青い空に白い雲!

観光客が投げてくれる
エサ狙いのカモメ!

千駄木幸治

……ウゥップ……

そしてフェリー名物〈船酔い〉!

味噌川警部

おぅ、千駄木君
船尾のほうにいたん
じゃね。探したよ

千駄木幸治

ウプッ……ウププ……プ?
(訳:揺れが凄いですね
まさか時化ですか?)

味噌川警部

ははっ! まさかまさか!
こんな波を時化ゆうてたら
君、本物の嵐に遭遇したら
口から泡吹いて、ひっくり
返ってしまいそうじゃの!

千駄木幸治

ププゥ……プププイ
(訳:さすがは外海)

味噌川警部

で、大丈夫そうかね?
男なら気合で治せ言いたい
ところじゃが、もしも我慢
できそうにないならーー

???

くっ……ははは!

味噌川警部

うん?
そこで笑とる方は
どちらさんかな?

???

ああ、すいませんねご老人
いやね、船酔いは三半規管
が強いか弱いかですから、
気合で治せみたいな根性論
はよしたほうがいいスよ

味噌川警部

そ、それもそうじゃな
いや、ご指摘痛み入る

千駄木幸治

何だろう……言っていること
は正論だし、ありがたくも
あるんだが、別に僕のため
に口をはさんでくれたわけ
ではなさそうだ……

千駄木たちが今から向かう孤島
〈あまくに島〉への唯一の渡海
手段であるフェリーの甲板にて

地元民には見えぬその男がやけに
シニカルな目付きであたりを観察
しているのは何となく気になって
いた

ふいに口をはさんできたのも、
味噌川警部を暇潰しにやり込めて
やろうという意地の悪さが透けて
見えるのだ

味噌川警部

ーーところでなアンタ、煙草は
やめときんさい。このフェリー
は去年から全面禁煙なんじゃよ

???

はぁ?

???

田舎の人にはあんまし見分け
がつかないだろうけど、コレ
煙草は煙草でも電子煙草なん
スわ。わかります?
通常の煙草と違って、喫煙が
許可されてる場所も多いーー

船長

失礼します
このフェリーは電子煙草も
禁煙の対象ですけん、吸う
のは遠慮してもらえますか

???

ーーチッ

???

……りょうかーい
こりゃ、俺の分が悪いっ
スね。皆様失礼しました
っと

男はせせら笑いを浮かべながら
ブラブラと船内へ戻っていった

味噌川警部

無意識に意地悪い言い方
になってしもうたな……
千駄木君の具合が悪いっ
ちゅうのに更に空気まで
悪くしてしもうてすまん

船長

気にせんで下さいよ
ルールはルールなん
ですけんな!

千駄木幸治

気にしないで下さーー
ってあれれ? 答える
順番おかしくない?

船長

細けぇこたぁ気にすんな
それより、あと30分程で
あまくに島に到着します
降りる準備をしなされ

味噌川警部

はいはい、お世話様でした
千駄木君、まだ吐き気がする
んなら薬を用意してあるが?

千駄木幸治

お蔭様でだいぶ楽に
なってきました……
グフッ、グプタッ

味噌川警部

そりゃ良かった(グプタ?)
じゃあ船首のほうへ行って
みんか? 島を拝んでみよ

千駄木幸治

おー……

と、一応歓声をあげてみたけれど
グングンと間近に迫ってくるのは
大きくも小さくもない、何の変哲
もなさそうな島影であった

小さな港には米粒のような漁船が
沢山停泊しているのが見て取れる

味噌川警部

おぉ〜良い潮風だ
なつかしいのぉ

味噌川警部

親戚がおったで、ガキの時分は
漁船に乗せてもろて、たびたび
遊びにきとったんよ
これから向かう天道家も遠戚筋
なんじゃ。交流はなかったがな

千駄木幸治

…………

千駄木幸治

味噌川警部は鬼つるり事件で
再会した時とはガラリと意見
を変えて、遠戚の法要にただ
付き合ってくれるだけでいい
なんて言い出したけど……
本音は、警部として僕に協力
して欲しいんじゃないかな

御手洗一輝

絶海の孤島へ七日に数便しか
出ないフェリーで行く?
君が一族間の因習と世襲制度
に巻き込まれ悪魔がフルート
を吹いたり、意味深な手毬唄
を聞かされたりする様が目の
裏に浮かぶようだまったく

梨元正義

あ〜……今から香典の額でも
聞いといたほうがいいかも
しんねぇなぁ千さんよ
おめぇさんはどーせ、二回
十回は死にそうな目に遭う
んだろうからよぅ

隣人たちの心温まる対応を涙
まじりで回想しているうちに
フェリーはいつの間にやら港
の桟橋に到着していた

味噌川警部

千駄木君、足元に気を
付けて。忘れ物はない
かね?

千駄木幸治

は、はい……えーと……
うん、大丈夫そうです

船長

すっとろい兄ちゃん、降りる
のはおまさんで最後じゃよ
陰惨な事件に巻き込まれない
よう、せいぜい気を付けり

千駄木幸治

どうして会う人会う人
全員敵属性なわけ?

???

スッ

先ほどの男がこれ見よがしに
電子煙草を吹かしつつ、横を
すり抜けていく

その足取りには迷いがなく、
数少ない観光客たちとは逆の
方向へ消えていった

味噌川警部

さーー我々も向かおうか
此度の訪問先へ

心なしか、島に降り立った
瞬間から味噌川警部が緊張
しているように思えた

千駄木幸治

タクシー……
(勿論)呼びます
よね?

味噌川警部

そんな便利なもんは
ここにゃ存在せん!

千駄木幸治

え……え? な、なら、
何で天道さんのお宅へ

味噌川警部

徒歩じゃ!!

味噌川警部

安心せい。今からだと
18時ぐらいにはたどり
着く!!

ただいまの時刻

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