僕とグージィがおしゃべりしていると、道の向こうから足音が聞こえてきた。
なぜワタシまで~!
多分、僕の話し相手に貸してくれたんじゃないかなあ。
カすとはナニゴトです、カすとは! ヒトのことをただのニンギョウみたいに! ぷんぷん!
えっ、ごめん! グージィってまさか人形じゃ・・・
ワタシはフルギとわらからナる、ニンギョウはニンギョウでもゲンシにしてシコウ、わらニンギョウなんですからねっ!
人形ではあるんだ。そして、わら人形の格って高いのか・・・
あと、ごシュジンがコドモのころにコめたちょっぴりのマリョクだけで、かれこれジュウネンカンもウゴいてます。
へえ、長持ちなんだ。すごいね。
おや? ダレかハシってきますよ!
僕とグージィがおしゃべりしていると、道の向こうから足音が聞こえてきた。
あいつら~! いつかバチが当たるんだから!
わ!
大丈夫!?
わ! わ!
道を走ってきた女の子が、石につまづいて転んでしまった。怪我はないようだけど、ブレスレットの糸が切たようだ。
わ・・・わわ・・・
拾うの手伝うよ。
あ、ありがとう・・・
あたしはコペ。あなたは旅人さん? ・・・それと、布のゴーレム?
僕はガトド島のベシワク。ジャハまで旅をしているところで――
あっ、痛てて。
しゃがんだ拍子に、足首が痛んだ。
幻覚魔法の時間切れが来たらしい。
どうしたの?
実は、足をくじいてて。この辺りで医者を探してるんだけど・・・
ほんと!? あたし医者だよ! 腕には自信あるから、うちにおいでよ!
やめときなよ!
そのとき、コペが来た方向から、若者がぞろぞろと現れた。
コペの方を見て、くすくす笑っている。
そうそう、そいつヘンな奴だもん。
誰だ?
いじめっ子。さっき、あいつらから逃げてたの。
そいつ、男なのにそんな格好してるんだ。そんな奴のところ、行かない方がいいよ!
・・・っ!
コペは顔を真っ赤にすると、さっと立ち上がり、走り出した。
あっ、待ってよ!
まだ、ブレスレットの飾りを返してない。
でもコペは、すぐに角を曲がって、見えなくなってしまった。
まったくあいつら、しついったら。おちおち買い物にも行けないじゃない。
あたしのこと知らない人だったら、友達になれるかと思ったんだけど。病院、来てほしかったなあ。
あ、いたいた。ここが君のうち? 薬の匂いがするね。
うっ、うわあ!?
追いかけていった先には、『ライオンハート・ホスピタル』とかかげられた古い建物があった。
戸口からのぞき込むと、コペは椅子からひっくり返った。
なんでいるの? 走って追いかけてきたの? 足、くじいてたんじゃ?
うん、僕じゃ追いつけなかったけど――
ワタシが! カゼのようににカけ! アナタのイエをツきトめたのです!
しゃべった! 結構かわいい声で!
えっへん!
ゴーレムが胸を張った・・・!
これ、渡してなかったからさ。
あ、あたしのブレスレット。ありがとう。
それに、医者だって言ってただろ? せっかくだから診てもらおうと思って。
あいつらの言ったこと、聞いてたでしょ? 気にしないの?
ああ、あの変な嘘? 君が女の子だってことくらい、見ればわかるのにね。
・・・嘘じゃないとしたら?
え?
自分では女だと思ってるからこの格好してるんだけど、そんなことあいつらには通じないしね。君も、あたしが変だと思うなら、無理しなくっていいよっ。
・・・・・・。
町の人たちの変な悪口が、嘘じゃない?
コペはどう見ても女の子だけど。
僕はつい、じっとコペを見つめて、そこで思い出した。
そういえば、聞いたことがあるなあ。南洋諸島の東部には、三つ目の性別を表す言葉があるって・・・
南洋? ああ、ベシワクの言ってたガトド島って、南洋諸島なのか。そんな遠くから来たんだ?
生まれたときに男とされた子が、女として振る舞い始めると、その三つ目の名前で呼ばれるそうだよ。君って、そんな感じ?
う~ん、どうだろ。三つ目って言われても、ピンとこないけど・・・
ガトド島は西部にあるから、東部のことはあまり知らないんだけどね。弟たちなら詳しいだろうな、あちこちの島によく出かけてるから。
弟がいるんだ?
うん、二人。君は一人っ子?
そうだよ。でも・・・十二歳より前の写真を友達に見せるとしたら、双子の弟って言い張るかも! 弟も友達もいないけど。
笑いどころみたいな顔で言うなあ。
ねえ、足をくじいてるんでしょ? 見せてみなよ。
コペはブレスレットの飾りをかかげて見せた。
これ、拾ってくれたお礼もしたいしね!