ふたりは焚火を囲んでいる。
様々なライブパフォーマンスを即興で行うふたりは、難なく火を扱える。
良い子の皆はキャンプ場のルールに従おう。

単なる炎に見せかけて、着火剤をふんだんに使った人工的な炎だ。

自然に生まれた現象は時々、人に対して残酷だ。
人の手に制御されるべきだ。

あるいは、人工的に生みだされたものほど、原始的な純粋さを秘めているのかもしれない。

炎を見ないのか


葵は、自分の見ていたスマホの画面を、茜の方に向ける。

明後日のライブの打ち合わせをしたいので
できるだけ早く帰ってきてください

プロデューサーから届いてたよ……

……あいつがどう言おうと
私たちのしたいようにする

……うん

茜には分かっている。
プロデューサーは茜と葵を縛りつけたいとは思っていない。
むしろ、茜と葵を自由にしたいと……

自由を恐れているのは茜と葵(自分たち)であることを、思わずにいられない。

ふん
……だったら 何だっての

茜?

……茜 だいじょうぶだよ


急に頭を撫でるな

ごめん ううん
……大丈夫

ここには誰もいないよ

……そうだな

焚火はぱちぱちと火の粉をあげ、薪の上に堂々と輝いている。

ふたりは炎を見つめ、『その時』が来るのを待っている。

加減がわからない……

『軽いやけどで良かったね』と唱えるとうまく焼けるらしい

……てきとうインターネット よくない……

なぜインターネットの情報だと知っているんだ?

……

……

……『軽いやけどで良かったね』?

そろそろ火から出すぞ


とうもろこしは、ひげや皮が真っ黒になっている。

こげてる……かも?

私を見るな 私に聞くな

……はむ

あつっ

……味は?

もぐ…………もぐもぐ……もぐ…………

……私もいただくか


山は、ふたりぶんの静寂を見守っている。
身を寄せあえば雨風を凌ぎ、近すぎては根が絡まって倒れてしまう。
今、丁度いい時間がゆるやかに過ぎていく。

 

~終わり~

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