フェリックスとワトリーが、
黄昏時の柔らかな光の中、再びそのピアノ教室の扉を開けた。教室には暖かい音楽が流れ、
壁には楽譜が並んでいた。
フェリックスとワトリーが、
黄昏時の柔らかな光の中、再びそのピアノ教室の扉を開けた。教室には暖かい音楽が流れ、
壁には楽譜が並んでいた。
こんにちは
フェリックスが言うと、ピアノの隣で生徒に
指導していた先生のマリアンヌが振り返った。
昨日は申し訳ございません。
間違えて、すみませんなのだ
まだ何か用ですの？
はい。ミミちゃんの失踪のことで気になる事がありまして
今はレッスン中ですので、
終わりましたらお話できます。
わかりました。
ここでお待ちしています。
やがてレッスンが終わり、
教室に生徒はいなくなった
ミミちゃんの件ですね。
なにかありましたか？
はい。実はミミちゃんのパソコンを調べましたが、これといって
気になるメールのやり取り、
検索履歴はありませんでした
そうなんですね。それが何か？
マリアンヌは腕を組み、
警戒の色を隠せないでいた。
はい。スケジュールも確認しましたが、誰かと会っている様子も
なかったのです
そうですか
フェリックスはじっとマリアンヌの目を見て
スケジュールには、ピアノ教室、あとは友達との予定が書いてありました。そしてピアノ教室には週１回のところを最近は週２回になっていたのです
この前もお話しましたが、
最近は歌のレッスンも受けてますから、週２回に変更したんです
そこで疑問が浮かびました。
ミミちゃんのパソコンからは、
あなたが言っていた、人間のエドワード・ランサムの検索履歴は
一切出てこなかった
ミミちゃんの中学では、
人間の世界を検索しないように、パソコンには制限がかけられていたのだ
そ、それが何だと言うの？
では、人間のエドワードについてどのように情報を得たのか？
フェリックスは一歩踏み込み、
冷静に言葉をかけた
ミミちゃんにエドワードの事を
教えたのはあなたですね。
な、何を言っているの？
マリアンヌは急に視線を逸らし、
その声は明らかに動揺していた。
それでは、ミミちゃんがなぜ歌が上達すればエドワードに会えると信じていたのか、教えてください。
フェリックスの声は静かだが、
その中には鋭い探求の意志があった。
あなたがそう
教えたのではないですか？
その言葉に、
マリアンヌの目は大きく揺れた。
しかしマリアンヌは言い返した
ちょっと失礼じゃないですか
何を根拠にそんなことを
おっしゃてるの？
昨日あなたのパソコン画面を
確認しました。ほんの数秒間
エドワードがパソコンのトップ
画面に映っていた。
ボクがちゃんと見たのだ
そしてミミちゃんのパソコンにも同じように、パソコンを開くと
ほんの数秒間、エドワードが映るようになっていたのです。
これは偶然でしょうか？
フェリックスの質問は、マリアンヌを
一層追い詰めていた。マリアンヌは動揺を
隠せずにいたが、震える声で
．．．
確かに、ミミちゃんに人間の
エドワードのことを教えました。
でも失踪のことは何も知りません。黙っていたのは、人間の歌手の事がバレたら私が疑われるかもしれないと思ったからです
フェリックスは一歩も引かず、マリアンヌの目を直視したまま、さらに問いを投げかけた。
なぜ歌が上手くなれば、
エドワードに会えると言ったのですか？
その質問に、教室には重苦しい沈黙が流れた。
あれは、ミミちゃんとエドワードの話をするのが楽しくてつい
言ってしまったのです
本気でそんなこと言ってません
フェリックスは彼女に一歩近づき、
静かに言葉をかけた。
あなたの言葉を本気にして、
ミミちゃんは人間の世界に
行ったのかもしれないんですよ。
そんな．．．
マリアンヌの言葉は途切れ、
彼女は言葉を詰まらせながら涙を浮かべた。
つづく
