すっかり日が暮れて、冷たく澄んだ空気は肌に染み込むようだ。
どうにも最近、この帝国には霊が出没すると噂されているらしい。
深夜になると、城門と城とを結ぶ大通りから木組みの家が建ち並ぶ細道までを、硬い牛革のブーツが踵を鳴らす音が聞こえて来ると言うのだ。民家の明かりも消える時間帯、靴音に眠りから覚めた御老人が蝋燭を持って外を確認するが、何時もそこには誰も居ないのだという。
また別の何者かは、男か女かも分からない者が、闇夜にぼんやりと見えた等と話した。我々夜の見回りは例外なく松明を持って見回りをするから、火が消えて慌てる事があっても、浮かび上がるようにぼんやりと見える事はない。そこが不自然だと言うのだ。
何とも抽象的で根も葉もない噂ではあったが、どうにも周囲で話が尽きないということで、私も些か不安になり始めていた。
これが霊ならば良いのだが、例えば帝国侵略を狙う他国の者が門番の目を盗んで侵入しているとしたら。そう考えると、自分の身にも何か危険が及ぶかもしれない。知らず、身体は緊張してしまう。