それぞれがそれぞれの国にて〈2〉

 ほぼ同時刻。ハルトの国の隣の隣の国。またもやレンガ造りの古城の一室に、今度は姫とその世話係兼先生、かつ……。

クロエ

あぁ!もう嫌!結婚なんて嫌!絶対に無理ですわ!

フラー

クロエ……

クロエ

フラー……私は貴女と一緒になりたいのに……

 恋人が居た。
 クロウディエ・シエル・クラッケン姫、齢17。フラーラ・パール、齢19。二人は物心ついた時から惹かれ合う同士であったが、しかし、そのことはずっと秘密にしている。平和な世の中ではあるが、同性同士の恋愛には批判的な声もまだ多く、また姫は決められし結婚を控えているため、尚更公にこのことは言えなかった。

クロエ

うぅ……ハルト様は良いお方だと思うわ。でもね、無理なものは無理なの、わたくしは愛する人がいるのよ!それに……そもそも男性は苦手なのよ……!あぁもう!わたくしどうすれば……!

 感極まってポロポロ泣き出してしまうクロエを、フラーはそっと抱きしめた。フラーとクロエは頭ひとつ分ほど身長差があり、フラーの胸元辺りに、ちょうどクロエが顔を埋めることができた。

フラー

大丈夫ですよ、クロエ。大丈夫

クロエ

あぁ、安心しますわ……。ねぇ、フラー

フラー

どうしました?

クロエ

わたくし、その……もっと貴女が欲しいわ

フラー

まだお昼ですよ

クロエ

お願い……

 気丈なお姫様、クロエ。それは弱気な自分を奮い立たせるための、公衆の面前のための姿。フラーだけはそんな彼女の弱い部分を知っている。

〈つづく〉

それぞれがそれぞれの国にて〈2〉

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