舌切り雀はたとえ羽ばたけなくとも

1話
舌切り雀が弱いとは限らない

昔々あるところに、とんでもない嘘つきの女がおりました。

旦那さま旦那さま。町へ買い出しに行くので小遣いをちょうだいな。

無駄遣いせんといてくださいよ。

豪遊! 豪遊!

わはっわはっはわーーーーーーー!

まぁ~~~♡ 新作の衣装だわ! お足もあるし買ってしまいましょう!!

どことなく神々しく、翼まで生えているように見えました。

素敵素敵~~~♡

あっ 食料買うの忘れちゃった。

まあいっか。ルン♪

ヤバい女だったのです!

雀(チャオ)さん、お願いしていた食料はどうしたんですか。

途中で落としちゃった!

その見たことないほど豪華な服は何なんですか。

親切な人からもらっちゃった♪

その上、しらを切るのです……!

当然婿も、家の者も黙ってはいません。抗議の声を上げます。

雀さん。それ以上の狼藉は許しませんよ。家を出ていってもらうことも考えて貰わねばなりません。

あら! いいんですか旦那さま。破談は外聞がわるうございますよ。

こんな小さな村ではあっという間に顛末が広がり。

四十路も間近のうだつの上がらない旦那さまに、新たな嫁の貰い手がつくかどうか!

おや、与作のとこの雀ちゃん。今日も元気に畑仕事かい? 精が出るね!

はい♡ 三郎さんもお努めご苦労さまです!

くぅ~~~いい嫁だ……!

外ヅラだけは良い女だったのです! 破談などすれば男の方が不利になってしまいます。

おほーーーーオホ、オー―ホッホッーーーー!

ああああ……

哀れ。このままヒルのように財産を吸い取られてしまうのでしょうか……

……

そのやり取りを影から見つめる婿の母親。かわいい息子のピンチです。

許せぬ。女狐め。その口先でどれだけの男をたぶらかして来た?

その舌がいかんのか? もう喋れんように、切り取ってやろうか?

ミシリ、ミシリ、皆が寝静まった丑三つ時。廊下を密やかな足音が伝います。

……

寝息を立てる嫁に、

!!

惨劇を知らせる音は、鳴りませんでした。

鎌は、布団に突き刺さったのみ。そこで寝ていた嫁は――

オホーーーお義母さま、運動ですか! エクササイズ!?

ちょっと朝のラジオ体操には早い気がしますが、いいですよ、ご一緒しましょう!

なんてことでしょう。
異変に気づき一瞬で飛び起きたのです。信じられないほどの察知能力です。

女はしたたかでもありました……!

お気に入りの服はつづらに大切にしまっちゃいましょうねえ~~~♪

雀さん、ちょっと手伝ってほしいけどこっちに来れるかい~~?

はーい。

わしなど、晴れの服一つも持っとらんのに。

義母は見ていました……!

許せん。売りさばいてやる。

あべべべべべべ

なんということでしょう! つづらに手を触れた途端、雷を受けたようにしびれあがってしまうではないですか。

ワナ ワナ ワナ ワナ

そんなものまで仕込んでおくとは、なんとしたたかな女なのでしょうか。

ホホーーーーーホッホッホッーーー!

そんなこんなで、どうすることもできずに財産をむしり取られていったのです。

続く

1話 舌切り雀が弱いとは限らない

facebook twitter
pagetop