ルーガル

いかにも、それは私のあだ名だな。

コペ

やっぱり・・・! 握手してください!

ルーガル

構わないが。

ルーガルが差し出した手にコペが飛びついた。握られた手が高速で上下する。

ベシワク

ルーガルを知ってるの?

コペ

魔法オタクの間では有名だよ。こんなところで会えるなんて!

ベシワク

へえ、ルーガル、有名人なんだ。

コペ

うん、火力最強のケルベロス、って!

ヤムカ

今確か人間の話してたよな?

ベシワク

どういう噂だろう・・・

コペ

ルーガルのご両親は知ってる? キキ博士とワルフ博士、数年に一度気まぐれに学会に顔を出して、業界を揺るがす発表をして去っていく〈騒がせ夫婦〉!

コペ

そんな二人の書庫には、世に出してない研究成果が山ほどある――って、言われてるんだけど。(私はお二人とも握手がしたいです)

ベシワク

心の声が聞こえた気がする。

コペ

書庫に忍び込もうとする泥棒を毎度見事に追い払うのが、攻撃魔法の使い手、一人娘のルーガル! ってわけ。

ルーガル

そういえば、村に客がある日には必ず書庫近くに配置されたな。山のように本を与えられたので退屈はしなかったが。

ベシワク

配置ってそんなモノみたいに。

ルーガル

読書の邪魔をする不届き物を追い返したのは一度や二度ではないが、そんな意図があったとは。

ヤムカ

親に利用されてんじゃねえか。

コペ

あるときなんか泥棒を《殴って》火傷させたって! そこからついたあだ名が、〈火の玉のルーガル〉。

ヤムカ

殴って火傷? どんな理屈だよ。

ルーガル

私を知っていることには驚いたが、やはり山脈を超えてきたうわさ、尾ひれがあるな。殴って火傷させたわけではない。

ベシワク

まあそうだよね。

ルーガル

ゼロ距離で火炎攻撃を食らわせただけだ。

ヤムカ

うわさの方がマシじゃねーか。

ベシワク

ゼロ距離で火炎攻撃を食らわせちゃだめだよ、ルーガル。

コペ

ほんとに破天荒なんだ・・・! サインください!

ルーガル

構わないが。

コペ

わあ~! 直筆サイン色紙だ~!!

コペ

お礼お礼っ。何にもないけど、食べる物なら何でもあるよ! みんな、もうお昼は済ませちゃった?

僕はさっきごちそうになったけど、二人は山を下りながら軽食を食べただけだ。ルーガルがテーブルクロスごしに机をなでる。

ルーガル

何でもあるとはこの〈仁者のもてなし〉のことか。食べ物が次々に出てくると聞いた。

コペ

しかも精霊に対価として与える魔力は、魔結晶を形作っている魔力から支払われるの。呪文を唱えるだけでいいんだ。だからベシワクも使えるよ。

ベシワク

あれ、僕に魔力がないって言ったっけ?

コペ

目を見ればわかるよ。魔力がある人とない人じゃ、虹彩の光り方が違うんだ。

ベシワク

そうなんだ・・・

コペ

ベシワク、やってみる? 食べたいものを思い浮かべて、呪文を唱えてみて。

ベシワク

えっと確か・・・

ベシワク

テーブルクロスよ、食事の支度。

途端に、テーブルの上に魚が現れた。
うろこをきらめかせ、ぴちぴちと元気に跳ねる。

ヤムカ

生で食うのかよ。

ベシワク

白身魚って念じたらこんなことに。

ルーガル

任せたまえ。

ヤムカ

攻撃魔法で魚を焼くな。

コペ

すごい! 契約魔法師!?

ベシワク

ありがとう、ルーガル。

ルーガル

うん。私にも一つ、同じものを。

ルーガルがテーブルクロスに命じる。しかし。

コペ

呪文唱えなきゃダメだよ。

ルーガル

呪文を唱える習慣がないものだから。

コペ

契約魔法師っぽい口癖だ~!

ヤムカ

テーブルクロスよ、食事の支度。

ヤムカ

こりゃ便利だな。

コペ

でしょでしょ。夕飯も食べてってよ! なんなら泊まってってよ! そんでグージィをひと晩私に貸してよ!

ヤムカ

分解する気だろ。ダメだ。

グージィ

ごっ、ごシュジン~~~!

グージィがコペの腕から脱出してヤムカに飛びついた。気のせいだろうか、涙が見える。


結局その夜は、コペの家に泊まることになった。

ベシワク

リリーシカが現れるまでずっといることはできないけど・・・この町にいる間だけでも、そばで守れないかな。

僕のそんな提案に、二人がうなずいてくれたのだった。

仁者のもてなし⑤

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