですか?
ああ。不服か?
いえ。不服ではないですが……進度はどちらに合わせるのですか
授業はエミーに合わせることにする。復習を兼ねて聞いてくれ。
……はい。
な。なんか私、ご迷惑なのでは……
いやいや、エミーのような人材は貴重だ。ブルーノと仲良くやってくれ。
よろしく
不服そうに握手を求められた。エミーは少しためらったが
……よろしくおねがいします。
弱々しく握手をした。強く握られて手が痛い。
さて、今日はリタから役割分担について聞いてくれ。2人には料理やら掃除やら当番で手伝ってもらうからな
はい。
はい。
エミーのラボラトリー生活がついに始まった。入試最下位からエミーはどのような成長を遂げるのだろうか。
ところで、ブルーノさんっておいくつなんですか?
ん?今年15になるけど。
ええっ、同い年だったんですか……もうアカデミーを出たくらいの歳かと。
そんなに老けて見える?
ああっ、そんなつもりじゃ、ご、ごめんなさいー!