20 歴史眠る古代の石塔 その1

ビエネッタ

ロバート。

ビエネッタ

ロバート!

ビエネッタ

ロバー――――――――

ビエネッタ

ぐう……ウグ……ァ……ぁ……

ビエネッタ

どうし……て

ビエネッタ

見殺しにした……の……?

ファンバルカ

ぐああああああああああ!……!

布団をはねのけ、飛び起きる。

ファンバルカ

ぐぅげ……うぷ……っ ガタガタガタガタ

ビエネッタ

どうしましたかファンバルカ様。

ファンバルカ

んぅ!?

覗き込む、見慣れた顔。

それは先程の悪夢。血に塗れた恐怖の姿と寸分たがわぬ。

――だが構わない。

ビエネッタ

その存在を確かめるように、固く、固く抱きしめる。

ビエネッタ

震えていらっしゃるのですか、ファンバルカ様。

ビエネッタ

わたくしは熱を持ちません。暖を求めて抱き寄せたとて無意味、素直に横になられたほうが

ファンバルカ

黙り……たまえ……!

震えは収まらぬ。それもそのはず、これは真似事。意味などない。

ただ意味は持たずとも――

ファンバルカ

うう……ううう……っ……っ

ビエネッタ

・ ・ ・

必要なのが今、であるならば――

その手を、そっと背中に回す。

ファンバルカ

!!

ファンバルカ

・ ・ ・

ファンバルカ

……暖は取れないんじゃなかったのかい?

ビエネッタ

これは学習です。ファンバルカ様が何をなさっているのかを。

ビエネッタ

それをこの手で、感じるために。

ファンバルカ

そう……何か、わかったかい?

ビエネッタ

ファンバルカ様の貧相な背骨の形が。

ファンバルカ

ふふ、ふ……ククク……

それは本物の抱擁ではないのだろう。だが、本物でないならなんだと言うのか。

気の抜けたやり取りを行いつつ、ファンバルカの心は確かにやすらぎを得ていた――

ファンバルカ

んぅ!? ちょっと、あれ……?

ファンバルカ

ちょっと痛くなってきたよ……

ファンバルカ

いや、ちょっとじゃない! だいぶ! 万力! 僕は今、万力で挟み込まれている……!

ビエネッタ

熊すら押しつぶすこの腕力が恨めしい。わたくしは、豆腐を包み込む繊細さなど持ち合わせていないのです。

ファンバルカ

それ僕のこと言ってる!? 嘲りを受けながら押しつぶされる……! どんなシチュエーションなのこれ……!?

ファンバルカ

さて――――

ファンバルカ

久々に役所の依頼も入っていない。

ファンバルカ

今日も遺跡探索と勤しもうじゃないか。

ビエネッタ

かしこまりましたファンバルカ様。

イーダーマウレッツの石塔

深い森の奥に隠された、古き時代の塔。

ファンバルカ

この遺跡は長らく誰の目にも留まることはなかった。

ファンバルカ

それが先日の地震で土砂崩れを起こし、木々の隙間から、姿を現した。

ファンバルカ

未踏の遺跡だ。何が眠っているか、今からワクワクするねえ~

ビエネッタ

眠っている? ゾンビやヴァンパイアの根城なのですか?

ファンバルカ

いや、眠っているというのは比喩表現だが。生き物とは限らない。

ファンバルカ

とは言え、そういうおどろおどろしい存在が待ち受けていたとしても。

ファンバルカ

それはそれで心躍るじゃないか。

遺跡探索の妙!

二人は石塔に足を踏み入れる――

続く

20 歴史眠る古代の石塔 その1

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