ルーガルが差し出した手にコペが飛びついた。握られた手が高速で上下する。
いかにも、それは私のあだ名だな。
やっぱり・・・! 握手してください!
構わないが。
ルーガルが差し出した手にコペが飛びついた。握られた手が高速で上下する。
ルーガルを知ってるの?
魔法オタクの間では有名だよ。こんなところで会えるなんて!
へえ、ルーガル、有名人なんだ。
うん、火力最強のケルベロス、って!
今確か人間の話してたよな?
どういう噂だろう・・・
ルーガルのご両親は知ってる? キキ博士とワルフ博士、数年に一度気まぐれに学会に顔を出して、業界を揺るがす発表をして去っていく〈騒がせ夫婦〉!
そんな二人の書庫には、世に出してない研究成果が山ほどある――って、言われてるんだけど。(私はお二人とも握手がしたいです)
心の声が聞こえた気がする。
書庫に忍び込もうとする泥棒を毎度見事に追い払うのが、攻撃魔法の使い手、一人娘のルーガル! ってわけ。
そういえば、村に客がある日には必ず書庫近くに配置されたな。山のように本を与えられたので退屈はしなかったが。
配置ってそんなモノみたいに。
読書の邪魔をする不届き物を追い返したのは一度や二度ではないが、そんな意図があったとは。
親に利用されてんじゃねえか。
あるときなんか泥棒を《殴って》火傷させたって! そこからついたあだ名が、〈火の玉のルーガル〉。
殴って火傷? どんな理屈だよ。
私を知っていることには驚いたが、やはり山脈を超えてきたうわさ、尾ひれがあるな。殴って火傷させたわけではない。
まあそうだよね。
ゼロ距離で火炎攻撃を食らわせただけだ。
うわさの方がマシじゃねーか。
ゼロ距離で火炎攻撃を食らわせちゃだめだよ、ルーガル。
ほんとに破天荒なんだ・・・! サインください!
構わないが。
わあ~! 直筆サイン色紙だ~!!
お礼お礼っ。何にもないけど、食べる物なら何でもあるよ! みんな、もうお昼は済ませちゃった?
僕はさっきごちそうになったけど、二人は山を下りながら軽食を食べただけだ。ルーガルがテーブルクロスごしに机をなでる。
何でもあるとはこの〈仁者のもてなし〉のことか。食べ物が次々に出てくると聞いた。
しかも精霊に対価として与える魔力は、魔結晶を形作っている魔力から支払われるの。呪文を唱えるだけでいいんだ。だからベシワクも使えるよ。
あれ、僕に魔力がないって言ったっけ?
目を見ればわかるよ。魔力がある人とない人じゃ、虹彩の光り方が違うんだ。
そうなんだ・・・
ベシワク、やってみる? 食べたいものを思い浮かべて、呪文を唱えてみて。
えっと確か・・・
テーブルクロスよ、食事の支度。
途端に、テーブルの上に魚が現れた。
うろこをきらめかせ、ぴちぴちと元気に跳ねる。
生で食うのかよ。
白身魚って念じたらこんなことに。
任せたまえ。
攻撃魔法で魚を焼くな。
すごい! 契約魔法師!?
ありがとう、ルーガル。
うん。私にも一つ、同じものを。
ルーガルがテーブルクロスに命じる。しかし。
呪文唱えなきゃダメだよ。
呪文を唱える習慣がないものだから。
契約魔法師っぽい口癖だ~!
テーブルクロスよ、食事の支度。
こりゃ便利だな。
でしょでしょ。夕飯も食べてってよ! なんなら泊まってってよ! そんでグージィをひと晩私に貸してよ!
分解する気だろ。ダメだ。
ごっ、ごシュジン~~~!
グージィがコペの腕から脱出してヤムカに飛びついた。気のせいだろうか、涙が見える。
結局その夜は、コペの家に泊まることになった。
リリーシカが現れるまでずっといることはできないけど・・・この町にいる間だけでも、そばで守れないかな。
僕のそんな提案に、二人がうなずいてくれたのだった。