ワトリーはジョセフ達と共に、
サリーの楽屋を訪れた。

彼女の表情には疲れと悲しみが見え、

先ほどの事件がどれだけ彼女に影響を
与えているかは一目瞭然だった。

それでも、ワトリーはどうしても話を聞く
必要があった。

エイミーの無実を証明するためには、

シオンのことを深く知ることが
重要だと感じていたのだ。

ワトリー

サリー、辛い時にごめんなのだ。でも、シオンのことについてどうしても聞きたいのだ

サリーは一瞬ためらったが、
やがて視線を下に落として小さな声で答えた。

サリー

わかったわ

ワトリー

シオンとはどういう関係だったのだ?

サリー

私とシオンは、デビューする前からの友人だったの。正直、私たちがアイドルになるなんて
夢にも思わなかったんだけど…

ワトリー

アレクにスカウトされたのか?

サリー

いえ、最初は違う事務所に所属していたの

サリー

でも、その事務所が破産して、
アレクさんがプロデュースする
オーディションに受かったのが
きっかけで、今ここにいるの

ワトリー

そうなのか…

ワトリー

シオンはどんな猫だったのだ?

サリー

シオンは本当に明るくて、性格もよかった。一緒にデビューしたけど、あっという間に私を追い抜いていったの。

サリー

それでも、シオンが輝いているのを見るのが嬉しかった。
彼女がトップに立つのを見て、
私ももっと頑張ろうって思えたんだ

ワトリーはサリーの机の上にクラッシックな
ミニカーが置いてあるのに気付いた

ワトリー

これはシオンの楽屋にもあったのだ

サリー

そう、シオンはクラッシックな車が好きで集めてたの。それを貰ったのよ

ワトリー

この業界に入る前、シオンはどんな猫だったのだ?

その瞬間、サリーの顔色が変わった。
彼女の表情が固くなり、

まるで何か言いたくないことを必死に
隠そうとしているようだった。

サリー

それは・・・

と声を絞り出したが、すぐに目を伏せて
口を閉ざしてしまった。

ワトリー

サリー、知っていることがあるなら教えてほしいのだ。

ワトリー

シオンはサリーにとって大切な友達なのだろう? ボクもエイミーは大切な友達なのだ。

ワトリーの訴えかけるような声に、サリーは
さらに目を伏せ、視線をそむけてしまった。

彼女は何かを言おうとしたが
結局言葉にすることができなかった。

ジョセフ

ワトリー、無理に聞かなくてもいい。あんなことが
あったばかりだ、少し時間を
置いたほうがいい

そうですよ。サリーも疲れているみたいだし、また後で来ればいいじゃないですか

ワトリーは一瞬ためらったが、二匹の言葉に従って
深く息を吐き、仕方なく楽屋を出た。

エイミーの無実を信じていたが
シオンの死にはまだ何か大きな謎が
隠されていると感じていた。

そして、サリーがその答えを
知っているのかもしれないという疑念が
胸の中で膨らんでいった

ワトリー

次はメイクさんのところに行くのだ…

会場はまだ片付けの最中で
騒がしい作業音が響いていた。

ワトリーはざわつくステージ裏を歩き回り
先ほど話を聞いたメイクさん
イザベラを探した。

彼女は道具を整理している最中だったが
ワトリーが近づくと気づいて振り返った。

ワトリー

イザベラ、シオンのことでまた聞きたいのだ

イザベラ

ええ、かまいませんよ。何か思い出せることがあれば…

ワトリー

シオンはどういう猫だったのだ?

イザベラ

そうね…明るくて、とてもいい子だったわ。トップアイドルになると、横柄になる子も多いけど、シオンは違ったの

イザベラ

いつも周りを気にかけて、優しい子だった。でも最近は忙しくてとても疲れている感じだったわ

ワトリー

デビュー前のことを知っているのだ?

イザベラ

前の事務所が破産したっていう話は聞いたわ。でも、その前のことは…

イザベラも、サリーと同じように言葉を
途切れさせた。

ワトリーは不審に思い、
さらに追及した。

ワトリー

デビュー前に何かあったのだ?

イザベラは辺りを見回し、
誰にも聞かれていないことを確認すると
声を低くして言った。

イザベラ

噂ではね…シオンは高級なお店でバイトをしていたみたい。

ワトリー

高級なお店?

イザベラ

う、うん。あんまり詳しくは言えないけど、金持ち相手の接待のバイトらしいわ…

ワトリー

それが何か良くないことなのか?

イザベラ

えっと・・・
なんて言えばいいのかな

ジョセフ

つまり、金持ち相手に体を売っていたということだろう

イザベラ

ちょっと!そんなこと私が言ったなんて絶対に言わないでよ!

わ、わかったのだ。誰にも言わないのだ

イザベラはワトリーの言葉を信用したのか
それ以上何も言わずにその場を去った。

ワトリーは軽くため息をつき
次にルーカスを見つけて声をかけた。

ルーカスは資材を運んでおり
忙しそうに動いていた。

ワトリー

ルーカス、シオンのデビュー前のことについて知りたいのだ

しかし、ルーカスはちらっとワトリーを
見ただけで、忙しげに肩をすくめた。

ルーカス

デビュー前?さあ、ぼくここに来たばかりだし、シオンさんのことは全くわかりません

後ろの方で作業していたスタッフが呼びかける

誰かカメラに詳しいやついるか?

ルーカス

あ、ボクできます

ルーカス

まだ仕事あるんで失礼します

そう言うと、ルーカスはカメラを
直しに行ってしまった。

ルーカス

これ、ケーブルのHD-SDIが接触不良ですね・・・

ワトリー

・・・

ワトリーは手がかりを探し求めて、

少し苛立ちを感じ始めていた。

シオンの過去には何か重大な秘密が
隠されている。しかし、それを明らかにするには
まだ時間がかかりそうだった。

つづく

7話 サリーの沈黙

facebook twitter
pagetop