夜を知らない街アウルシティ
の片隅で起きた歌姫殺人事件

故人の幼なじみであり、親友
でもあるモニカ・ハリードは
保険調査を理由に、哀れな友
の母が天に召される前までに
憎き犯人を見つけ出さなくて
はならなかった

犯人は被害者の元カレ
であり、復縁を迫る為
にアパート付近をうろ
ついていたラリーか?

良き相談役であり、
被害者からの信頼を
得ていたはずの警官
パワーか?

はたまた、被害者に
一方的に恋焦がれ、
ストーカーと化して
いたダミ青年か?

謎解きは突如現れた夜の
解決屋ザム・ドレヴァー
に委ねられることとなる

ーーじきに夜が明けるわ

では、朝陽が射す前に私に
結論を教えて下さるかしら
ナイトウォーカーさん?

いいとも
ハナからもったいぶる
つもりはねぇよ。俺は
解決屋だからな

その前にだ、最終
確認させてくれや

言いながらドレヴァーは
マウスに手を載せ、カチ
カチとクリックし始めた

カチッ

キュン……!

現場写真に写っていた
ジョセフのぬいぐるみ
を見てドレヴァーの指
が一瞬だけ停止したの
を鋭いモニカは見逃さ
なかった

カチリ

パワーの供述を
読んでいる……?

「よっし。ンじゃ、お楽しみ
の解明編といきますかぁ」

満足そうに言うとドレヴァー
はモニカのほうへ振り返った

ズバリ言わせて
もらうぜ?

ミリゼル殺害犯は
ダミ・グリファン

……っ!!

? そこまで驚くか?
こいつも容疑者の一人
だろうが

え、えぇ! そうね
まったくもってそう
なんだけどーー

正直いって……最も
ノーマークな人物
だったというか……

賄賂横行、身内(警官)に
よる犯罪隠蔽だらけで、
腐肉よりも腐り切ってる
アウルシティ署でもよ、
今日明日にはこの結論に
辿り着く

俺の握ってる情報を
提供してやればな

そういえばあなた……
ダミのファイルを見て
チラッと動揺していた
ものね?

気付いてたか。ちゃんと
俺の挙動を観察していた
アンタは切れ者だな

……説明をお願い
私は推理物が昔から
大の苦手なの!

推理なんかじゃねぇよ
この件にまつわる必要な
情報をかき集めただけだ

「簡単な消去法だ」

ドレヴァーはすっかり
冷め切った珈琲カップ
を傾け、舌のすべりを
良くしてから語り出す

ラリーは自信家な単細胞。
人目もはばからず被害者
の周辺をウロついている
し、そもそも(金づるを)
殺すつもりなどはなから
なかっただろう

盗聴器にしたって、合鍵を
持ってるコイツが仕掛ける
としたら、音の拾いづらい
玄関じゃなく室内に仕込む
わな

なるほど……言われて
みれば確かにそうね

コイツは複数の目撃情報と
当日のアリバイの曖昧さの
せいで容疑者扱いされてる
だけだ

早急に金を用意する必要
に迫られてたこのマヌケ
が歌姫を殺すわけがねぇ
……よってラリーはシロだ

待ってよ! あなたは
ラリーが疑われてまで
証明しようとしない彼
のアリバイを知ってる
っての!?

解決屋はニヤリと笑うと
まさに犯行時刻にラリー
がとある地下賭博場にて
、大負けしていた事実を
告げた

その賭博は違法中の違法
で、ラリーが自身の潔白
を証明するなら賭博場の
存在を明かさねばならず
そうなると今度は元締め
の怒りを買う羽目となる

証明してもしなくても
八方塞がりか……気の毒
まじりの自業自得ね

夜明けまであと60分を
切ったか。となると俺
の時間も終わる。サク
サクいくぜ

パワーを疑うなど論外だ
彼は生前の被害者の立場に
最も寄り添っていた人物と
言えるからだ

ストーカーに怯える歌姫
に引っ越しと親との同居
を勧めたのもパワーだと
あったしな……

さっきチェックして
いた彼の供述ね……

その後号泣しちまって、
聴き取りにならなかった
らしいな
彼なりに被害者への情が
あったんだろうよ

…………

さて、お待ちかねの
ダミについてだが

気弱そうな童顔に騙され
んなよ? ラリーなんざ
比較にもならねぇ悪党だ

若く美しく、有名ホールに
抜擢されて輝かしい将来を
約束されている歌姫の存在
は誘蛾灯のようにさまざま
な者たちを魅了する

ファンや信者。それから

彼女を我がものとするため
ならば手段を選ばぬ悪党も
知らず知らずのうちに引き
寄せていたーー

ーーダミはひとり二役
を演じていやがった

なるたけ姿を見せず、しかし
粘着性のあるストーカーと、
それに対応する警官役を巧み
に切り替えていたんだ

……??

いやいや! それは
おかしくない!?
だってミリィの相談
役はパワーだった筈
でしょう?

相談役がひとりなんつぅ
決まりはねぇ。ダミはな
パワーの隙をついて巧妙
に接近していったんだ

隙……?

おそらくはこんな風な
ことを言って、相手を
油断させると同時に、
釘を刺したんだろう

『さぞかし不安でしょうから
パワーが非番の時は代わりに
自分が巡回を強化するし相談
にだって乗りますよ』

『ただし、この件はくれぐれ
も内密に。パワーにもね?』

『万が一にも上に情報が漏れ
たりしようもんなら、相手が
有名な歌姫だからといって、
ふたりがかりとは何事だって
大目玉を喰らっちまう』

ああ!? 
そうか……非番!

あの、わざとらしく映って
る制帽を見た瞬間にピンと
きてなぁ。くくく……っ

レストラン「アドリア」の
塀の高さは190センチ位、
ンで、パワーは2メートル
超えの巨漢だ。つまり……

絶対にこんな映り方には
ならん。これじゃ圧倒的
に身長が足りてねぇんだ

制帽の高さをマイナス
するとこの人物の身長
は170〜80程度?

……丁度ラリーやダミと
おんなじぐれぇだな
二人はよく似た体型だ

……まさか……

抜け目のないダミの野郎
は事前に調査済みだった
んじゃねーのかな?

スケープゴートにするには
ピッタリな、“体型も偶然
似通ってる”元彼ラリーが
好都合にも歌姫のまわりを
ウロウロしていることを

たとえヘマをしでかしても
奴にすべてを押し付けて
しまえば無問題

ダミはあちこちで姿を目撃
されているラリーを隠れ蓑
にして、やり過ぎない程度
のストーキングとニセ警官
の役を上手く両立させた

つきまとうラリーと姿なき
ストーカーの二重の脅威に
ミリゼルはすっかり参って
しまい、ふたりの警官に頼
らざるを得なかった

しかし

少しずつ、少しずつ違和感
を感じ取っていたはずだ

彼女を苦悩から解放するべく
常に真摯に向き合い、有益な
助言を与えてくれるパワーと

親切なフリをしながらじつは
不安を煽る言動を繰り返す、
にやけた顔の男の落差に

俺としては「この大きな
警官さんは信用できる」
が引っかかった

考え過ぎと言われりゃそれ
までだが、相談役がひとり
なら「パワーって警官さん
は信用できる」でよくね?

「この大きな警官さんは」
の対比として「この警官
さんじゃないほうは信用
ならない」が底に隠され
ているような気がしてよ

ふぅむ……
その読みが大正解
だったと

…………

盗聴器を仕掛けたのも
やっぱりそいつ……ダミ
なのかしらね?

だろうな

回収しとかねぇとアシがつき
かねないそれらを、なぜ奴は
残していったのかーー
それはおそらくこんなことが
起きたからだと思うぜ?

ーーその日のダミ・グリファン
の行動はまさしくパーフェクト
だった

道路工事による迂回をも計画に
ちゃっかりと組み込んでやった
のが万能感に拍車をかけた

意識高い系のレストランが監視
カメラを設置しているのは以前
から知っていた
塀に沿ってピッタリ歩けば顔は
映らず制帽は映る

そう、ラリーと等しい身長ゆえ
に取れる姑息な手口だ。だが、
真っ先に疑われるのは復縁目的
でウロついていたあのマヌケに
違いない

コンコン……カチャッ

勝手知ったるドアを開け、奥へと
声をかける前に靴の箱や花瓶裏に
仕掛けた盗聴器の回収にかかる

入れる範囲がここまでだったので
取り付けに時間のかかる物は設置
できなかったが、もし発見された
としても同じ条件下にいたパワー
へ疑いを向けさせることも可能で
あろう

もう盗聴器に用はない

引越し期日は差し迫っており、
パワーの非番はその日までない

つまり、追い込みをかけるなら
今日を除いて他になかった

ダミはさらってでもミリゼルを
自分のものとするつもりでいた
歌姫の儚げな美貌にはそれほど
の価値がある

ところがーー

声をかける前に現れた歌姫は
見たこともない憤怒の形相を
浮かべているではないか

おまけに盗聴器を探って
いるところをバッチリ見
られていてはもはや何の
言い逃れもできない

『前々から怪しかった』
『あなたがストーカー
だったのね』
『パワーさんに話して
対処してもらう』

相当頭にきていたのだろう

か弱い小鳥らしからぬ激しい
口撃にニセ警官はタジタジと
なるも、遂に本性を明かして
お得意の手を使ってこの場を
収めようとしたが事態はます
ます悪化するばかり

……っ

そこで活きてくるのが、
ダミの正体を知り尽くす
羽目となった歌姫による
ダイイングメッセージだ

警官になり済ました

裏の顔を持つ奴が犯人
なのだとーー!

両手で顔をおおっていた
モニカはそこでようやく
こちらに目を向けた

う、らの顔……?

画面向こうからこちらを
見つめる目に邪気はなく
その辺にいくらでもいる
、ごく平凡な青年としか
思えなかったのに……?

奴はああ見えて、やり手
のプッシャー(麻薬密売
人)だ

俺はとあるツテから
その情報を入手して
いてな……

奴さん、今までに一度も
警察機関にマークされた
ことがないばかりか、真
の姿を気取らせるような
ヘマをしでかしたことも
ねぇ

だが、今回はとうとう
やっちまったよなぁ

ヤクで歌姫を骨抜きにして
拐かす予定だったんだろう
が、予想外の抵抗に合い、
カッとなって思わずナイフ
を振り上げちまったのさ

……なんてこと!

モニカはふたたび
顔をおおった

それがミリィの命を
奪った事件の全貌と
いうわけね……!

かわいそうなミリィ
どうか、彼女の魂が
死後まで苦しむこと
のないように……!

…………

悲嘆に暮れる彼女を見下ろす
解決屋の眼差しはどこまでも
冷静だった

! もしかして、ダミの
奴が自首したのは減刑の
ためだったりする!?

ハッと顔を上げてドレヴァーに
詰め寄る保険調査員の目尻には
もう涙は光っていなかった

それと、ポリスにプッシャーで
あることがバレていないんなら
いてぇ腹を探られる前に先回り
して、ちょっとした出来心での
ストーキングを理由に出頭して
おいたほうが、凶悪な殺人犯像
と結び付けづらいと考えたのか
もしんねぇな……

そ、そんな……!
そんなのって……
許されない!

安心しろ。解決屋の面子
にかけてでもこの事件を
円滑に終わらせてやる

俺にゃとっておきの
武器があるからな

ドレヴァーは懐を漁って
取り出したものを訝しむ
モニカへと突きつけた

ん。コレ

……?
電話が何か?

コレが俺の強力な武器だ

アウルシティの隅々まで
知り尽くしている、情報
蒐集屋のサラマンドーと
繋がる唯一の手段だ

奴にいま猛スピードで、
裁判で有効な物的証拠や
証人を集めさせている。
揃えばそいつを署に提供
する予定だ。俺名義でな

おっどろいた……!
人脈の濃さもさること
ながら、いつそんな人
と連絡を取っていたの
よ!?

アンタがラウンジで
ひと休みしてる間

あー……

ハッ!?

そうだ……私、シシー
を迎えにいかないと
彼、きっとアパート
で寂しがっているわ

……とにかくこれで
解決だ。ンじゃ、
俺は速やかに退散
させてもらうぜ

えぇっ!?

ちょっと待ってーー
あなたにまだお礼も
何もしてないのにっ

電話。鳴ってるぞ

ドレヴァーへ伸ばしかけた
手を引いて、おそるおそる
デスクを振り返ったモニカ
の瞳に映ったのはーー

“病院”

ーー表に出てみると風はまだ
夜風の温度で肌に冷ややかだ

ひとつ息を吐き、歩き出した
ドレヴァーの右足にスルリと
しなやかな感触が纏わりつく

……?

……オマエか。
いるんだな?

現実感を伴う姿こそないけれど
その動きやぬくもりは生きた猫
そのものであった

数日前から夢や現を行き来して、
ドレヴァーの脳内には見知らぬ
高層ビルを描き、顔や手を舐め
回しては何かを催促する透明な
カタマリ

実際に実在するモールビルの前
に立ち(夢の場所を突き止める
くらいドレヴァーにとって朝飯
、いや、夜飯前だ)足をグイグイ
と押されるがままに入り込んだ
部署に答えがあり関係者もいた

……シティ1の解決屋に
主人の仇を討って欲し
かったんだろ? なぁ
これで満足か?

……シシー

激しく揉み合う二人の足元

不安がってウロウロするシシー

『邪魔だ! くたばれ!』

……!!

『ああ、シシー! 私のシシー!』

…………

解決屋は深いため息を吐く

歌姫ひとりが刺された割に、
現場写真に写った血の量が
多かったこと

被害者の刺された部位から察
するに、彼女が何かにおおい
かぶさっていたと考えられる
ことーー

それらが示す答えはひとつ
しかなかった

親友たるモニカもやがて、
この残酷な結末を知ること
になるだろう

怖かったな?
辛かったな?

自分のせいで主人が
死んじまったと思っ
ちまったんだよな?

だからミリゼルと一緒に
逝かずに、ここに残って
仇討ちをしたかったんだ
ろう?

もういいんだ。全部終わっ
たんだ

ほらーー行け

足元の感触をそっとどける
イメージを送ると一瞬だけ
在りし日の姿が見えた気が
した

すらりとしたシルエットが

明け始めた空へと昇ってゆく

モニカ〜グッモーニン♡
アンタったらまた早朝
出勤してたの? これ
で三日連続ーー

……モニカ……?

な、泣いてるの……?

謝辞的なもの

このおはなしは最&高に
愛らしい警官猫ジョセフ
を使いたくて作りました

後半は答え合わせばかり
でジョセフのキャラコン
をほとんど登場させられ
なかったことが悔やまれ
ます……(TT)

作者様の素材提供、及びに
ここまで読んでいただいて
ありがとうございました!

〜今度こそThe.End〜

夜事件〜解明編〜

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